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華星に捧ぐ  作者: 潜水艦7号
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祝宴

「あーあ・・・酷いことになってるなぁ・・・」

クラウドは、変わり果てた姿になった整備庫を歩いていた。


「まーな。けど、これでも助かった方だと思うぜ?」

サンダーはクラウドと一緒に整備庫周辺の被害状況を確認していた。


「サンダーは基地に居たの?」


「おう。ゴリラ班長がな・・・残念な事をしたが・・・班長が『お前は此処に残って基地を守れ』ってな。いや、それはそれで大変だったけどよ・・・」


押し寄せて来た恐竜たちの中には、居住区に雪崩込もうとする一団も居たのだ。それを防ぐのは相当な苦労だったようだ。何人か、犠牲者も出ている。


「あっ・・・!この前、直したところが・・・」

クラウドが指を指した先には、1年前にシバが大穴を開けた箇所があった。


「ああ、弱かったんだろうな。突撃されて穴、開いちまってらぁ。しゃぁねーよ。トリケラトプス種が何頭も居たし。ありゃ、半端ねーよ」


「折角、直した場所なのに・・・」

落胆するクラウドに、サンダーが尋ねる。


「聞いたよ、シバ班長がグリーンを倒した時に空いた穴だろ?つーかさ・・・どうなの?シバ班長の具合は?」


「うん・・・とりあえず一命は取り留めたけど・・・まだ、意識が戻らないんだ。クーロン先生が言うには『今は無理して目覚めさせない方がいい』って。機重が横転した時のダメージが大きいから、もう少し安静にしてた方が良いんだってさ」


「そうか・・・」


病室には、シーガルが付きっきりになっている。クーロン先生からは「お前も疲れているのだから少しは休め」と小言を言われているらしいが、頑としてシバの傍を離れないとか。


「・・・それはそうとしてよ」

サンダーがクラウドの背中を叩く。


「今晩は慰労会だって。聞いたか?祝宴だよ、祝宴!備蓄のメシも出して来るって聞いてるし、久しぶりに良いモンが食えるぜ!なぁ、とりあえずお互いに『生き残った』事を、喜ぼうじゃねぇか!」



『不謹慎』と言えば、そう言えなくもないだろう。

何しろ、大勢の人間が生命を落としているのだから。それに重傷者も数多く出ている。だが、それでも『俺達は助かったのだ』という喜びに勝てはしなかった。


夕方、仕事を一段落させたクルー達が次々と食堂へと集まってくる。


「よぉっ!お前も生き残ったかぁ。この悪運が強ぇヤツめ!」

所々でクルーたちが抱き合って、お互いの無事を喜んでいる。


恐竜たちの脅威が『何時まで続くか分からない』という事で絞られていた食料も、今日ばかりは大判振る舞いだ。『食えるだけ食え』と許可が出ている。


クラウドも、サンダーやベルとテーブルを囲み、談笑に暮れていた。


「ん?ところで・・・ガゼルはどうした?」

ベルが辺りを見渡す。


「いかんな。一番の『功労者』が居ないじゃないか?」


本来なら、この『一番の功労者』が、この場の主役と言って良かった。


「ああ、ガゼルさんは司令室に行きました。アルタイル本部長も『下』に来てますから『お褒め』でしょうね」

クラウドはガゼルから『行ってくる』と聞かされていたのだ。


「そうか。そりゃそうだわなぁ。何しろ・・・アイツが居なかったらオレ達は全員、どうなっていたか分からんからな・・・。おっと!すまん、すまん。『通信機』を見つけた功労者(クラウド)を忘れてたよ!」


ガハハハ!とベルが楽しそうに笑った。




「・・・機重班ガゼル、入ります」


「おうっ、よく来た。入り給え」

司令室の中から、ドラム部隊長の声が聞こえる。


「失礼します!」

室内には、ドラムの他にアルタイル本部長の姿もある。


「よく来てくれたな。今回、最大の功労者よ!」

アルタイルが握手を求める。


その手を握り返しながら、ガゼルが照れた顔を見せた。


「いえ・・・大した事はしてません。実際のところ、通信機はボクではなくクラウドが発見したのですし」


「いや・・・『その件』ではないよ?君の『功労』は。分かっているだろう、これは火星史に残るであろう大成果だ」

アルタイルは上機嫌そのものだった。


ガゼルの顔に緊張が走る。

「お気づき・・・でしたか。もう少し落ち着いてからレポートをまとめる予定でしたが」


「ああ。何しろ『これ』で、恐竜たちの群れをコントロールする方法論が確立できたワケだ。これは大きいよ。しかもそのシステムは『実証済み』と来たものだ。今、セキュリティ班がサテライトに入って(くだん)のモジュールの解析を進めているがね。

