第3話 初めての外の町
狼騒動の次の日、朝から行われた『二人の精剣使い誕生祝いの宴』も昼過ぎには終わり、旅立ちの時が迫ろうとしていた。
「ちゃんとご飯は食べるのよ?」
「偶には手紙とか送れよ、子供たちが喜ぶ」
「分かってるよ、父さん母さん。アデルとヨナもいい子でいるんだよ」
「うん!にいちゃんのかわりにガンバル!」
「ぐすっ…ばいばいにいたん」
「サラ、魔王を倒せなかったらお前は勘当だ!」
「なに言ってるのアンタ!!サラ、一生に一度の精剣祭を存分に楽しんできなさい!」
「ありがとうお母さん。心配しないで父さん、魔王は私が倒してみせるから!」
しばしの別れの挨拶を済ませ二人が荷馬車に乗り込む。御者の合図で馬がゆっくりと歩み始め、隣町へ運ぶ食料や道具と共に二人は生まれ育った村を旅立つ。
家族を含む村人全員から止むことのない声援を受け、(いつやめていいか分からず)二人は村が見えなくなるまで手を振った。
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「それじゃあ皆、次の町まで暫くあるから軽く自己紹介でもしない?」
サラのその提案に僕とアリアは頷く、カリムは何も言わずに外の景色を見ている。
「じゃあまずはカリム、貴方から自己紹介してよ」
「…カリムだ」
カリムはチラリともこちらを見ないで答える。
「それは知ってる、もっと他にあるでしょ!好き嫌いとか特技とか出身地とか!」
「…………争いたくない、以上」
長い沈黙の末にでた言葉にサラはため息をつく。
「精剣祭なんて争い事の連続でしょうに…じゃあ次は私。私はサラ・ホワード、夢は世界最強になること!この精剣祭で私の名を世界中に轟かせてやるから!」
サラは、世界最強になれる事を疑いもせず自信満々に言えるのだから感心する。
「いいね、じゃあ次わたし。神雷を司る精剣霊アリア、好きな事は食べること、特技はカッコいい技名を考えることかな」
「そういえば昨日カナエが叫んでた…あれの事?」
「あれカッコいいよね!頭の中に言葉がバーって浮かんで思わず口にしちゃったよ!」
「そう?…まぁカナエが気に入ってるならいいんじゃない。さぁ最後カナエ」
「えーと、僕はカナエ・アークライト。古代遺跡が大好きで僕の愛読書である『世界の遺跡百選』に載ってる遺跡に精剣祭の途中で探検できたらなって思ってる!遺跡っていいよね、まだ解き明かされてない謎があったり過去に何があったか記録されてて、時を超えるって言うのかな…」
熱が入ってつい早口で語り、呆れた目で見るサラと苦笑するアリアに気付いて慌てて話題を変える。
「えーとそれと…まさか歩けるようになって精剣祭に参加出来るなんて思ってなかったから、皆と旅をするのがすごく楽しみだ!」
「相変わらずの遺跡馬鹿だけど、なんとか上手く締められたわね。ところでカナエの足が動くのはアリアのおかげなの?」
「ええ、私がカナエの体内に微量の電気を流して刺激を与えたり…なんやかんやしてるから」
テヘッと笑うアリア、彼女自身もあまり理解していないらしい。
「他にも色々と出来るよ、身体能力の向上や相手を麻痺させたりとか」
「それは便利そうね。ねぇカナエ、改めてだけどこれから一緒に旅をする仲間としてよろしくね」
「うん、こちらこそよろしく、足手纏いにならないように頑張るよ」
二人を乗せた馬車は巨大火山へ向け、長閑な田園風景を走る。暖かな日差し、かわり映えしない風景、心地よい振動、それでも僕にとっては初めての村の外。
ただただ移ろいゆく景色を眺めている、するとサラは退屈なのかウトウトし始めて、僕の肩にもたれ掛かり寝息を立て始める。
「寝ちゃったね…ねぇカナエ、一つ注意しておきたい事があるのだけど」
「何かな?」
「命に関わる事。昨日の魔狼との戦いで技を使った後に足が動かず立てなくなったでしょ、あれはあの技が私のエネルギーを全部使ってしまうから。そうなったらカナエは自分の身を守る事が出来なくなる」
「ええ…それじゃああの技、一人の時だと自滅技なのか…僕の場合」
カナエは自分の足をさすりながら少し悲しそうに呟く。
「大丈夫前みたいには…!それに必殺技はあれだけじゃないし、私たちはもっと強くなれる!」
「う、うん…」
アリアが一瞬見せた気迫迫る表情、彼女の過去に何があったのだろうか…。
結局その後はサラを起こさないよう、僕とアリアは静かに外の景色を二人で見ていた。
──────
「サラ…サラ起きて、もう町に着くよ」
「ハッ…!……寝てた?」
「グッスリとね。もう町に着くらしいから降りる準備しないと」
既に太陽が地平線に沈み、満天の星が瞬く夜になった頃、四人はようやく目的の町に着こうとしていた。
馬車は暫くして停止し、御者から町に着いた事を知らされて四人は馬車から降りる。
「わぁ…!夜なのに明るい!」
初めての外の町は裸電球がずらりと吊り下げられて明々とし、筋骨隆々な男達は酒を飲み明かし会話に花を咲かせている。まるでお祭りでもあるかのような賑やかさだ。
「ここは炭鉱の町エリフゥだ、世界各地で作られる鉄製品のほとんどはここで採れた鉱石で作られているんだ」
御者がポカンと見ていた僕たちにこの町の説明をしてくれる。
「お前達はここから汽車に乗って中央火山都市オルカノに向かうんだ、そこで精剣使いが受ける試練がある。宿の手配もしてあるから今日はそこで寝るといい」
「何から何までありがとうございます」
「おう!期待してるからな、若い精剣使い!」
僕たちは御者のおじさんに感謝して宿へと向かう。何でもないただの町並みでも好奇心をくすぐられるばかりで嫌でも顔が綻ぶ、これからどれだけこの感情を体験するだろうか。
何度もサラに注意されつつ宿に着き、二人は用意されていた部屋へと案内される。
「まさか相部屋とは…」
「急な客だししょうがないわ、私が窓の方のベッドを使うから。シャワーは先に浴びてもいい?」
「え、うん。まぁ…サラならそういうの気にしないよね」
なんとか幸先のいい出発を切れた四人は明日の朝一番の列車に乗るため、軽い食事をとってすぐに就寝するのだった。