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華星に捧ぐ  作者: 潜水艦7号
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犯人

「犯人・・・ですか」

カゼルが問い直す。


司令室の空気がいきなり重くなった。


「ああそうだ。『アレ』は間違いなく人為的に引き起こされた『テロ』だよ?だとすると、それは『誰が犯人か?』という話になる。これは、決して見逃す事の出来ない『犯罪』だからね」


アルタイルの口調は、まるで突き刺すかのように冷徹だった。


「いえ・・・ボクに見当はつきません」

ガゼルは下を向いた。


「そうかい?何かを隠している・・・という事は?例えば何かに心当たりがある・・とかは?いや、心配はいらない。

此処での話が他所に漏れることはないぞ。そのために、人数を絞っているのだから」


ガゼルは尚も暫く黙っていたが、やがて重い口を開いた。


「・・・あの『箱』の本来用途は恐竜用のGPS発信機だと思います。それは見てすぐに分かりました。

此処で飼育されていた恐竜には生態を調査するために、全てあのタイプの発信機が取り付けられています。発信機は電波状態の問題を解消するために、量子通信が採用されているはずですし」


「・・・同意見だな」

アルタイルはふっーと、息を吐いた。


こうした発信機のシステムは昔から行われている。ティラノサウルス種・ターコイズがグリーンに倒された時も、この発信機でアカツキが動向を確認していた。


「そうでもしなければ、あれだけ大量の恐竜に通信機を埋め込む事は出来ないだろうし。だが、だとすると『容疑者』はかなり絞り込まれるな・・・」


「いや、ですか!」

ガゼルが慌てて制する。


「だからと言って、環境構築科のクルーを疑うのは早計だと思います!それは、確かに恐竜の飼育や放逐は彼らの仕事ですけれど・・・」


「早計?いや・・・そうとも言い切れんな・・・」

アルタイルがソファーから立ち上り、再び窓の外に眼を転じた。


「ひとつ、君の功労に免じて『良いこと』を教えあげよう。いや・・・もしかしたら『すでに知っている』かも知れんが」


そして、アルタイルは意外な事を口にした。


「『あのシステム』だがな。アレは随分前から環境構築科が極秘に開発を続けていたプロジェクトなんだ。ただ『それをどうやって運用するか』が課題でね・・・

僅か数頭の恐竜で、どうやって群れ全体をコントロールするのか・・・がね。我々には『そのノウハウ』が無くて困ってたんだ。その・・・『生物学的な』ノウハウがね」


ガゼルの背中に、汗が流れる。手が震えるのがハッキリと分かる。


「・・・どうした?顔色が悪いようだが・・・?続けようか。『犯人』はね。その完成途上にあった我々のシステムを『乗っ取った』んだ。そして、シテスムを補完した、と。

・・・全く、余計な事をしてくれたものだよ。お陰で『アレは元々我々のシステムだ』と言いにくくなった」


「・・・・。」

カゼルは何も言わずに下を向いている。


「・・・ウチのセキュリティ班を甘く見ない事だ。さっき、サテライトから報告が来たよ。『通信モジュールに侵入(ハッキング)した形跡』を、付与された『正規の権限』で消そうとしたようだな?証拠のログが残っていたそうだ。

我々だって馬鹿じゃない。量子通信は真っ先に疑ったさ。だが、何処にもトラフィックが出てこないので分からなかったんだ。・・・巧妙に、隠す方法があるようだね?どうやら」


ガゼルの顔色は真っ青になっている。


ドラムがガゼルに尋ねる。

「・・・どうなんだ?やはり、君なのか?ガゼル。証拠は充分にあるが、君の口から聞きたい」


その瞬間、ガックリとガゼルが肩を落とす。

「・・・何時からですか?・・・何時から『ボク』が怪しい、と?」


「気づいたのは、残念ながら私ではない。アカツキだ。君は第三変電所がトリケラトプス種に襲われたと聞いた時に『電牧はあそこからしか電気を供給していない』と言ったな?口が滑ったようだが・・・高圧電気系統は最重要機密でね。

