3話
そのとき廊下の方から足音が聞こえてきた。
これはチャンスだ、助けてもらうしかない!
と思った京だが、
「ま、待てよ、もしこんなところを見られたら俺の平穏な生活は、消えて周りから変人扱いされるようになるんじゃ…。それにこの状況をなんて説明すれば…」
近づいてくる足音。
「や、やばい!隠れないと!」
特にやましいことをしたわけでもないが、条件反射的にバレたくないと思った京は隠れようとする。
しかしここは教室。
周りを見渡しても身を隠せるようなスペースなどなかった。
京がいる教室と距離を縮める足音は、通り過ぎることなくこの教室のドアで止まった。
それと同時にガラガラッと京が凍らせた扉とは逆の扉が開いた。
「…………」
教室の光景が異様なのか、目にした瞬間ドアを開けた本人は一歩も動かない。
女の子だ。黒髪でショートボブ、軽く着崩された制服から見える身体は細く全体的に低めの身長だ。
中に人がいることに気づいたのか彼女は大きな瞳を見開いて京に目線を向けた。
両者目線を逸らすこと無くじっと見つめ合う。
まるで時が止まっているかのように動くことができない。
何分いや何秒間かの中、重なりあう視線を遮ったのは扉だった。
彼女が、この口にできないような重い空気に耐えきれなかったのか教室に入ること無く扉を閉め、その場を後にした。
「ちょっ…!!?」
京は右手を彼女に向けて止めようとするが、逃げられてしまった。
行き場を失った右手は脱力し床につく。
「さ、最悪だ…、見られてしまった。しかもあの七瀬小豆に…」
七瀬小豆。
先程この教室にやってきた人物だ。
京とは同じクラスで席が隣同士だ。2ヶ月経って京は彼女をリア充グループの一人として目にすることが多かった。
可愛らしい顔が人気なのか意外と他クラスの男の間でも有名で、京とは性格も人脈もクラスでの立ち位置も真逆な存在なのだ。
「終わった…。絶対周りの友達とかに言いふらされる。そして俺の平穏な生活は無くなるんだ…」
広い教室で一人ポツンと床に手をつく京は、最悪な展開が頭をよぎり溜息しかでない。
いつの間にか、凍っていた床とドアは氷が溶けていつも通りに戻っていた。