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第5話「試練と魔王と煉獄と」

ついに火の試練に参加する皐月、そんな彼の前にとんでもないモノが現れる。

タイトルが迷走する男の娘の物語、第5話をお楽しみください!

「…すげ〜、てれびで取り上げられへるぅ。うへへ…」

ここは皐月のいる寝室、昨夜は遅くまでアリアと話していた為、未だにぐっすりと眠っている…そこに。

「おはよーーー!!!お兄ちゃーーーーーん!!!」

「ぐぅぅえっ!!」

マリーのモーニングコール(ダイビングプレス)で夢の世界から一気に引き戻される皐月。

「お兄ちゃん、もうお昼前だよ!!」

「ぐ、ぐぅ、おはよう…マリー、もうそんな時間なんだね…」

「ようやく起きた、おはよう皐月」

アリアはすでに起きていたようだ。

「おはよう。お昼前かぁ、今日は確か……あっ」

「あ?」

「…試練が始まるのってお昼だったよね?」

「うん」

目が覚めて、なんとなくやばい時間だと感じるあの時の気持ちになる。すると扉が勢いよく開きグラニが飛び込んでくる。



「サツキさん起きてますか?!もうすぐ試練の時間ですよ!」

「やっぱりそーですよね!!」

皐月もベットから飛び起き急いで準備をする。

「あらサツキさん、おはようございます♪何か食べていきます?」

アニーはエプロン姿でキッチンで昼ご飯を作っていた。

「あー、でも時間が…」

「そうですか…、食べていかないんですか…」

(わざ)とらしく落ち込んで見せるアニー。

「あー…初めての試練だし腹を満たして挑むかな!食べていきます!」

「よかった、じゃあみんなでお昼ご飯にしましょう♪」

そう言ってテーブルに運ばれきたのは昨日のグラタンで使ったトマトソースをふんだんに掛けたスパゲティだった。



「マリーこれもだーいすき!!」

4人が席に着く。

「じゃあ…いただきます!」

「いただきまーす!」

大きな口で頬張るマリー。

「いただきます、マリーしっかり噛んで食べるのよ?」

手を合わせながらまずマリーに注意を促すアニー。

「いただきます…」

気づかれないように時計に電気を流す皐月。時間を引き延ばしスパゲティを急いで食べる。

「ご馳走様でした、ソースがとっても美味しかったです!」

「えっ?あれ?あっ、それはよかった…わ?」

目を疑うアニー、さっきまで手の付いていなかったスパゲティが一瞬で綺麗さっぱり無くなっているのだから無理もない。



「すごーい…マリーもやる!」

「マリーちゃんはゆっくり食べるんだよ?じゃないと大きくなれないからね」

「わかった!お兄ちゃんみたいに大っきくなるー!」

マリーを説得し出かける準備をする。

「サツキさん、出かける前にこれを…」

アニーは席を立ち、台所の下から袋を取り出し机に置く。

「これって昨日の?」

「はい、『サラマンダーの爪』を売って手に入れたお金です」

「あれはサツキさんの奇跡の力で得た物、これはサツキさんが持って行くべきものです、どうぞ!」

手に持ってみるとずっしりと重たかった。



「これ幾らぐらい入ってるんですか?」

「あれだけ立派な爪でしたから、普通の相場の十倍…1000万()()()()で売ることができました!」

「1000万…!()()()()?」

「ん?ちょっと待って、皐月そのお金見せて!」

「これ…一万のお札だね、花と星の絵が描いてある…」

「!?ちょっっと、それって私の描いたラクガ…絵じゃん、名前も勝手に使われてるし?!」

アリア・ジーストから焦りと羞恥がハッキリと感じられる。

「あのーグラニさん…最初の精剣祭があったのって何年前ですか?」

「最初のですか?確かあと十年でちょうど千年になりますかね?」



「せ、せ、千年ーーーーんーーーーーー!????」

天に轟くほど叫びが皐月の耳を襲う。

「私、あそこに千年も居たの!?」

「うぅぅあぁぁ、頭がぁ…!」

「大丈夫ですか?!一体どうしたんですかサツキさん?」

グラニが心配してくれるが皐月の耳は今、あまり機能していないので聞こえない。

「まさかそんなに…嘘でしょ…千年…?」

ショックで呆然とし自分の世界に入り込むアリア、少し瞑想しているはずがいつの間にか千年経っているのだからわからないでもない。

「あのーサツキさん、時間もあまりないですし、試練の場所も知らないですよね?」

「うぇと、あー、そうです、場所を教えてもらっていいですか?」

なんとか耳の機能が回復し小さくだが聞き取れるようになる。



「場所は火山の麓、四つの柱の大きな建物が試練場です、大広場を左に曲がって真っ直ぐ突き当たりにあります」

「わかりました。あの俺、試練が終わったら旅の準備をして次の目的地に向かいます」

「えっ、お兄ちゃんもう行っちゃうの…?」

マリーがサツキの顔を見て悲しそうな顔をする。

