第6話「昼下がりのショッピング」
睦月 煉花です、という訳で日常回というやつなんですかね?次回はオルカノを旅立つのでよろしくお願いします。
前回のあらすじ。試練を終えた皐月、しかしアリアの調子が悪くなり、仕方なくグラニ宅に戻る事に。
アリアが良くなるのを待っている間、自称魔王のリリムから話を聞き何者かが世界の滅亡を企んでいる事が発覚する。
追っ手である漆黒の剣士から自分の身を守るついでにリリムも守る事を約束した皐月…その時、突如精剣アリアから煙が吹き出したのである。
「じゃあ、グラニさん達にも見えるし聞こえるんですね?」
「はい、赤い髪で…」
「ええ、青い目の…」
「うん!綺麗な人!」
火の試練で力を得たからか、姿を現わせる様になったアリアは腰に手をあて自慢気に立っていた。
「そんなに褒めないで〜、やっぱり姿形があるというのはいいものね♪」
「でも物に触れる事ができないんだよな?」
皐月の一言に笑顔がピシリと固まり、そのまま座り込みいじけてしまうアリア。
「何じゃこいつは…、それよりお主、早くこの国を出て行かんとまた追っ手が来るかもしれんぞ!」
「それもそうだけど、その前に旅の準備をしたい。食料と調理器具に荷物を持ち運ぶリュック、地図もあるなら欲しいし、精剣を抜き身のまま持ち歩くのも危険だから鞘とベルトもいるな」
幸いなことに資金は潤沢にある、問題があるとすれば何処に何が売っているのかわからない為、買い物に時間が掛かるということだ。
「ねぇサツキ、だったら手分けして買い物しない?私とグラニで鞘を買いに行くから、サツキとリリムちゃんは食料と他に必要な物を買いに行くってのはどう?それぐらいなら買えるでしょ?」
「俺は構わないけどグラニさんはいいんですか?」
「構いませんよ、サツキさんは一家の恩人ですから」
アリアの提案にグラニも賛成してくれたので資金を分け、アニーとマリーは留守番でアリア騒動の後片付け、皐月一行とグラニは昼下がりの市場に買い出しに出掛ける事となった。
「この大広場を試練場方面を北とするなら、いま来た西の方角が居住区、南が商業区で食料や必要な物はそこで売っています。東には鍛治場や灼血病の研究所があるので俺とアリアさんはそちらに向かいます」
国の大まかな説明を受け大広場で二手に別れる、買い物が終わったらまた大広場に集まる事にした。
「さてと食料を買いに行くとして、歩きながら色々聞いてもいいかな?」
「それはよいが…なぜ手を繋いで歩くのじゃ?!」
「なぜって、リリムが迷子にならないようにだろ?」
「妾は子供ではないぞ、迷子などになるか!」
見た目が完全に子供のリリムが手を振りほどこうとする。
「別に離してもいいけど…はぐれてる間に追っ手に連れ去られても知らないよ?」
「…!そ、それもそうじゃな。よかろう、妾の手を握る事を許してやる!」
皐月の言葉に声を震わせ、逆にリリムの方から手をしっかり握る事を要求してくる、皐月はその要求に答え手を握る。
「それで聞きたい事があるけどその前に自己紹介、俺は如月 皐月」
「如月 皐月か…その名は『ヤパン』で使われてる『漢字』とやらで書くのだな?」
「ちょ、いま漢字って言った?!」
「うむ、ヤパンには転界者が多く集まり独自の文明を築いた街があるそうだ、この世界の技術発展や文明の躍進に貢献した者の多くは転界者だからな」
皐月の聞きたい事リストがかなり増えた。
「なるほどぉ、リリムはこの世界のこと詳しいそうだね」
「当たり前だ、魔王たるもの博識でなくてはならないからな!」
「じゃあ博識な魔王様に色々教えて欲しんだけど」
「魔王様…!むっふっふ、よいぞ!なにが知りたい、妾が特別になんでも答えてやろう!」
魔王様と呼ばれて上機嫌ではしゃぐリリム、その姿は本当に子供だった。
「まずは精剣祭の詳しいルールを教えてくれる?」
「そのぐらいお安い御用だ。精剣祭ではまず精剣使いが百人と魔神の力の一部を与えられた魔物が一人選ばれる、今回その力を与えられたのが妾という事じゃ」
「火の試練場には五分の一の精剣使いがいたんだ」
「そうなるの、精剣使いは各地の試練を巡り、魔王を倒す力を身に付けるわけじゃ。中央火山大陸オルカノ…ここには火の試練、東の自然大陸エルターンには風、水、地の三つの試練、南に聖雷大陸キアロ、光と雷の試練があり、そこにはこの世界で一番発展した王国がある」
「バーガンとアルスが言ってた大陸の名前だな」
「西には四季大陸ヤパン、さっきも言ったが転界者が多く集まる場所、風景が美しく春夏秋冬がハッキリと分かれた大陸でここには闇の試練がある」
(四季…ヤパン…まさかな?)
