逆転
「これは・・・良く出来てるな・・・盲点だった・・・」
ガゼルは尚も『箱』をバラしていた。
「な・・・何があったって言うんだっ?」
シーガルが作業を覗き込んでいる。
「通信機です。恐竜たちの行動が『制御されているのでは?』と疑われてた頃から『だったら何らかの通信電波が出ているはず』という事で、地上からもサテライトからも電波をチェックしてたんです。
でも、何もそれらしい怪電波は見つからなかった・・・だから制御方法が分からなかったんですが・・・」
ガゼルが何か小さな機械を摘みだした。
「これ・・・通常の無線機ではなく『量子通信機』のモジュールです。ボク達のヘッドセットに入っているものとほぼ同じものだと思います。
これなら通信は1対1なので、通信内容が他に漏れる心配はありません。まさに盲点でした」
「じゃあアレか?」
ベルも心配そうに作業の行方を見守っている。
「こちらから『それ』にハッキングしようとすると、それらすべてのモジュールのアドレスを特定しなきゃならん、って話なのか?」
だとすれば、それは相当に厄介な話になるだろう。まず、絶対数の把握すら困難なのだ。
「いえ・・・その方法では間に合いません。そうではなく、量子通信そのものを出している設備があるハズなんです。それを止める方が話は早いと思います」
「え・・・しかし、そんな物が何処にあるって言うんだ?基地全体を探すとしても大変な話だぞ?」
戸惑うベルの横で、クラウドがポンと手を叩く。
「そうか・・・サテライトか・・・」
「うん、ボクもそう思う」
ガゼルが頷く。
「ど、どういう事だよ!」
シーガルには理解出来ていないようだった。
クラウドがシーガルに説明する。
「僕達の量子通信はすべて、サテライトに所属する通信班の設備を通じているんだよ。『木を隠すなら森の中』と言うけれど、その設備群の中に『紛れさせてある』んじゃないかな
?何しろ量子通信は他の部隊との連携に使われるから、接続回線そのものは例外的にアカツキの支配下に無いはずなんだ」
それらの知識は、クラウドがパイロットライセンスを得る上で勉強したものの一環だった。
「なるほど・・・そこからなら、何かしらの通信をしていても『監視されない』って事か。それにサテライトからなら停電の心配も無いしな・・・しかし、それをどうやって確かめるんだ?」
「任せてください・・・此処からでも、確認する方法はあると思います。・・・アカツキ、聞いてますか?ヴィーナスに依頼してボクに通信班のアクセス権限を付与するように伝えてください!」
通信班のアクセス権限は、資源調達本部の人工頭脳『ヴィーナス』の管轄下にある。
"こちらアカツキ。話はこちらでも聞こえています。・・・承知しました。今、ヴィーナスの緊急承認が降りましたので、アクセス権限を付与します"
それを受けて、ガゼルがシェルター内のコンピュータを起動させる。
「・・・よし!これで通信状態をこちらで確認できる・・・」
モニターに、各通信モジュールの情報量が示される。
その中に。圧倒的な量の通信を繰り返しているモジュールがあった。
「これだ・・・!恐らく、これがそうなんだ・・・」
そのモジュールにガゼルが『STOP』のコマンドを送る。
「うん・・・止まった・・これで、どうなんだ?」
心配そうにガゼルが顔を上げる。
何しろシェルターの中からでは外の様子を窺い知ることは出来ない。
暫く、無言の時間が流れる。
そこに、基地本部から連絡が入った。
「ガゼル?聞こえるか?ドラムだ」
「はいっ!ガゼルです」
地上基地部隊長の声に、ガゼルが緊張する。
「・・・よくやってくれた。・・・多分、効いたぞ・・・基地周辺で暴れまわっていた恐竜どもが大人しくなっている。一部はもう、引き上げ始めている・・・」
「やったぁぁぁぁ!!!!」
シェルター内が歓喜に包まれる。
クルー達が近くに居る仲間達と抱き合って喜びを噛み締めている。
「ガゼル!霊廟の入り口を開けろ!」
シーガルがVF-Xに飛び乗る。こうなれば一刻も早く、シバのところへ・・・
「待ってよ、姉さん!僕も行くよ!」
クラウドもタンデム機に乗り込む。
外は土煙が濛々と立ち上っていた。
無数の恐竜たちが一斉にジャングル目掛けて歩き出しているのだ。
130tは、何処に居るんだ・・・
土煙と恐竜たちの中を掻き分け、さっき見た方向目掛けて2機が急ぐ。
「アレだ!」
クラウドが機体を発見する。
130tは完全に横倒しになっている。
「シバっ!シバぁ!」
VF-Xが急いで130tの元へ近づく。
コクピットは、横転した衝撃で半分潰れたような形になっていた。
中に人影がある。
「おいっ!シバっ!生きてたら返事しろっコラぁ!」
無線にはやはり反応が無い。
シーガルがVF-Xから降りて、シバの元に向かう。
「うっ・・・」
中にいるシバが、微かにうめき声を上げる。
コクピットが潰れた事が幸いして、恐竜たちの牙や爪が中に届かず、奇跡的に助かったのだ。
「おい・・・生きてんのか・・・おいっ!この野郎がぁぁぁ!」
人目を憚ることもなく、シーガルが大声で泣く。
生きていた・・・とりあえず、生きて間に合った・・・それだけで、シーガルには充分だった。
「ベルさん、聞こえますか?!シバさんの生存を確認しました!ただ、機体に挟まれて脱出が出来ません。レスキューをお願いします」
クラウドはベルに連絡しながら、涙を拭った。