「そうですか、ではこれでお別れですね」

「嫌だよ!マリー、お兄ちゃんとまだ遊びたい!」

「ごめんね、俺…叶えたい願いがあるし、アリアとも約束がある。またこの国に来る機会があれば必ず会いにいくよ」

「むーう!!」

口をとんがらせ()ねるマリー、ちゃんと説得して納得して貰いたいが皐月にはあまり時間がなかった。

「マリー、サツキお兄ちゃんは精剣使いなの、あまり我儘は言っちゃダメ…いい?」

「…わかった、行ってらっしゃい…お兄ちゃん」



「…グラニさん、一晩泊めていただき本当にありがとうございます、アニーさん、マグマグラタンが本当に美味しかったです」

グラニ一家に感謝の言葉を述べ、頭を深く下げる。

「精剣祭、頑張ってください!俺たちはサツキさんを応援してますよ!」

「またいつでも来てね、今度はこの街の名物料理をご馳走するわ!」

いつもとうってかわって、全然元気のないマリーに皐月はある物を送る事にする。

「グラニさん、アニーさん、マリー、少しだけ一箇所に集まってくれますか?」

「いいですよ、何をするんです?」

「写真を撮るんです、ピースしてニッコリ笑ってください」

「写真?ピース?それはどういうものですか?」

カメラがないこの世界でピースはあまり浸透していないらしく、簡単に説明する。



「なるほど、手をチョキにすればいいのね♪」

「はい、それで大丈夫です。じゃあ撮りますので動かないでください…」

カメラのタイマーをセットし撮影ボタンを押す、その間に皐月も家族に混ざりマリーを抱きかかえピースする。

「マリー、星のアクセサリーありがとう!絶対大事にするから!」

「…!うん!マリーの宝物、大事にしてね!!」

笑顔でギュッと抱き返すマリーにカメラに向かってピースするよう指示する。そしてカメラのライトが十回点滅し…パシャりとシャッターが切られ写真が現れる。

「よく撮れてる。マリー、これは俺からのプレゼント、大事にしてね!」

「わあ!すごい!みんな綺麗に描いてある!」

「それはね、写真って言うんだよ」

「写真…!ありがとうお兄ちゃん、一生の宝物にするね!!」



「サツキ、そろそろ行きましょ…」

ショックでブツブツ言っていたアリアがなんとか復帰する。

「それじゃあ…ありがとうございました、行ってきます!」

玄関まで見送られ、階段を駆け下り火山の方にある会場に向かう皐月。皐月にとってあの家族と過ごした一日は忘れられない思い出になった。



少し早めに走ること五分、目的地が見えてくる。

「試練の会場は…あれか!」

中央広場を火山の方角に曲がり着信、突き当たり建物が4本の柱が入り口にある大きな神殿のような建物だった。

「サツキ、あそこで受付してるんじゃない?」

入り口の前に紙とペンを持って立っている青年の姿が見えた。

「すみません、試練を受けたいんですがここで大丈夫ですか?」

「はい、ここが『火の試練場』です。精剣使いの方ですか?精剣を拝見させていただきたいてよろしいでしょうか?」

彼の言う通りに精剣を見せる。

「はい確かに、ではこの紙に名前を書いて中で待っていてください。すぐに試練が開始されますので頑張ってください」

軽く頭を下げて試練場の中に通される、薄暗く外に比べ熱気がある建物の中には20人程の人が集まっていた。



「よかった、ここはあまり変わってないみたい」

「そうなんだ、他の試練場とかも千年前と変わってないかもよ?」

「言わないで!千年とか…ありえないでしょ!」

(アリアって…意外と精神面が弱いんだなぁ)

アリアがまたブツブツ言いだした時、辺りがざわつき始め奥から1人の人物が歩いてきた。

「待たせた、これより火の試練を開催する!!今日は何人…試練に打ち勝つ者がいるかな?」

「あっ、タコのおっさん!」

つい叫んでしまい周りの視線が全て皐月に向けられる。その中から1人、一際大きな褐色の男が物凄い剣幕でこちらに向かって歩いてきた。

「おいお前!アグニス様になんと言う暴言を…すぐに謝れ!!」

「あっ、すみません、以後気をつけます」



あまり騒ぎにしたくないので素直に謝る。

「よいよい、では試練の説明をする。これより1人ずつ舞台に上がり、幻影の炎に立ち向かってもらう、それだけだ」

「はぁ?なにそれ、試練ってそんなショボいのになってるの?!」

「アリア静かに…!お前の声は精剣使いには聞こえるんだろ?」

小さな声でアリアに注意をするが時すでに遅く…。

「貴様!神聖な試練をショボいだと!!精剣霊(せいけんれい)だというのになんと罰当たりな!」

また怒り出す大男、しかしアリアも黙っちゃいない。

「はぁ?!ショボい物をショボいと言って何が悪いのよ!火の試練といえば燃え盛る炎の中を駆け抜けたり、真っ赤に熱せられた石をぶつけ合って阿鼻叫喚のなか勝者を決める…それが火の試練でしょ!」

(千年前の試練はどんだけ過激なんだよ!!)