「最後に北の大陸、我が魔王の居城にして精剣使いの終着点、魔神の封印された神殿がある大陸、名も無き大陸だ」
「五大陸で構成された世界なのか、全部巡るのは大変そうだ…、ところで今回の精剣祭だけどリリムが魔王なんだよな、やっぱり最後にはリリムを倒すことになるの?」
「物騒な事を言うな!魔王と精剣使いが神殿で闘い、魔王が負けを認めれば精剣祭は終わる、それに…魔神の力のほとんどを奪われた妾が未だに魔王として扱われているのか分からん…」
しょんぼりとするリリムの握る手に力が篭る。
「魔王じゃないならそれでいいんじゃない?」
「なっ、何を言うか!!魔王という役目は魔物達にとって誇りそのもの、運良く巡ったその誇りある役目を引きづり降ろされたのかもしれんのだぞ!」
「でも一歩間違えば死ぬかもしれないし、みんなから何もしていないのに倒すべき存在として戦いを挑まれるんだろ?そんな役目俺は嫌だよ」
「………」
何も答えないリリム、気づけば市場にたどり着いていた二人、様々な食材が売られている市場をゆっくりと見て回る。
「結構普通の食材が売られてるよな、異世界だから変な物もあるのかと思った」
「昔はこんなに食材が豊富だったわけではない。最初の精剣祭で生態系が変わり食物が激減、その危機を打破するために二回目の精剣祭の願いで異世界から食物を大量に輸入したのじゃ」
「それで俺の知ってる食材が多いのか、他にどんな願いが叶えられたの?」
「金持ちになりたい、異性にモテたい、この世の誰よりも強くなりたい等個人的な願いがほとんどじゃが…
異世界の物を召喚したいという願いもあった、おかげでこの世界にはよく異世界の道具や住人が現れるようになった」
(この世界じゃあ異世界転生ってポピュラーなのか…)
話し終えた二人は買い物を始める、次の街までどれくらいの旅になるか分からないので傷みやすい物は買えない。皐月はジャガイモ等の根菜類に干し肉、乾麺と瓶詰めされたトマトソースと塩胡椒などの調味料をいくつか購入した。
「卵はパックじゃなくてネットに入ってるのか…、火を通せば何日かは保つだろうし六個入りを買っておこう」
「ふむ…飽きた!早く買い物を済ませ何か食べに行くぞ!」
「えぇ!?さっきアニーの料理をたらふく食べてたよな?」
「小腹が空いたのじゃ!そろそろデザートの時間じゃぞ!」
「デザートか…ちょっと待って、リュックを買ったら何か探そう」
「むうぅ、急げ皐月よ…妾の腹は甘い物を求めておる!」
皐月は購入した物が入った紙袋を片手に持ち、もう片方でリリムの手を握ってリュックを探す。すると旅用品専門店の文字が見え、その店に入ってみる事にした。
「へぇー、テントに薪に鉄製のマグカップ…色々あるな」
「そんな物よりリュックを探さんか!」
「探してるよ、でも旅の必需品がいっぱいある!外で食事をする時に食器はどうするの?まさか手づかみで食べるわけじゃないよね?」
「ぐっ…妾がそんな下品な事をするか!そんな事は知性の低い動物か魔物しかしない!」
「ならもう少しだけ待ってて、すぐに終わらせるから」
「…早くせよ!」
渋々了承したリリム、まるで母親の買い物について行ったのにバーゲンセールや化粧品など自分に興味の無いものばかりを買っていて、つまらなくなった子供のようだった。
「どれも鉄製、あまり買うと重たくなるな。食器類一式を人数分、それとフライパンに鍋と薪を買って…あっ、あった!全部入れるとなると少し大きめの…このリュックがいいな」
一通り選び支払いを済ませる為に商品をレジに持って行く、レジに立っていたヒゲを生やしたおじさんが会計をする。
「いらっしゃいお嬢さん、随分と買うけど旅でもするのかい?」
「はい、精剣祭に参加していて…」
「精剣祭に!じゃあお嬢さんは精剣使いの護衛か付き人だね?」
(護衛か付き人?あっ!)