あのシステムを使えば、我々は恐竜の脅威から大いに解放されることになる。この発見は、とてつもなく意義があると思ってるよ?」


火星だけでの話ではない。

こうした手法が展開出来れば、遠い未来に移住する惑星でも『同じ方法』がとれる可能性がある。人類の存続とリスクの低減に大きな一歩となりうるのだ。


「・・・どうだね、下ではちゃんと食ってきたかな?今日ばかりは制限ナシだからな」

ドラムも嬉しそうに笑っていた。


「あ、はい。有難うございます。とりあえず、こちらに先に来ようと思ってましたので・・・後でまたご馳走に預かります。でも・・・いいんですか?今回は、かなり備蓄を出してきたと聞きましたが?」


「ああ、構わんさ。何しろ、今までは『年4回』だった月と火星の便も、これからは『年8回』に増えるしな。運用も随分と楽になるよ」


それはつまり、あのザッカーが言っていた『2つめのゲート』を意味していた。


「え・・・ゲートを、増やすんですか?」


「そうだ。先程、委員会から正式に決定が出た。まぁ・・・ゲートそのものはもう完成してるそうだし、今はペアリングにしても本体すべてを持って行く必要が無いからな・・・。近く、ゲートがこっちに運ばれる手筈だ」


『ゲートを増やす』それは人や物量の増加を意味している。今までの年4回では足りなくなるために、その対応をするという事だ。


「では、いよいよ・・・本格的な『移住』が始まるんですね」

ガゼルが息を呑む。


「まぁな。『恐竜の脅威』がコントロール可能だと証明されたんでね。今後は大規模な開発が始まる・・・人類として『次のステップ』の始まりだよ?」

アルタイルは窓の外から地上を眺めていた。


「あの・・・もしかして」

ガゼルがアルタイルに尋ねる。


「シバ班長がグリーン討伐に使った『杭打機(パイル・ドライバー)』は・・・」


「ああ、そうだ。アレは移住用建物を建築するのに使うための準備だよ」

ドラムが代わりに応える。


準備は、着々と進んでいるのだ。


「・・・ついでに言うとだ。グリーンに殺されたジャッカルが電牧の外に居たのも、その予定地を調査する為だったんだよ。事故があったせいで、暫く立ち消えに成っていたがな」


「そうですか・・・」


思えば、この1年間は色々とあったと思う。その発端は、ジャッカルの事故だった。


「ところで、だ」

アルタイルがガゼルの方に向き直った。


「此処に君だけを呼んだのには、もうひとつ訳があってな。まぁなんだ、あまり目立ちたく無いというのもあってね・・・これだよ」


アルタイルが物陰から、艶やかなシルエットをしたワインボトルを出してきた。


「これは私が火星に赴任する時、懇意にしているシャトーから貰った極上物のワインなんだ。あまりに貴重なんで封を切るのが勿体なくてな。だが、今日は『その日』に相応しいと私は思う。一緒に飲んでくれるかな?」


傍らではすでにドラムがワイングラスを準備している。


「えっ・・・!本物のワインですか!凄い・・・地球でもほとんど入手困難と聞いていましたが・・・で、でも本当に良いんですか?」


「当たり前だ。さ・・・飲み給え」

アルタイルの手で、ガゼルのグラスに美しい赤ワインが注がれる。


「有難うございます。・・・流石に・・・美味しいですね。濃厚な葡萄の香りが堪らないです」


「喜んで貰えて私も嬉しいよ」

そう言って、アルタイルはソファーに腰掛けた。


「・・・さて、それはそうとして本題に入りたいと思う」

急に、アルタイルの声が低くなった。


「我々は今回の事件の犯人を探している。ガゼル君は、誰が『犯人』だと思うね?」







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