2人の言い争いは終わらない、そんな2人を他所に試練は黙々と進められていた。

「…ごほん、では試練を始める。ここに来た順番で呼んでいく、まずは…ユート!」

「はい!」

名を呼ばれた活気のいい少年は颯爽と舞台に飛び乗り精剣を構える。

「アグニス様!いつでもいいですよ!」

「うむ、では…」

すると少年の前に炎が舞い上がり、その炎が少年より少し大きいぐらいの二足歩行の生物に形どられる。

「すごい…!エイプ級の炎だ!」

(エイプ級?なんだそれ…ん?)

周りが驚く中、皐月は視線の先でただ沈黙を守る4人の人間を見ていた。

「いくぞ!はああっ!!」

少年は精剣を斜め下から振り抜くように構え炎に立ち向かう、そして炎を一刀で振り払うと周りから歓声があがった。



「なに、何かあったの?」

「ほう…エイプ級を一太刀か、あの少年なかなかやるな」

いつの間にか喧嘩を終えていた2人がこちらに来て少年を眺めていた。

「あっ、さっきからすみませんでした」

「ふんっ、俺も精剣霊如きに熱くなりすぎた」

「なにが如きよ…!」

「あのー俺は如月 皐月っていいます、こっちはアリア」

大男に自己紹介して悪い印象を(ぬぐ)おうとする。

「むぅ…俺はバーガンだ、最低限のマナーはあるようだな」

お互いに自己紹介を終え、バーガンにこの試練について聞いてみる。

「俺、精剣祭に参加するの初めてなんだけど、この試練ってどういうものなんですか?さっきのも何が凄かったのか…」



「なんだと?お前どこの田舎者だ、参加せずとも試練の内容ぐらい知っているだろ?」

「実は…」

「ふふん、サツキは異世界から来たのよ!精剣祭は初めてなんだから!」

(アリア…そこは威張るとこじゃないと思う)

「なに、転界者だったのか。だったら知らぬのも頷けるな」

バーガンの態度が一変し、柔らかい対応になる。

「この火の試練は炎の大きさで潜在能力の大きさを測る、生き物の種類はどの程度の相手に勇敢に立ち向かえるかを表している」

「エイプ級はどれぐらいすごいんですか?」

「あの歳でエイプ級なら、成長すれば王国で騎士団の隊長クラスになれるだろう」

「なるほどそういう事だったのか、ありがとうございます」

バーガンと話しているうちに次々と犬、鳥、豚っぽい大小いろいろの炎が斬られていく。どんどん名前が呼ばれていきバーガンが呼ばれた。



「俺の出番か…どれ、いっちょやってやるか!」

舞台に上がるバーガン、構えた精剣は身の丈程もある大きな剣だった。

「いくぞ、『グランマグナ』!!」

その掛け声とともに精剣と()の間にある宝石が輝き出し、小さな羽の生えた蛇が飛び出してきた。

「すげぇ!精剣霊の解放だ!」

「おれ初めて見たぜ、実在したとは…!」

「今年の精剣祭、魔王を倒すのはあいつかもな!」

と最初の少年より盛り上がるを見せる試練場、だがそれだけでは終わらなかった。

「幻影の炎よ、我が打ち倒すべき敵を現せ!」

炎は渦を巻き姿を変える、現れたのはここにいるどの人間よりも大きい亀だった。

「…デザートタートル…」

(ん?)

先程まで沈黙を貫いていた人物の内、フードを被った一人がぼそりと呟く。



「これが俺の相手か…、この程度一刀両断にしてくれる!!」

バーガンはその大きな体を最大限反らし、力の限り舞台ごと亀を叩き斬る。宣言通り亀は真っ二つに裂かれ、歓声と拍手が巻き起こる。

「うむ!実に見事だ、だが舞台をあまり壊さんでくれよ。さて次行ってみよう、ほぉーこれは…次はアルスの出番だ!」

その名前が呼ばれた瞬間、さっきまでの歓声が静まり返りヒソヒソと話し出す。

(ここの人たちリアクションが良すぎるだろ…)

「はぁ、あまり時間は掛けたくない…いつでも始めてください」

舞台に上がったのは亀が出た時にぼそりと呟いた人物だった。彼の近くにいた三人はただ静かに見守っていた。

「その血筋がどれほどの物か…確かめてみるかのぉ!」



また炎が巻き上がるのかと思った、しかし彼の前に起こったのは激しい爆炎だった。

爆炎はさらに大きくなり、その姿を巨大なドラゴンに変えた。

「ドラゴンか…さっさと終わらせよう、『エクスカリバー』」

一瞬だった。一瞬、彼から閃光が放たれ視界が奪われる、真っ白な視界が元に戻るとその光景に全員が騒然となった。

「ドラゴン級が…一瞬で…!」

「それになんだあの大きさ…!」

「さすが、『キング・アーサー』の血族だ!」

(…は?キング…アーサー!?)