皐月は一瞬なんの事だか分からなかったが、いま自分が精剣を持っていないことを思い出す。
「えーと、そんなところです」
「やっぱりそうか、若いのに偉いね、そっちの小さい子は?」
「小さい?!妾は…!」
「あー!俺の親戚の子です!可愛い子には旅をさせよって事で!」
「ほぉー、その子も旅に出てるのかい?大変だね〜」
事がややこしくなる前に話を進める、皐月はおじさんが相手という事でごく自然にある行動を取ってしまう。
「そーなんです大変なんです!私、精剣祭に参加するの初めてで、お金もあまりないけど必要な物は買わなくちゃいけないし…!」
「(なんじゃお主、急に声色を変えて…)」
「(いいから見てて…)ねえおじさん…私たちを助けると思ってこの商品を安くしてくれない?」
上目遣いで店員の目を見ておねだりする皐月、すると効果が現れる。
「あっえっ?や、安くかい?」
「ねっ、お願い!私たちを助けると思って!」
「い、いいとも!お嬢さん達が頑張るんだ、おじさんも頑張って安くしようかなぁー!」
そう言っておじさんは1万5000ジーストのところを1万ジーストにまけてくれたうえに荷物を丁寧にリュックの中に詰めてくれた。
「旅は大変だけど頑張ってね!」
「ありがとうございます♪では!」
店を出ると皐月をジーっと見つめるリリム。
「お主…いつもあんな事をやっておるのか?」
「ふっ、生きる故…致し方なく、そんな事より早くデザートを探そう!」
あらかた買い物を済ませた皐月たちはデザートを探しながら大広場の方に向かった。
昼下がりの大広場、そこは奥様同士が世間話に花を咲かせたり、仕事の終わった男連中が早めの晩酌に有り付いていたり、子供同士が楽しそうに追いかけっこをしている。
「この国は焼き菓子が豊富だったね」
「まったくなぜクッキーなのじゃ!この暑い中食べるデザートと言えば冷た〜い物に決まっておるじゃろ!」
(とかなんとか言いながらしっかり食べてるし…)
そんな大広場の端っこで椅子に座りクッキーを食べる二人。この国、と言うよりもこの世界では物を冷やす事は出来ても凍らせると言う事が難しいらしく、アイスクリームなどは王国の方でしか食べられないという。
「そうだ、今のうちにやっておこうかな…」
「ん、何をするのじゃ?」
「力の充電、多分…いま空っぽに近いからね。充電しなきゃ戦えないし」
「戦えない!?追っ手に襲われたらどうするつもりだったのじゃ?!早く充電とやらをせよ!」
(別に『ゼウス』の言ってたあの方法じゃなくてもできるよな…?)
