第1話 神雷の精剣使い
はじめまして、睦月煉花と申します。
小説を書くというのは初めてですが、私の書いた話で皆様が面白いと少しでも思っていただければ作者として冥利に尽きます。
寝る前の少しの時間で読める、王道的な話を書いていくので、よければ末長くお付き合いください。
一代にして大国の王となった男がいた。
朽ちる事のない不老長寿を得た女がいた。
異界の技術と知識を手に入れた獣がいた。
…… 遥か古の時代よりこの世界には『願いを叶える儀式』がある。
そんな“人”と“魔”と“精霊”が織りなす儀式の新たな幕が開かれようとしていた。
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春風が心地いい昼下がり。一年を通して温暖な気候の中央大陸の南部にある小さな村。そこで一番大きな建物から子供の威勢のいい声と「カンッ、カンッ」と木剣がぶつかり合う音が聞こえてくる。
「ホラホラどうしたの?このままだと私が一方的に勝っちゃうよ!」
「なら手加減してほしいんだけど!」
中では10〜20歳までの男女二十人余りがその手を止めて、ある二人をマジマジと見ていた。
余裕綽々に二刀流で攻めまくる赤毛で翠の眼が綺麗な少女サラ・ホワード、そして彼女の猛攻を“車椅子”を巧みに操りながら捌くのが金髪碧眼の少年カナエ・アークライトである。
サラは素早く動き回って攻めているが、カナエも見失うことなく攻撃を既の所で防いでいる。周りの者も固唾を飲んで戦いを見守ってしまう程に戦いは熾烈を極めた…その時。
「そこまで!!」
道場の奥から現れた古傷だらけの男、師範代のガドー・ディフェスが二人の木剣を素手で掴み取って試合を中断させる。
「ちょっと、いいとこだったのに!」
「あれ以上したら怪我をする。それよりみんな表に出てみろ、いいもんが見られるぞ」
「それって、もしかして!」
目を輝かせて逸早く外へ向かうサラ。他の者たちも遅れを取るまいと駆け足で後を追い、最後にカナエがガドーに車椅子を押してもらい外に出る。
外では皆が額に手を当てて空を見上げていた。
「ようやく始まるのね!アレが現れて七日、いつになったら始まるのかとヤキモキした!」
「ついに始まるんだ、精剣祭が!」
精剣祭。それは十年に一度、誰かが開始を告げるでもなく始まる儀式である。
突如として空に魔法陣が描かれて、そこから精霊が宿る剣『精剣』が降ってくる。そして精剣と契約した者は世界の何処か、地の底から現れた『魔王』を倒すという儀式だ。
旅は過酷だし魔王の配下である魔物との戦闘はかなり危険なモノである。だがこの世界に生きる人々は皆、この精剣祭に参加する事を夢見て日々を過ごしているのだ。
……何故なら魔王を倒した者はどんな願いでも叶えて貰えるというからだ。
僕は、1番早く外に出て行ったのに何故か1番後ろにいるサラに問いかけた。
「ねぇ、サラは何か叶えたい願いある?」
「願いは当然あるけど、まぁ何よりも魔王ってのと戦ってみたい!」
「さすが戦闘狂…」
「あ゛ぁ゛ん?」
「せ、世界最強を目指す武人だよね!」
「ふふん、その通り!所でそっちはどうなの、もし願いが叶えられるなら何を願うの?」
サラの質問にカナエは顎に手を当てて考える。
「色々あるけど…やっぱり足を治したいかな。それで世界中を旅して、まだ見つかってない遺跡とか探検したい。けどまぁ、その為には精剣と契約してもらわないといけないし、それに世界各地を車椅子で旅なんて難しいだろうし、さらには魔王を倒さないといけないし…土台無理な話だよ」
叶うはずもない願いを口にして大きな溜息がでる、サラはそんな僕の両肩を掴んで揺さぶった。
「マイナス思考全開ね。カナエが精剣に選ばれたら私が付き添って旅をしてあげる!」
「ありがとう、気持ちだけ受け取っておくよ。…ねぇ見て、あれって」
視界の端に点滅する物が見えて顔を向ける。空では巨大な魔法陣が今までにない輝きを放ち、その場にいた全員の胸が高鳴った。
「始まった!」
サラのその一声に呼応したかの様に空の彼方にある魔法陣から堰を切り、七色の閃光が溢れて四方八方へと降り注ぐ。その光は筋はまるで流星のようだった。
幻想的な美しい光景に見惚れていた。が、そんな僕らを現実に引き戻す二色の閃光、その内の赤い方が僕たちの方へ向かって飛来していた。
気づいたほんの僅か後、閃光は目の前に墜落して大量の土煙を勢いよく巻き上げた。
「ぺっ、ぺっ、土飲んだ…」
「それよりも見て!」
土煙が晴れる。太陽の光を反射する漆黒、身の丈ほどもある大きさ、地面を深々と抉って突き刺さる巨大な剣がそこにあった。
皆が恐る恐るそれに近寄る…すると剣は光の粒子となって形を変え、全身に漆黒の鎧を纏った大男が現れた。