その名前はあまりに有名だった。あの円卓の騎士の物語に出てくる伝説の騎士王の名前が何故か異世界で出てきたのだ。

「あいつはその子孫ってこと?いやいや、おかしいだろ!アーサー王って空想の人物だろ?」

「そうなの?アーサーが何かは分からないけどさ、サツキと同じで異世界から来たんじゃないの?」

(アーサー王が実在した世界か…、まぁ考えたら神だっていたんだしありえない事じゃないのか?)



「では最後の精剣使いを呼ぶとしよう。キサラギ サツキ…舞台に上がるのだ!」

「ん、いよいよ出番か…」

「この程度の試練、さっさと終わらせて次の試練行きましょ」

舞台に上がりアリアを構える。

「では、始めるかのぉ!」

(どんなモノが出てくるんだ…!)

………何も起きない。

「…あれ?おーい、どうなってるの?まだ始まってない?」

いくら待てどもやはり何も起きない、すると試練場に爆笑が沸き起こる。

「ぶわっはっはっは!!何も出てこねぇ!」

「落ち込むなよ嬢ちゃん!ぷっくくく」

「精剣祭は諦めて田舎で稲刈りでもしてな!」

(…すごく恥ずかしい…!)

皐月は精剣を構えたまま顔を真っ赤にする。しかしそのとき皐月の目の前に変化が起きた。

空間が歪み、何かが皐月の目の前に飛び出して来る。



「ぐっ、ここはどこじゃ…!彼奴(あやつ)め…何をしたのだ?!」

飛び出してきたモノ、それは黒い髪に黄金の目、そして特徴的な小さな角の生えている小さな女の子だった。

「これは炎…じゃないよな、怪我してるけど大丈夫か?」

「大丈夫なものか!怪我をしているのがわかっておるのなら早う治療せぬか!」

「だよね、誰か治療できる人いま…!」

只ならぬ気配を感じ取った、それはたった今少女が現れた場所からだった。

歪んだ空間、その一点にここにいる全ての者の目が向けられる。…刹那、歪みに一筋の光が走り空間が裂ける、その向こう側から漆黒の鎧を身に纏った剣士が出現したのだった。

「くっ、追っ手か…おいお前、アレを退け(わらわ)を助けよ!!」

「いや、俺の手に負える相手かあれ…!」



異様な雰囲気を放つ漆黒の剣士、現れてから一歩も動かず辺りを見回し少女を見つけるとこちらにゆっくりと歩み寄ってきた。

「サツキ、あれはかなりヤバイ…!すぐに逃げて!」

アリアが何かを感じとり、声に緊張感が篭る。

(逃げるって、追っ手って言ってたしアレの目的って絶対にこの子だよな、置いて行ったらこの子がどうなるか分からないし)

こちらしか見ていない漆黒の剣士、その隙をついて周りにいた精剣使いが攻撃を繰り出す。

「いきなり現れて何者(なにもん)だテメエ!」

「敵だ敵だ敵だあぁ!!」

奴のあまりにも不気味な態度が周りに敵対心を与えたのか一斉に襲いかかる、そこに連携などありはしなかった。

「やめろぉ!!奴との力の差が分からんのか!!」

バーガンが十分に距離を取った場所から叫ぶ、だがその声が届く前に事は起こった。漆黒の鎧に青白い線が浮かび上がりキーンと音が鳴り響く、太腿(ふともも)に装着した果物ナイフと思うぐらい小さな剣を抜 き 取 り…。



「…なっ、一瞬で!」

剣捌きをちゃんと捉える事が出来なかった。奴がナイフを抜き取ったと思った次の瞬間には奴の周りに立っている者はおらず、うめき声が響き渡っていた

「何をしておる!早く…逃げんか!」

角の少女が皐月の手を引っ張る。

「でも、このまま逃げても多分あいつ追いかけてくるぞ!」



一瞬で何人も斬り伏せたあいつを連れて市街地に逃げれば被害が拡大するかもしれない、それだけは避けたい事態だった。

「避けろおおぉぉーー!!!」

バーガンの声で顔を上げた直後、死を予感した。少女に気を取られた一瞬、その一瞬で奴が音も無く目前まで距離を詰め、ナイフをこちらに突き出していた。

「…ッ!」

咄嗟に時計に電気を流し、さらに身体能力も強化して間一髪で攻撃を躱す。動きが緩やかになっている間に距離を取り、少女を安全な所まで運び振り返る。今のうちに漆黒の剣士を倒そうとした皐月は驚愕の事態を目の当たりにする。

「ここなら大丈夫!この間にあいつを倒す!」

精剣を振り構え突撃する。

(…なんだ?さっきの構えと違う?)