皐月は手を合わせスリスリと擦る、すると皐月の内側でビリビリとした感覚が大きくなっていく。
「よし!充電されてる、よかったー」
「そうか、ならばよい。さてと…」
リリムは最後のクッキーを口に放り込むと何かを取り出し読み出した。
「何それ?」
「そこで配っておった、この街で起きたことを書いたものじゃな。『精剣祭から1週間、火の試練に参加した精剣使いは今日で46人に』
『アルス王子がドラゴン級を斬り伏せる、今回の最有力候補の実力を発揮!』
『幻か!街の上空に超巨大の謎の生物が出現、しかしすぐに消え去る…』」
「なるほど、新聞みたいなものか…ってリリム、それは俺のクッキー!」
新聞を読みながら、なんの躊躇もなく皐月のクッキーに手を伸ばすリリム。
「いいじゃろ、腹に入る量は変わらんのじゃし?」
「俺の食べる量が減るんだけど!?」
そんなクッキー争奪戦をしていると、見覚えのある人物がやってきて皐月に声をかけた。
「ほっほっほっ、ずいぶん賑やかだなお嬢ちゃん、すまんが相席しても構わんかな?」
「あっアグニスさん、いいですよ、座ってください」
そこにいたのは大きなパイを両手で持ったアグニスだった。アグニスはパイを机にどっさり置くと椅子にどっしりと座った。
「よかったら食べてくれ、一人で食べるのはちと寂しいからな!」
「ほーう、良い心掛けである!では遠慮なく…」
「それでどうしたんです?まさか一緒に食べる為だけにここに来たわけじゃないですよね?」
「なんじゃお見通しかい…実は火の試練での事なのだがー、あの精剣霊は居らんのか?」
「いま知人と一緒に精剣を収める鞘を買いに行っています」
「そうか…あの精剣霊にも聞きたかったのじゃが、何、聞きたいのはお前さんの精剣霊が言っていた試練の内容だ」
「火の玉をぶつけ合ったりする…アレですか?」
「そう、あれは千年前の初代アグニスが第三回の精剣祭までしか行ってない内容で余りにも過激だから後世に伝わらぬよう、隠してきた事なのだ。しかしあの精剣霊は知っておった、千年も生きる精剣霊など聞いた事がない、なぜあの精剣霊は知っておったのか気になったのだが…お前さんは知っとるかの?」
「それは…」
言葉に詰まる、アリアが千年前の人間で気づいたら精剣になっていた上にちょっと瞑想してたら千年経っていたなんて言える訳がなかった。
「そうじゃお主確か…転界者だったな、ならこの世界の事もよくわからんじゃろ?」
「えっ、あっはい…そうだ!今この世界のことを聞いていて、精剣祭の事は聞いたんだけどそもそも精剣ってなんですか?」
咄嗟に話題を切り替える。
「お前さんの世界ではどうか分からんがこの世界には至る所に精霊が存在しており、精霊が宿った剣を精剣と呼ぶ」
「そうなんですか、…人間の魂が剣に宿り精剣になる事ってありますか?」
「人間が?そんな物見たことも聞いたことも無い、実在するなら見てみたいのぉ」
(じゃあやっぱりアリアは特殊なんだ…)
「あと二つだけ質問が、どうして俺が試練に合格したのか、それと合格した時に精剣に何か宿ったけど、あれで精剣がどうなるのか?」
「確かにお前さんに幻影の炎は現れんかった、しかしあれ自体はただ内に秘めた強さを測るだけのもの。精剣を持ち、あの舞台に立つことが合否の判定になっている」
「…そんなに簡単でいいんですか、精剣祭って世界中を旅して魔物や魔王と戦うんですよね?もう少しシビアでもいいんじゃ…」
美味しそうにパイを食べているリリムをちらりと見る。
「昔ならあんなに簡単にはしなかったろうな、しかし時代は変わった…魔神の影響も小さくなり、魔物も魔王も弱くなった。今では精剣祭のない時は元魔王の者たちと仲良く暮らしている所もある」
皐月のイメージしていた世界とだいぶ異なる、もっと殺伐とした世界を想像していた。