ゴリラ班長とか、僅かな人間しか知り得ないハズなんだ。アカツキが、最初に『それ』の不自然さを指摘したんだよ」


ドラムがそれを補足する。

「・・・だからこそ、変電所はノーマークだったんだ。襲われる気遣いはないだろう・・・とね。だが、カゼル。君はサーバへの侵入(ハッキング)が随分とお得意のようだな?」


アルタイルがジロリ、とガゼルを睨む。


「アカツキがな、事件の収拾と同時進行でログの洗い出しを進めてたんだ。結果、あちこちで君の『手垢』が見つかったよ。無論、環境構築科の機密データへのアクセスも、だ。それで『答え合わせ』が出来たんだよ」


力なく立ち尽くすガゼルに、ドラムが近づく。

「何故なんだ・・・ガゼル。何故、こんな馬鹿な真似を?私には・・まだ信じられんよ」


「・・・っ!ボクは・・・・っ!」

突然、ガゼルが大声を上げる。


「ボクは・・・知ってるんだっ!・・・ボクが火星(ここ)の配属になった理由をっ!」

ガゼルは泣き顔を隠すように下を向いたまま叫んだ。


「ほう・・・・?何を知っているって?」


「ボクは・・・あなたと・・・アルタイル本部長と体質が『合う』つまり『臓器適合者』なんだっ! 臓器移植で使われるHAL型の適合者は数百人に一人しかいない・・・

だから本部長に『何かあった』時にっ・・・!ボクは・・・『使われる』ために、此処に呼ばれたんだっ!」


アルタイルは何も答えなかった。

ノーコメントとは、つまり・・・


「6年前の農場襲撃事件のあと、『万が一』を考えた本部長はフェニックスから『臓器適合者』を選抜したんだ・・・!それが『ボク』だった・・・。だけど迂闊に環境構築科に配属すれば、あなた達の『システム』がボクに漏れる危険がある。

だから・・・ボクは機重班に回されたんだ・・・専門でもないのに・・・」


「で・・・それと、今回の事件が『どう』関係するんだ?『恨み』とでも言いたいのか?」

やはり、アルタイルは否定をしない。


「違う・・・っ!ボクの優秀性を認めてもらうためだっ!ボクが優秀だと周りが認めるようになれば、ボクを安易に『ドナーにする』事は出来ないハズなんだ!

・・・現に、ボクはアナタ達のシステムを完成させた!その『功労』を、さっき認めたばかりじゃないかっ?!ボクには・・・価値があるんだっ!」


「『価値』か・・・君一人の命の、その『価値』とやらは失われた多くのクルー達の命と同等以上だとでも言いたいのかね?」


「それは・・・・」


しばし、司令室に無言の時間が続いた。

やがて、アルタイルが語りかける。


「私はね、『罪』と『功』を分けて考える人間なのだよ。『功』は『功』として、『罰』は『罰』として・・・ね。『有用な人間だから罪に眼をつぶる』ような事はしないし、その反対に『罪人だから功を褒めない』こともない。

君はシステム完成に大いに役立ってくれた。だからその見返りとして・・・少々割高ではあったが高級ワインで歓待したのだよ。そして」


アルタイルがガゼルの方に向き直った。

「『罰』も受け入れてもらわなくてはならない。・・・どうだい?先程から体調が悪い気がしないか?それは単に緊張から来るものだと思っているかね?」


ハッ・・・とした顔をすると、ガゼルはワイングラスを見た。

「ま・・・まさかっ!」


「ああ、これは特注品でね。『混ぜもの』が少々な・・・。そのワイン、君以外の人間が口をつけていない事を、不思議には思わなかったのかね?」


次の瞬間。ドサリ、とガゼルが床に崩れる。

「何て・・・ことを・・・だが・・・ボクが死ねば・・・皆んなが怪しむぞ・・・」


「心配はいらん。ちゃんと手筈はとってある」


アルタイルの言葉は聞こえたのだろうか。

そのまま、ガゼルはあっけなく息をひきとった。







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