それは居合の様な構えだった、時を引き延ばす前は小型のナイフで突き刺そうとしていた、なのに今は腰を落とし腰に携えた漆黒の刀に手を添えて微動だにしなかった。



「…!なんかヤバイッ!!」

肌でピリピリと感じ取り急停止する。直後、剣士が緩やかな時の中で高速の抜刀をしてみせ、切っ先が前髪を数本斬り落とした。

「嘘だろ!なんで動けんのさ!?」

再び漆黒の鎧に青白い線が不気味に浮かび上がる。

「勘ノ鋭イ奴、歯向カウノナラバ斬ル、アノ少女ヲ渡セ」

奴は合成音声の様な声を発し、淡々とこちらに命令してくる。

「いやいや!それで『はいどうぞ』と渡せないだろ、何なんだよお前!」

「ワタシハ生ト死ノ狭間…『煉獄』ヨリ生マレシ者、主ノ命ニヨリ少女ヲ連レ戻シニキタ」

「皐月!こいつ全体的にヤバイ!遠距離からやっちゃってよ!」

また静かにこちらに歩みだす『煉獄の剣士』、剣術では勝ち目がないと悟り遠距離から攻撃することにする。



「手加減なしだ!どうなっても知らないからな!」

髪が逆立つ、皐月の周りにビリビリと稲妻が走る。

「…!コノ世ノ物ト異ナル力ヲ検知、汝ヲ標的ニ設定スル!」

煉獄の剣士が少女から目線を外し、こちらに殺気を向けてくる。

「ロリコン不審者にはご退場願おうか!『ライトニングレーザー』!」

勢いよく拳を突き出し雷のビームを放つ、空気が振動しバリバリと音が轟く。煉獄の剣士は避けようとせず刀で斬り裂こうとした、しかしビームは物ともせず刀をすり抜け直撃する。