「それと、試練に合格したらその試練に対応した神術、が使えるようになる、個人によって性質は変わるがの」
「そうですか、ありがとうございます。ところで早く食べないとなくなり…ましたね…」
「うん?ほわっ!儂のパイが丸々なくなっとる?!」
「うむ!果実の程よい酸味と甘みが調和し、パイ生地はサクサクとした食感…実に美味であった!しかし喉が渇いたのー、皐月よ、飲み物を買いに行くぞ!」
その小さな体のどこにしまい込んだのか、リリムは自分の顔をよりも大きなパイを平らげ、満足そうな顔をしていた。
(この子…胃袋だけは魔王かも…)
「すみません!お代をお返しします!」
謝罪をしお金を払おうとする、しかしアグニスは怒るでなく大笑いしていた
「いやいい!見事なく食いっぷりだ、パイもジジイにモソモソ食べられるより可愛い子にペロリと食べられて幸せじゃろう!わっはっはー!」
「じゃあせめて飲み物だけでも買ってきます、何がいいですか?」
「そうか、ならお言葉に甘えて黄金色の炭酸水をご馳走になろうかの!」
「…?じゃあ買ってきますね」
リリムと手を繋ぎ飲み物を買いに行く、売店にてその飲み物がビールだと気づき、肌が赤いのはやはり酒のせいではないのかと皐月は疑った。
「それにしても遅いな二人共、てっきり俺たちより先にここにいると思ったのに」
懐中時計を確認してみる、この時計が正しければここに来たのが3時過ぎで今は4時半になっていた。
「ちょっと探しに行こうか」
「うむ…構わんぞ…」
目を半分閉じてかくりと首を揺らすリリム。
「もしかして眠い?」
「分かっているのなら…早くわたしをおぶらんか…」
眠気のせいか歳相応の喋り方になるリリムを微笑ましく思いながら、彼女を背負う。
「じゃあこれで、風邪をひかないようお体に気をつけて」
「大丈夫じゃ、なんたって儂は火の精霊王だからのー!」
酔って気分が高揚したアグニスと別れ、皐月は東の鍛冶場に向かってみた。
「すごい熱気だし、あちこちから鉄の音がする。アリア達はどこにいるんだろ?」
リリムを背負いリュックを前に抱え二人を探す皐月、鍛冶屋が集うこの区画は市場とはまた違った騒々しさがあった。
「…すー…すー」
「気持ちよさそうに寝てるなぁ…」
この騒音のなか寝息を立てるリリム、考えれば無理もない、何者かに襲われ力を失い、命からがら逃げ出したのに追っ手に追われて絶体絶命の状況に何度も遭遇した。肉体的、精神的に疲れ果て熟睡するのは当然だろう。
「こっちの方かな…、あれ?こっちか?ん、どこだ?」
街に詳しくない皐月、あっちに行ったりこっちに行ったり適当に散策している内に路地裏に迷い込んでしまった。
「まずい、完全に迷子だ…これじゃあリリムに何も言えないぞ…!」
どうにか元の場所に戻ろうとするが
「行き止まり、帰り道はどこですか…」
「そこの可愛い子ちゃん〜、こんな所でどうしたんだ〜い?」
「はぁ?」
声がしたので振り返ると3人組の人相の悪い男が塞ぐように立っていた。
「あの、そこを退いてもらえます?」
「そんなつれない事言わないでさぁ、俺たちと遊ぼうよ?」
「そうそう、いっぱい楽しませるからさ」
「てかぶっちゃけ拒否権ないから!」
(めんどくせぇ!テンプレみたいな奴らめ、とっとと痺れさせて帰ろう…)
皐月は軽く電気を流してこの場を切り抜けようとした…
「ギイヤアァァーーーー!!!!」
バァンッと3人の男の後ろから銃声が鳴り、1番太った奴が悲鳴を上げる。しかし血が出でいるわけではない、男の足元がカチカチの氷漬けになっていたのだ。
「安心してください、大人しくしていれば日没には溶けますよ」
男達の後ろには10代後半ぐらいの服装がどこか和風で後ろで髪を結った青年が銃口を男達に向けて構えていた。
「俺の足が…あぁっ!」
「なんだてめえ!何しやがったぁ!!」
ハゲ頭の筋肉男が後ろにいた青年に襲い掛かる、だが青年はそれを悠々と飛び越えて皐月のすぐ隣まで来た。