「赤毛の少女よ。汝、儀式に挑む意思があるならば我を掴み取り、高らかに名をあげよ」
その言葉を聞いて皆の視線はサラに向けられる。サラは満面の笑みで男の手を掴み取った。
「私、サラ・ホワードがあなたの精剣使いになってあげる!」
「ここに契約はなされた。我が名は…カリム」
カリム。そう名乗った精霊は再び光の粒子になると精剣の姿に戻り、サラの手にしっかりと握られた。その瞬間歓声が湧き上がり、カナエも自分のことのように喜んだ。
「やったねサラ!まさか本当に精剣使いになるなんて!」
「世界一の剣士になるんだもん、当ったり前じゃない!それより、もう一つ飛んできてたの見に行かないと!」
サラは門下生たちを引き連れて、もう一つの閃光が落ちた場所へと向かう。ふと空を見ると燦々と輝いていた魔法陣が光を失い、以前の状態に戻っていた。
サラの後を追いかけると、僕の家の前に人垣が出来ている。どうやら精剣はここに落ちたようだが何故か神妙な空気が漂っている。
僕は声をかけて人混みを割って前へ進むと、地面から僅かに浮遊する蒼白い精剣が目に飛び込んだ。
「わぁ……綺麗だ」
「あ、来た。見てて、この精剣ちょっと変だから」
サラに言われ、雑貨屋のおじさんが精剣に手を伸ばすのを眺める。するとバチっと音がしておじさんの手が弾かれる。
「つぁ〜〜!やっぱりだめか」
「あんな風に弾かれて誰も触れないの。精霊も姿を現さないし……カナエ?」
「…試してみるよ」
自分らしくないと我ながら思った。いつもなら「どうせ無理だから」と諦めるのに、この精剣を見ていると胸がざわつき引き寄せられた。
精剣の前に来ると皆の注目が集まる。弾かれた時に備えて片手で車輪をしっかり押さえ精剣に手を伸ばす。
「……っ!」
精剣まで数センチ、指先に薄い電気の膜みたいなものが触れる。けれど全身に僅かな痺れが走るだけで弾かれない。
意を決して蒼白の精剣を掴み取るとバリバリと全身に電流が走り、そして浮力を失った精剣の重さによろけて足が前に出た。
「おっとと!……え、これってまさか、僕が精剣使いになった?」
「え、ええ多分。そんな事よりカナエ…あんた立ってる!!」
「ふぇ?……ホントだ、立ってる!なんで?!」
「それは私の力のおかげかな」
凛々しい女性の声がした。手にあった精剣が激しい閃光となって姿を変え、夜明け前の様な瑠璃色の髪、アメジストの輝きを持つ眼の女性が目の前に姿を現した。
「こんにちは、私は神雷の精霊アリア。長い旅になるだろうけど、よろしくね」
「え、あっ、はい!よろしくお願いします!」
あまりの出来事にアタフタしてしまった。そんな僕の隣にサラがやって来て手を握り、拳を高々と持ち上げた。
「うおおおおおお!!すげえええぇぇぇ!!」
「まさか二人も精剣使いが誕生するなんて!!」
「おめでとう二人とも!二人なら魔王も倒せるよ!」
小さな村に降り注いだ二振りの精剣を手にしたカナエとサラ。願いを叶えるチャンスを手にした二人は村中から祝福の言葉とともに万雷の喝采を受けた。
それから二人は村の人たちから旅に使うはずだった物を餞別として受け取り、旅に出る準備をしに一度自分たちの家に帰るのだった。
「おめでとう、カナエ!」
家に帰ると黒髪の父カインと橙色の長い髪を束ねる母ニコ、ウェーブのかかった茶髪が可愛らしい五歳の双子ビートとシータが笑顔で僕を出迎える。
僕たちは家族だけれど血の繋がりがない。僕の家は孤児院だ。
僕の両親は事故で亡くなったらしく、亡骸となった母に大事に抱かれていた赤子の僕を二人は救出して育ててくれた。
「本当に歩けるようになったんだな」
「うん、足の感覚もしっかりあるんだ!まさか夢が叶うなんて!」
「そうか、本当によかった」
「それで父さん母さん、僕、精剣祭の旅に出たいんだけどいいよね?」
「それなんだが……少し話をさせてくれないか」
真剣な面持ちとなった父を見て、僕は黙って頷く。
「カナエは十五歳で私たちから見ればまだ子どもだ、それに今までこの村の外に出たことがない。正直に言うとカナエに旅をさせてやりたい気持ち半分、危険に晒したくない気持ち半分なんだ」
「父さん…」
父の言葉は優しさに満ち溢れていた。
世間知らずな僕が外の世界に飛び出せば、きっと
頭を下げていた父が顔を上げ、
「けれどカナエの夢は叶えさせてあげたい。お願いですアリアさん、カナエを
この小説に少しでも興味を持ち、又後書きまで読んでいただき誠にありがとうございます。
まだ主人公であるカナエの旅は始まっていないのですがこれで一話目の終わりです(次で旅に出ます)
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