「やったか…!?」

「グヴヴゥアァァ!異常ヲ検知!システムに異常発生、(せい)(せい)(せい)…生きたイ、死死…死、死が近ヅく!!」

狂った様に喚き、こちらを見失う剣士。

「なっ?!」

皐月からふっと力が抜け、時の流れが元に戻る。鎧に浮かぶ青白い線は点滅して、またキーンと高い音が鳴り響く。

「あいつ逃げるみたいよ!トドメを刺さなきゃ!」

ぷすぷすと焦げて弱った煉獄の剣士が歪んだ空間に逃げ込もうとしている、アリアの言う通りトドメを刺すなら今しかないだろう。しかし…



「はぁはぁ、ごめん…なんか力が入らない…!」

「ちょっと、頑張ってよ!」

ぐったりと座り込んでしまう皐月、その間に奴は歪んだ空間に裂け目を作り、そこに飛び込んで跡形もなく消えてしまった。

「…おい立てるか、お前があいつを退けたのか?」

時計への電気の供給がなくなり動きが元に戻ったバーガンが駆け寄り手を差し伸べる。

「えぇなんとか、それより皆んなを治療しないと!」

「それならいま私の付き人がやってる、君も休んだ方がいい」

声の方を見ると赤茶の髪、深い青の目、整った顔立ちの男、あのアルスが一緒にいた三人に指示を出してケガ人の救助を行わせていた。

「君…サツキと言ったかな、いま話すことはできるかい?」

「座ったままでいいなら別にいいですけど…」

「ありがとう、そのままで結構だよ。つい聞き耳を立ててしまったのだが…君は転界者なんだってね」

「そう呼ばれてるらしいですね、こちらも一つ…アルスさんの祖先はアーサー王だって本当ですか?」



「あぁ、八代前の国王がアーサー王で、彼も転界者だったらしい…」

アーサー王が実在し、転界者だということが判明する。もしかしたら他の著名な空想上の人物も存在するのかもしれない。

「ん?国王の子孫ってことは…」

「キアロ大陸、『四彩王国(しさいおうこく)ラクセル』の王子だ」

バーガンが皐月の背後から現れて教えてくれる。

「バーガン・ゲイル…エルターン大陸、『熱砂楽園都市(ねっさらくえんとし)アキュール』で名を馳せた貴方が精剣祭に参加してるとは驚きましたよ」

「ラクセル…?アキュール…?ねぇサツキ…どっちも聞いたことがないんだけど…!」

どうやら千年前にあった国の名前ではないらしい。

「それで、王子様がいったい何のようですか?」

「一つ聞きたいことがあってね、サツキは精剣祭で叶えたい願いがあるかい?」



「まぁ、元の世界に帰りたいし」

「帰りたい…か、なら僕と一緒に各地の試練を巡り魔王を倒さないか?」

まさかのお誘いである、しかし一つ気になることが。

「一緒にって、願いを叶えられるのは魔王を倒した人だけじゃ…」

「それなら心配ない、僕は叶えたい願いがないからね」

「願いがないだと?ならば何故精剣祭に参加している!」

バーガンが突っかかる。

「叶えたい願いも、国王になるつもりもないのに精剣に選ばれた。僕自身はどうでもいいけど国王が参加しろとうるさくてね、仕方なく…」

「ふざけた事を、精剣祭を何だと思ってる!」

憤慨してどこかへ去っていくバーガン。

「もはや精剣祭を伝統ある儀式と思ってる人はいない。彼は古臭い考えをどうにかしないとな」

バーガンを見つめる、するとバーガンとすれ違う形で一人の女性がやってくる。

「アルス様、ケガ人の治療が終わりました!そちらは…火が出なかったサツキでしたっけ?」



腰に色とりどりの薬品を身につけたピンクの髪の女性が皐月を見て上から下へ顔を動かす。

「ハハッ…どうも、キサラギ サツキです」

「…ふむ、寝坊しそうになりましたね?女性でなくとも髪と肌の手入れは人として最低限の身だしなみですよ、これで髪を洗ってください!」

彼女は腰の薬品を手慣れた様子でいくつか混ぜ渡してくれる。

「ありがとう…ございます…」

「アミエラご苦労様、二人にも伝えて先に宿に戻っていてくれ」

「了解です、お気をつけて帰ってきてください!」

彼女はクルリと回り走り去っていった。

「アミエラの腕は確かだから安心して使ってくれ。それで話だが…」

「そうよサツキ!こんなにうまい話は…」

アリアが何か言おうとしてたが、答えは決まっていた。

「お誘いは嬉しいですけどお断りします」

「はあ?!どうして、ライバルが減るどころか味方が増えるのに!」



アリアの言うことは最もだろう、だが…。

「アルスと俺とで目的地が違うだろうし、それにこの世界を自分の意思で旅してみたい、アリアの事も何とかしてあげたいし」

「あう…サツキ…///」

アルスは顔の前で指先を合わせ少し考えた。

「そうか、なら仕方ないな。この世界はとても広い、色々迷う事も多いだろうけどいい旅をしてくれ」

「はい、もしまたどこかで会ったら他にも色々聞かせてください、アルスの事も知りたいですし」

「僕の…?」

「皆の者集まってくれ!!」

ちょうど話しが終わったときに舞台の上でアグニスが精剣使いを呼び集め仁王立ちをして待っている、アルスと皐月は急いで舞台の近くまで集まった。

「1.2.3.4…全員無事のようだな。傷が浅かったこともあるが、早急(さっきゅう)な治療のお陰でもある、アルスよ感謝する」



「アグニス様、あいつは一体何者なんです?」

あの活気のあったユートが震えた声で問いかける。

「ワシにもさっぱり分からん、突如現れて気づけば居なくなっていたからな…」

皆が口を閉ざす、あの恐ろしい化け物を思い出したくないのだ。

「奴が何者かは分からんが追い払った奴ならおれが知っている…このキサラギ サツキが奴を退けた!」

(えっ?)

またいつの間にか背後に立っていたバーガンがいきなり皐月の腕を取り、上にあげていた。

「はあ?いくらあんたの言うことでも信じられねぇ、そいつじゃ無理だよ!」

「無傷のところを見ると何処かに隠れてやり過ごしたな」

「アルス様がやったに違いない!」

またまた周りが騒ぎ出す、試練の結果を見ていれば誰も皐月がしたとは思わないだろう、しかし。

「僕の目が正しければ、あの漆黒の剣士を撃退したのはサツキだよ」

アルスがフォローを入れると周りが一気に静まり返った。



(やっぱりこの世界の人はリアクションが面白いよねぇ)