「話のわかる相手でないか…では、か弱き女子に手を出す不埒な輩にこの精剣の威力をお見せするとしよう!」
そう言って構えるのは銃にダイヤルの付いた見たことのない物だった。
「安心して、すぐに終わらせるから」
「あっはい…」
「ふざけやがって、何が精剣だ!」
「一人やられたが俺たちのコンビ攻撃は素人には見切れねぇぞ!」
ハゲ頭とリーダー格の小さな男が二手に分かれ攻撃を仕掛けてくる。
「じゃあ勝てるよ、だって俺は素人じゃないから!」
青年は地面に向かって一発の銃弾を放つ、地面は凍りつきツルツルになる。走っていた男二人は足を取られつるりと滑りこけた。
「痛ってぇ!なっ…コンビ攻撃が!?」
「こうも簡単に破られるとは…!」
「さあ!大人しくしているなら見逃すけど…どうする?」
余裕綽々の青年は銃口から登る冷気をフッとかき消す。
「くっ、覚えてろよ…!!」
壁に寄って道を開けてもらえる、皐月と青年はその横を通り元の場所に戻ることができた。
「ーーーあの、ありがとうございます」
皐月は青年にお礼をすると彼は振り返りにっこりと笑う。
「いやー無事でよかった、君みたいな可愛い女の子があんな路地裏にいたら、あーゆう輩に何されるかわからないから」
「すみません、人を探してて…彼方此方行ってたらあそこに」
「そっか…あっ、俺はカイム、ヤパン出身なんだ!」
「ヤパン…私は如月 皐月って言います。あのー、カイムさんのその銃でさっき人や地面が…」
彼は銃をホルダーから取り出して見せる。
「そう!気づいた?この世界じゃ初と言ってもいい物を凍らせることができる精剣なんだ!」
皐月はそれが気になったので聞く。
「それって見た目が銃ですけど…精剣なんですか?」
「そうだよ?精剣って色んな形があるけど、銃型は珍しいよね!」
(もはや精剣って呼ぶのを変えた方がいいだろ…)
「しかもこれはヤパンに居た転界者様が作った物で、さっき凍らせたのもその転界者様の技術のおかげなんだぜ!他にも機能があって…!」
目を輝かせて次々と喋るカイム、銃のデザインがいかに素晴らしいだとか、これを作った転界者は今は王国で活躍しているらしいとか色々話す。
「へぇー、あっそうだ、わたし人探しの途中で向こうも探してるかもしれないからそろそろ行きますね」
皐月はこのままこの青年と話していると日が暮れると察知し、適当に話を終わらせる。
「っと、それもそうですね。俺もここの試練を受けにきたんで」
「試練?それ今日のぶんは終わりましたよ」
「えっ?!ほ、本当ですか?しまった…」
「はい、また明日頑張ってください、では!」
皐月は別れを告げ、大広場の方に歩く。
「皐月さんも気をつけてーー!!」
皐月は振り返りこちらに手を振っているカイムに軽く会釈をして足早にその場を離れた。
「遅い!どこに行ってたの?」
皐月が真っ直ぐ大広場に戻るとアリアとグラニが待っていた。
「どこって二人がなかなか来ないから探しに行ってたんだよ、それより鞘は買えた?」
「もちろん!見て見て、この精剣にピッタリの赤色、装飾にも拘ってて、一見シンプルに見えるけどここにある青い石は『ブルーハード』と言って世界一固く幸運をもたらすと言われている縁起物なの!」
「そっか縁起物か、ところでいくらしたの?」
「それは〜、あー、アリアさん?」
「…!えーと、5万…?」
視線を逸らして指を三本たてるアリア。
「別に怒らないから、本当はいくら?」
「怒らないのね?よかったー、実は鞘自体はオーダーメイドだけど5万だったの、だけどブルーハードのこのサイズは滅多にない奴で150万もしたの!」
耳を疑った鞘に付いている百円玉ぐらいの小さな石が150万だというのだ。
「ごめんアリア、やっぱり怒…」
「これだけ大きければサツキの旅も安全で良いものになるよ、きっと!」
