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華星に捧ぐ  作者: 潜水艦7号
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転機


『シェルター』と言うだけあって、霊廟の中は意外に大空間だった。


不満と言えば室内が少々殺風景な点と、電力節約のために照明が暗めな点だろうか。それでも、外の脅威から守られている事を考慮すれば、充分に贅沢と言えるだろう。


「ああ・・・ちくしょぅ・・・・」

シーガルはVF-Xを降り、床に力なく座りこんでいる。


空気が重い。誰しもが、失ったものの多さと大きさに悲嘆していた。


「ベルさん。クルーの数がまとまりました」

無事に建物内へ避難出来たクルーの数を、霊廟と本部のアカツキを繋いで確認していたのだ。


「そうか・・・で、何人と連絡がとれない?」


「現状、防災対応班でシバ班長他5名、施設班でゴリラ班長他11名の生存が確認出来ないそうです・・・」


如何に火星での死亡事故が多いとは言え、1回の事故としては間違いなく最悪の記録だろう。それも班長ふたりを欠くという大惨事だ。


「分かった・・・。また何か連絡が来たら教えてくれ・・・」

酷い事態だとベルも思う。だがそれもシバの犠牲の上に、やっと成し得たものだと言える。


ベルは左右にゆっくりと首を振った。

問題は、だ。


現状は一時的に助かっているだけに過ぎない、という事だった。

発電所は固いガードで守られていて、そう簡単に破壊されることは無いだろうが、それでも絶対とは言えない。電源が落ちればシェルター内のバッテリーに頼るしか無くなるから、そうすれば数日で電源は無くなる。


食料も無限にあるワケではない。特に問題なのは、此処の人間よりもむしろ、基地建物に残っているクルー達だ。基地建物には、そこまでの食料備蓄はない。1週間もすれば枯渇してしまうだろう。


どうすれば、この状況を突破できるのか・・・

ベルは絶望しそうになる自分を何とか立て直そうとしていた。



その頃、クラウドはサンダーを探していた。

彼は施設班に配属されていたはずだ。詳しくは聞いて居なかったが、電牧の監視に出ていた可能性も少なくない。だが、此処ではその姿を確認することは出来なかった。無事だと良いのだが・・・


ふと、何かがつま先に当たって、コツン・・・と音を立てて転がった。

照明が暗いのでハッキリとは見えなかったが、何か黒い箱のようにも見える。


「ん・・・何だ、これ?」

クラウドが屈んで、これを拾う。


外装がベタベタするのは恐竜の血のようだ。

恐らく、先程シバが放ったハイパーキャノンで粉砕された恐竜の肉片がシェルター内に飛び込んだのであろう。

だが、だとすると『この箱』は何だ?


『箱』からはチューブのようなモノの切れ端や、電線のようなものが何本か繋がっている。

クラウドは背筋に冷たいものが走るのを覚えた。


恐竜達は異様なまでに『統率』されていた。すると、もしや『これ』が・・・?


「ガゼルさん!何処に居ますか?!」

だだっ広い霊廟に、クラウドの声が響き渡る。


「えっ・・・ここだけど?」

ガゼルはアカツキと連絡を取り合っていた。


「そっちに行きます!これ、これを見てください!」

クラウドがガゼルの元へと走る。


「これです・・・」

先程の『箱』をガゼルに見せると、一瞬にしてガゼルの顔が凍りついた。


「これは・・・!」

カゼルも絶句して二の句が継げない。


「おい、どうした?何かあったのか?」

クラウドの大声に驚いて、他のクルー達も集まってくる。


「そこの床に・・・これが転がってたんです。血や肉片がついてますから多分、恐竜の体内に埋め込まれていたものではないかと・・・」

自分の声が震えているのが、クラウド自身にも分かる。


「人工物、だな・・・どう見てもよ・・・。すると何か?『これ』がアイツらを操っていた『タネ』って話なのか?」

箱を見つめるベルの声も震えていた。


『この騒ぎが自然発生的なものではない』のは、最初から明らかだった。ただ、その証拠が無いだけの話であって。


だが、こうしてハッキリとした『証拠』が出た以上、これが何かしらの人為的意図によって引き起こされてた事が、決定的になったと言える。


「誰だっ!こんな真似、しやがったヤツぁぁっ!」

ベルが大声で怒鳴る。


「くっそぉ・・・絶対に許さん・・・犯人を見つけたらよ・・・ブッ殺してやるぜ・・・!」

周囲が(にわか)に殺気立つ。


「ま、待ってください!」

クラウドがなだめる。


「それより、今は『これ』をどうするか、です!もしもこれが原因だとするなら、これを無効化する方法を考える必要があります!今はそれが先です!」


「んぐ・・・確かにな」

ベルが拳を降ろす。


「・・・カゼル。お前、それが何か分かるのか?」


ベルが問いかけるまでもなく、ガゼルは箱の分解に着手していた。


「はい・・・今、バラしてます。待ってください。・・・まず、このチューブですが、アンプルらしきものに繋がってます。中身は多分、強力な興奮剤の一種だと思います。これを使って恐竜たちを殺気立たせているんでしょう」


「いや、でもよ」

ベルが不思議そうに尋ねる。


「あれだけの数に『そんなもの』が入ってんのか?」


「いえ・・・恐らくですが」

ガゼルが前置きをして言った。


「集団ヒステリーを起こさせているんだと思います。仲間内の数頭が『興奮状態』に陥ると、その周囲に居た恐竜たちもヒステリー状態に引き摺り込まれるんです。ある程度の条件が揃う必要はありますが、動物界では知られた現象なんです」


「だが・・・それが恐竜にも起こりうるとは言えないんじゃ?」

ベルはまだ懐疑的だ。


「いえ・・・充分ありうると思います。以前、グリーンの子供を捕縛しましたよね?あの後、徹底的に調査しましたが、子供には何も『特別』な点は見当たりませんでした。

知能も恐竜としては普通でしたし。つまり、グリーンだけが『特別』で、後のファミリーはそれに『引っ張られてた』だけと言うのが環境構築科の結論だと聞きました。ですから今回も同様のパターンではないか、と」


「じゃあ・・・あの中の何頭かに、それが『ある』って事か?」


「はい、恐らくは。それと、これはモジュール設計がなされています。通信機部分とは切り離して別のモジュールを取り付け出来るようになってますから、或いは別の用途・・・例えば『行き先を制御する』とかの機能を持たせた物も、あるのかも知れません」


「ガゼルっ!」


「うわっ!」

突然、ガゼルの胸ぐらにシーガルが掴みかかる。


「何を・・・」


「・・・いいか、カゼル!今すぐにだ・・・今すぐ、そいつをどうにかして解除するんだ!早くしろ!」


「姉さんっ、落ち着いて!邪魔をしてたら、それこそ何も進まないよ!」


クラウドの声にシーガルが我に返って、パっと手を離す。

「う・・・すまん。取り乱した・・・」


「いえ、大丈夫ですよ。はは・・・『慣れて』ますから。シーガルさん、任せてください。

幸い、アカツキとは通信の確立を維持出来ています。連携をとれば、事態をひっくり返す事が出来ると思います」


そう言い切るガゼルの顔は、とても頼もしく思えた。





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