噂話
「それにしても広いな・・・」
茫漠たる砂漠の中に延々と広がる宇宙船ドックに佇み、ゆっくりと辺りを見渡しながらクラウドが溜息をつく。ここは、何もかもが規格外の大きさだった。
確かに、参謀本部から資源調達本部までの『移動』はゲートを使うから一瞬だ。しかし、資源調達本部内での移動は構内用バスか徒歩だから、内部での移動に時間が掛かってしまう。
広いだけじゃない。ドックは屋外にあるから、その暑さや突き刺さるような太陽光も身体に堪える。それでも、1000年前よりは『マシになった』とは聞くが。
「で・・・?36番ドック、というのは・・・此処で良いのかなぁ」
不安そうなクラウドに、ヘッドセットからAIの声が応えてくれる。
"大丈夫ですよ、クラウド。彼は右前方に居ます。私から彼を呼びますので、少し待ってください"
すると、やや間があって、クラウドから50mほど離れたところに立っていた大柄なシルエットがこちらを向き、大きく右手を挙げた。
「よぉっ!」
彼の大声は離れた距離からでも充分に聞こえる。そして、ゆっくりとした足取りでクラウドの元にやってきた。
「俺様が輸送部隊長のアルバトロスだ!よろしくな。オメー、アレか?『あの』シーガルの弟って聞いたがな!」
アルバトロスと名乗った大男が屈託ない笑顔を見せる。
「『あの』ですか・・・ハハハ、まぁ・・・そうです。有名なんですね、姉は」
クラウドは『やはりな』という苦笑いを浮かべる。
何しろ親にしてからが『生まれる時に与える性別を間違えた』と言わしめるほどの暴れん坊で、学校時代も何かというと騒動を引き起こしていたものだ。その性質は宇宙に行っても、やはり変わりは無いようだ。
クラウドの姉であるシーガルが『フェニックスに入る』と言い出して周囲を驚かせた時、彼女が言い放ったセリフは『地球はアタシに狭すぎる』だったが、それが今や地球の1/3ほどの火星に居るのだから、さぞかし窮屈な思いをしてるのであろう。
「おぅ?有名?そりゃぁそうさ!アイツぁ元々俺たちと同じ輸送部隊の所属でなぁ。輸送部隊ってなぁ、アレだぜ?だだっ広い宇宙を少ねぇ人数で駆け回わらなきゃぁいけねぇっつう、『ストレスが溜まる』職場なんだ。だから、どうしたって俺らみてぇな、荒くれモンが吹き溜まる処でよぉ!」
アルバトロスはそう言いながらゲラゲラと笑う。
「そんな所に『若いネーチャンが来る』っつーからさ、皆で喜んでたんだ。『仕事に精が出る』ってな。しっかし、フタぁ開けてみたらさぁ・・・コイツがトンでもねぇジャジャ馬と来たもんだ!すぐにウチの若けぇヤツらと喧嘩になって・・・また、コイツが強ぇんだ!いや、大したタマだぜ。オメーのネーチャンは」
バン!とクラウドの背中をアルバトロスが叩く。
「はぁ・・・すいません」
クラウドは恐縮するしかなかった。
「まぁ・・そんなワケで『ここに居ても喧嘩が増えるだけ』ってぇ理由で、火星行きになったんだよ。ええっと、アレだ。防災対応班の班長がオメーらの叔父なんだろ?だもんで噂を聞いた、その班長が『だったらウチで引き取るから』って事でよ」
なるほど。そういう経緯があったワケか。
クラウドは大きく溜息をついた。なるほど、同じ『喧嘩』するなら人間よりも恐竜相手の方が健全であろうし、本人にとっても相手に不足は無いだろう。
「あぁ、そうだ。火星行きの便だが・・・来週の予定だっんだが、チト伸びたらしい。何か知らんが荷物を待つんだとよ?まぁ、それまでは此処でゆっくりしてきな。此処はいいぞぉ?何しろ広れぇからよ!『部外者立入禁止』とかツマんねぇ事ぁ言わねぇから、じっくり見学してきな!」
アルバトロスはクラウドの肩をポンと叩くと、再び元の場所に戻って行った。
うーん、そうだな。確かに此処はいくら居ても見飽きることは無いだろう。クラウドは改めて周りを見渡す。
ちょうど目の前の36番ドックには月までの移動に使うのであろう、巨大な無重力搬送船が鎮座している。
小さい頃からテレビなどで見ているから『その形自体』は知ってるものの、こうして実物を間近にすると、その大きさには圧倒される。
船体側面に大きく『SB12』と記された姿は、まるでカタツムリを巨大にしたかのような外観をしていて、その全高は超高層ビルほどはあろう。全てを一度に視界へ入れるのが無理なほどだ。
「信じらんないなぁ・・・『これ』が浮くのかよ・・・こんなデカいのが」
『こんなのに自分が乗るのだ』と考えると、クラウドは高揚した気分を抑えられなかった。
「AIは人間から職を奪う」と言われますが。
私はそう考えていません。多分、AIが人間の補助をすることはあるせよ、人間にとって代わるのは極めて難しいでしょう。
現在、AIが最も真価を発揮している分野は「将棋」ではないでしょうか。AIポナンザは最早、人間の棋士に太刀打ちする事は出来ないレベルに達しています。
でも、ですよ?
「だから」と言って、人間のプロ棋士が不要になるかと言えば、そんな事はありません。逆に藤井四段のように新時代の棋士はPCソフトとの対局で力を付けるようになっています。共存の関係ですよね。
かつて、NC工作機械が世に出始めた頃や、産業用ロボットが現場で活躍するようになり始めた頃にも、「人間の社員は仕事が奪われる」と言われていました。では実際はどうでしょうか?「ロボット失業」とか「NC失業」なんていう人が居るでしょうか?私は寡聞にして存じません。
自動運転はかなり発展していますが、それでも人間と同じところを走らせるのは困難が伴うようで、あのグーグルでさえ撤退してしまいました。
もしも完全AIカーが認知されるとすれば、AI専用レーンが必要でしょうね。高速道路とかなら出来るかも?ドライバーは専用レーンを走行中だけは「寝てても良い」となるかも知れません。
私がAIが人間にとって代わって職を奪う可能性が低いと考えるのには理由があります。
ロボットやNCはあまりに融通が利かないんです。
どんな仕事でも、意外と細かい部分は融通が必要です。コストを限界まで切り詰める自動車産業でも、完全自動化は達成していません。今でもかなりの部分が手作業です。その方が効率が良いんですね。
(『いい機械』は高く過ぎてコストメリットが出難いという問題もあり)
また、A案とB案があった時に双方にメリット・デメリットがあれば、そのどちらを選択するか?という判断は人間にしか出来ません。何故ならそれは計算結果ではなく価値観の問題だからです。
また、人間は人間の言う事は聞いても、ロボットの指示に対して素直に聞き入れるとも思えません。
そういう事も考えると、例えAIがどれだけ進歩したとしても、それが人間の上位互換になる事は無いというのが私の考えです。