満面の笑みで皐月を見るアリア、その石がこちらを思っての事だと分かり皐月は一瞬で怒る気が失せた。
「はぁ、ありがとうアリア、大事に使うよ」
「ふふ、良い買い物ができた!」
グラニにから精剣と鞘を受け取りアリアと並ぶ。
「サツキさん、折角ですしお二人で写真を撮るというのはどうです?」
「それは良いわね!サツキ、撮りましょ!」
「わかった、じゃあグラニさんカメラで撮ってもらえます?」
リュックとリリムを降ろし、リュックの中からカメラを取り出す。
「ボタンを押すだけで良いので」
「分かりました、綺麗に撮って見せますよ!」
皐月は鞘を腰につけ精剣を構えたポーズをとる、アリアは両手を突き出しピースを作った。
「私もやってみたかったの、このサイン!」
「撮りますよ〜、3、2…」
「アリア、ピースは勝利と平和のサインなんだよ」
「なにそれ最高のサインじゃん!」
「1!」
カシャッと音とがする、無事に撮影ができたようだが何か様子がおかしい。
「あのサツキさん、下から写真が少ししか出でこないのですが…、もしかして俺、壊してしまいましたか!?」
グラニはこちらに駆け寄りカメラを渡す。
「なんだこれ、ちゃんと改造されてないのか?」
無理やり写真を引っ張る皐月、すると写真がびりびりと破れて…中から現れたのは!
「ふわああぁぁぁーーーっ!!??見ちゃダメーーえーー!!」
「お、俺はなにも見ていません!」
「ん〜、うるさいの、いったい何事じゃ〜!」
「ごめんアリア!とにかくその裸のアリアを隠して!」
そこに横たわっていたのは生まれたままの姿のアリアの肉体、その露な姿がアリアの叫びのせいで周りで寛いでいた人たちが集まり見られそうになっていた。
「とにかく囲め!」
皐月は自分の着ていた服を脱ぎ裸体に被せる。
「全員!見たらぶっ倒すから!」
精剣霊のアリアは空の肉体のアリアに覆い被さる、その時二人のアリアから光が溢れだす。
「ちょっ、なになになになにー!!どうなってんの私の体ーー!!」
「アリアーーーーー!!!!????」
見ていた全員が眩しさのあまり目を瞑る、皐月だけは目を細めしっかりと見る。段々と光が収まり目を疑う事態に。
「んん、なにがどうなったの?」
「アリアが一つになった…?」
「へ?ちょ、私どうして裸なの!!??」
精剣霊のアリアが消え、裸体のアリアが動きだす。
「とにかくアリア、服をちゃんと着て…?」
ふにっとした柔らかき感触、アリアに着せた服のボタンを閉じようとしたとき、手に触れたアリアの胸が押し込まれたぶんだけ沈み込む。
「ちょっと…///手が当たって…る?」
「アリア…手を握って」
「…うん」
手を伸ばし掴む、掴める、この事が意味するのは。
「アリア…実体化してる」
「…や」
「どうしたのじゃ?なにがあったのじゃ!?」
「あっ…」
「いぃぃぃやっっったぁぁぁぁーー!!!」
アリアの歓喜の叫びが天に轟く、周りは皆耳をやられ
ているが皐月は察して耳を塞いでいたので耐えられた。
「いったい、なにが起きたんだろね?」
「なにが起きたかなんてどうでもいい!熱を感じる、この街は暑いね!匂いを感じる、甘い匂いが!感触がある、手の感触が!」
「アリア!とにかく服を…!」
「そうよね、まず服を買いに行きましょ!その後は…お風呂に入ったら、あー!食事もしたいわね!そうと決まれば早速行こう、サツキ!」
「えっ?!」
皐月の手を引いて市場に向かって全力疾走するアリア、皐月は走りながらグラニとリリムに片手でごめんというポーズを取り連れ去られた。
結局、全てを終えた頃には日が沈んでいた。
アリアが肉体を取り戻すのが急ですかね?いいんだよ、神の力だから。
という事でアリアが肉体を手に入れ益々アリアの存在がわからなくなっていくこの物語、ですが安心してください、設定は固まっています、あとは作者の腕次第…。
息抜きで別の作品を書こうかな?