「彼女は転界者だ、僕たちの想像を超える力を持っていても不思議じゃないだろ?」

アルスはさらに転界者である事を付け足す。

「なっ、この女が転界者だって!」

「本当に転界者ならあり得る話…!」

「何か証拠はないのか?」

すぐに周りに人だかりができ、皐月は転界者である証の神の力を披露したいが…。

「ごめんなさい、エネルギー切れで今は何もできないです…」

「なんだ…アルス様を疑うわけじゃねーがこれじゃあなぁ」

「そうだそうだ!」

まるで信じられていない、少しだけイラっとした皐月、ならばとっておきををかます。

「じゃあ信じられてないついでにひとつ言っておく事がある…俺は男だ」

誰もがこちらに向き直す、バーガンにあのアルスまでもが目を見開いてこちらを見ていた。



「もし、それが本当なら、僕はとても失礼な事を…!」

「すまぬ…」

二人は素直に謝ったが周りはそんな事なかった。

「冗談が過ぎるぜ、女だからと舐められたくないから男だと言ったんだろ!」

「嘘ばっかり言ってると誰にも信じられなくらるぞ!」

「転界者っていうのも嘘なんじゃねえのか?」

また周りが騒つきだし、皐月に対しあーだこーだと暴言紛いの傷つく言葉を吐く、そのとき精剣アリアが震え出し。

「……っ!うるっさあぁぁぁーーーーいぃ!!!!」

試練場内にアリアの怒りの大声が響く、耳を塞いでいなかった全員がキーンと耳鳴りに襲われる。



「力の差も分からず突っ込んで一瞬で倒されたあんた達にはないも言う権利はないの!というかまずはお礼を言いなさいよ!そんなこともできないの?!」

「ぐっぅぅ、君の精剣霊は随分お喋りが好きなようだね、羨ましいよ…!」

「ハ、ハハッ…、退屈しないですよ」

ふらつきながらも全員が立ち上がる、誰一人喋ろうとしない。

「まったく、精剣使いの質も落ちたものね!」

「あー、いやはや、今回の精剣祭は大波乱の予感がするの…、さて!色々あったが試練は終了、今回の試練も全員合格とする!」

「………。」

誰も喜びの声を上げない。

「アリア、喜んでもいいよね?」

「逆になんで喜んじゃいけないのよ、合格したんだからもっと喜びなさい!」

その言葉を聞き。

「…や、やったぁー…」

「ど、どうなるかと思ったが合格だ!」

「俺の炎、ちいさかったからダメかと思ったよ!」



次々と歓喜の声が上げ喜びを分かち合う、まるで襲撃などなかったかのように。

「では皆に我が炎の力を授ける、精剣を掲げよ!!」

皆、それぞれの精剣を掲げる。バーガンもその大きな剣を片手で持ち上げていた。

(これでいいのかな?)

皐月も精剣を高々と掲げた。

「命を創りし原初の(ほむら)、精剣に宿て魔に打ち勝つ力を与えたまえ」

舞台上に炎が巻き起こり、いくつもの火の玉が飛び交い幻想的な光景を作り出す。空中にゆらゆらと漂う火の玉、それらが精剣に付いている宝石に吸い込まれて消える。

「なにこれ、凄く力が湧き上がってくる…!」

アリアの宝石も無色透明から赤みを帯びた色に変わっていた。

(それにしても、どうして俺も合格したんだ?あいつを撃退したからか?)

「これにて火の試練を終了する!ご苦労であった!」

一時はどうなるかと思ったが、こうして皐月は初めての試練を無事に終えることができたのであった。



「これからどこに行こうか?」

「…サツキ…、悪いけど少し休みたい…」

試練を終えて疲れたのか元気がないアリア、心配して試練場を足早に去ろうとした。

「ちょっと待て!妾を置いてどこに行くつもりじゃ!」

「あっ…謎の女の子、治療は…して貰ったようだね。悪いけど急いでるから…おうっ?!」

背中にズッシリと何かが乗っかる、首を向けると少女が背中に抱きついていた。

「妾は命を狙われていたのだぞ?!そんな妾を置いて行くのか?」

背中からクビに手をかけギュッと締めてくる、少女とは思えぬ程の力が込められる。

「ぐぅぅぅっ!わがっだ、わがっだがらはなじでぇ!」

「分かればよろしい、妾はお前の力を見込んで頼みたい事がある…早いとこ休めるとこに移動せよ!」



なかば脅迫とも言える行動に困りながらも少女を背に弱ったアリアを片手で抱きしめ、安らげる場所を探した…。



「ーーーすみません、なんかこんなに早く戻ってきてしまって…」

「いや緊急事態ですから、それにサツキさんならいつでも歓迎しますよ!」

「おかえり!お兄ちゃん!!」

ここはグラニ宅、この街に詳しくないサツキは宿の場所など分かる訳もなく、どうしようもなく朝別れを告げた筈のここに帰ってきたのだった。

「試練はどうでした?」

「なんとか合格できました、でもその後アリアの様子がおかしくなって…」

「そうですか、ところで…あの角の生えた女の子は?」

「色々と訳がありまして…」

視線の先にはマリーの小さな椅子にちょこんと座り、食事をする少女の姿が、少女はお腹を空かせていたらしくアニーの手料理を堪能していた。

「アリア、気分はどう?」

「やばい…なんか出そう…」

元気だったアリアの力なき声に不安が募ってしまう。



「うむ、どれもこれも実に美味だった!おいそこの精剣使い!こちらに来て妾の話を聞け!」

「はぁー、ごめんアリア。なんでしょうか?」

少女の正面の席に着き話を聞く。

「まずは自己紹介をするとしよう、我が名を聞いて驚きのあまり気を失うなよ?」

「はいはい、気を失わないように気をつけます、それで名前は?」

「よくぞ聞いた!我が恐るべきその名は…『魔王メルトゥリア・リリム』であるっ!!」

「魔王…めるとぅりあ…りりむ?じゃあお前を倒せば願いを叶えてもらえるのか…」

ゆっくりと立ち上がり、アリアに悪いが精剣を手に取り構える。

「待て、話を聞けっ!まだ名乗っただけじゃろ、妾がなぜこんな所にいるか知りたくないか?!」

精剣を向けられ焦る自称魔王。

「…まぁ聞くだけなら」

冗談だったのでアリアを置く。



「まったく!こんな少女になってしまった妾に精剣を向けるとは恐ろしい奴じゃな、お主」

「なってしまった?あー…聞く専門になってあげるから全部話して」

いちいち反応してると疲れそうなので、取り敢えず話を全て聞いてからどうするか決めることにする皐月。


「よいか?精剣祭で魔王に選ばれた妾の前に謎の男が現れた、彼奴は妾に剣を突き立て、妾に与えられた魔王の力『空間を超える力』を奪ったのだ!」

「それで?」

「だが必死に抵抗したおかげでその全てを奪われる前に空間を開き、なんとか逃げ出したのだ、それであの試練場に現れたという訳じゃ!」

「それで?」

「…彼奴は、ある事を成すために妾の力とその他にあと二つ特殊なものを探していてな、それは妾の『空間を超える力』と『時間に干渉する力』、そして『神の元へ至る道標(みちしるべ)』と言うものを探しておったのじゃ!」

「…それで?」

「それで…、『空間を超える力』は妾に与えられた魔王の力…それを完全に奪われたわけではない、じゃが残りも全て奪われると妾は死ぬ!それだけでない、残る二つの力も彼奴の手に渡れば大変な事になる!」



「それは?」

「なんと彼奴はその力をどうにかして世界を破壊するつもりなのじゃ!!」

突拍子もない言葉、しかしその目に偽りはなかった。

「それで?」

「…まて!さっきからお主ずっと『それで?』しか言わんではないか?!こんなに一生懸命説明しとるのに…世界が滅亡するかもしれんのじゃぞ?」


「信じてない訳でもないよ、あんな化け物がお前を連れ去りに来たんだし…、俺が聞きたいのはそれでお前は俺にどうして欲しいのかだよ」


これも神の力の一端なのか、漆黒の剣士との一戦でなんとなく体験した相手に流れる電気を読み取る力に目覚めた皐月、その力で少女の内に秘めた想いがある事を感じ取る。

「どうしてって…」

「俺はアリアとこの未知に溢れた世界を旅したい、けど二人っきりじゃなくてもいい」


「妾は…妾はあの剣士を退けたお主のその力を見込んで頼みたい!彼奴からわたしを守って欲しい、わたしは…まだ死にたくない!!わたしはこの世界が好きだ!彼奴に世界を壊させたくない!!」




少女の目には涙が浮かぶ、しかし決して零さない。少女の強い意志、表面上は強がっているが内心では恐怖で怯えているに違いない、皐月の心が動かされた。

「そうか…まあどうせ、俺もあの漆黒の剣士に狙われる羽目になるだろうし、自分を守るついでにお前も守るよ」

「なにがついでじゃ、こう言う時は妾を一番に守ると言え、この馬鹿!」

「ごめん、じゃあこれから一緒に旅をする訳だしお互いにちゃんと自己紹介を…」

「やばいやばいやばぁぁい!!なんか来るうぅぅおおおおおおーわーわー!!」

いい感じの空気の中、雄叫びをあげるアリア。見ると精剣の宝石部分が光り輝いている。

「ちょっ、アリア!爆発でもするんじゃないよな!?」

「爆発?!妾はまだ死にたくないぞ!?お主さっそく出番じゃ!盾となれ!」

「サツキさん!よく分からないのですが精剣が爆発するんですか!?」

「ばくはつー!!」

「マリー!危険よ早くこっちに来なさい!!」



狂乱渦巻くダイニング、フライパンで顔を守る父親、子を抱いて別室に避難する母、さっそく後ろに隠れて皐月を盾に我が身を守ろうとする自称魔王、

「アリア!なんか出てる!」

「なにがでてるのぉ?!」

「なにって…ぶわぁっと!!」

宝石から白い煙の様なものが一気に吹き出す、煙が部屋を満たすほど放出され、誰がどこにいるのか分からなくなる。

「アリア!グラニさん達も大丈夫ですか?!」

「妻も娘も大丈夫です!!」

「馬鹿者!さっき約束したばかりで、もうその約束を破るつもりか!」

「ごめん!でも今はアリアが無事か確かめないと!」

煙のせいでなにも見えない、手探りで返事のないアリアを探す。

「アリア!大丈夫?返事して!?」



「大丈夫!なんだかすっごくスッキリした!」

段々と煙が外に逃げ、室内のどこに誰がいるのか影でわかってくる。グラニ、アニー、マリーの三人はダイニングに、リビングにも三人…皐月とリリムと誰かがいる。さらに煙が消えその姿が現れる。

「サツキ、ごめんね!もうすっかり気分が良くなったから…」

「アリア…?」

「なに?どうしたのそんな固まっちゃって?」

「アリア?が見えるんだけど…」

精剣のすぐそばに立つ人物、真紅色の長髪に空の様な青い目の女性が現れていた。

「ん?…手がある、足もある…!サツキ、これ私よ!」

「…声の感じからもっと幼いのかと思った…」


無事に試練を終えた皐月、しかしそこで出会った少女、メルトゥリア・リリムによって世界滅亡の危機を知らされる。さらに、力を得てその姿を現したアリア、千年前に魔神を封印した英雄が時を超え、この世界で何を成すのか…、如月 皐月の旅は始まったばかりである。


「あぁっ…!!でも物に触れない!!」

本当にこれでいいのかな?と何度も文章を書き換えている睦月 煉花です。

という訳で漸く第1の試練が終わり旅に出る直前まで来ましたが、一気に色んな人物が登場したかなとおもいます。

勘のいい方はこの時点でこの先どうなるのかわかっちゃったりするんですかね?

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