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華星に捧ぐ  作者: 潜水艦7号
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異変

「色々と有難うございました、ドーベルさん」

クラウドが防護スーツのまま、深々と礼をする。


「いやぁ・・・大して何もしてないよ。こっちこそ、色々と助けて貰えて有り難たかったくらいだし。それと・・・」

ドーベルがクラウドの肩をポンと叩く。


「パイロット免許、ギリギリで間に合って良かったな。『目標達成』だよ」


「いやぁ・・パイロットって言っても初級の仮免ですし」

クラウドが照れる。


「何、この短期間を考えれば充分な成果さ。少なくともシャトルくらいは自分ひとりで操縦出来るぞ?」


『シャトル』は火星とサテライト間を繋ぐのに使用している小型船だ。ほとんどがAIによる自律運転だが『一応は』人間による手動運転も可能だった。


「シャトル・・ですか。はは・・・まぁあの、勉強に成ったのは確かですから。ホントに、有難うございました」


再びドーベルに礼を述べると、クラウドは輸送艦を後にし、サンダー達とともにサテライトに入っていった。




「さって・・とぉ・・・・?」

サンダーが浮足立っている。


目的は明らかだ。何処かに居るであろう『愛しの』レインボゥを探しているのだ。


するとそこに、


「あら!来たわね、二人共」

嬉しそうな声が背後からする。


「よぉっ!レインボゥっ!久しぶりだねぇ。元気してたぁっ!」


ただでさえ周囲に響くサンダーの大声が、更にワンランク上がる。真横にいるクラウドとしては耳を塞ぎたいくらいだ。


「お陰様で、ね。今はちょっと、バダバタしているけど・・・『二人が来る』って言うから、少し覗きにきたの」


久しぶりに見る、レインボゥの見せる屈託の無い笑顔だった。


「あははは・・そうなの?それは悪かったね。って言うか、大丈夫?此処に居ても」


『覗きに来た』と言えば聞こえは良いが、早い話が仕事を『サボっている』のだ。それも『状況があまり良くない』時に。或いは彼女には事の重大さが伝達されていないのかも知れないが。


「うーん、良く分からないけど。多分、大丈夫じゃないのかな?皆んな居るし」


クラウドとしては以前から思っている事だが、どうも彼女には独特のペースというか世界観があるような気がしてならない。一緒にいると、どうも調子が狂うのだ。


「皆んな『大変だ、大変だ』って言ってっけどさ。何があるんだい?」

サンダーの問いかけに、ふいに横から現れた男が応えた。


「・・・『恐竜たち』がね。一斉に北上を始めたんだ」


「あっ!本部長っ!お疲れ様です」

突然現れたアルタイル本部長に、クラウドが敬礼する。


「うむ。ふたりとも、宜しく頼むよ。特にサンダー君は新任で大変だろうが、クラウド君や他のクルー達と協力して事に当たって欲しい」

やはり、その表情には緊張が伺える。


「あの・・・『北上』と聞きましたが、この時期には南半球は冬になりますから恐竜の北上は当たり前では?」

おずおずとクラウドが尋ねると、アルタイル本部長の顔が更に曇った。


「無論、断定は出来んのだが・・・『奴ら』の向かう方向がな。一斉に『火星地上基地本部』に向かっておるのだよ。脇目も振らずに、な。まるで統率されたかのように隊列をもって移動している事が観測されている」


火星に今、何頭の恐竜が居るのだろうか。正確な数は把握されていないが、それでも数千頭は生息しているハズだ。それらが『一斉に』行動となると・・・もしもそれが全てが一斉に地上基地に襲いかかるような事になれば、その被害は『甚大』どころではないだろう。


「こぇぇな、そいつは・・・」

さすがのサンダーも声を落とす。


「『移動』は決して早くは無いんだけど・・・それでも『それ』は足の遅い個体が遅れないようにしている『護送船団方式』じゃないか?って言われてるのよ」


なるほど、レインボゥも事情を知らないワケではないようだ。


「とにかくだ。現時点では何とも言えん。とりあえず『下』で警戒にあたって欲しい。以上だ」

アルタイル本部長はそれだけ言い残して去っていった。


「じゃあ・・・私もこれで。あまり長くサボっていると怒られちゃうから」

レインボゥも笑いながら仕事に戻った。


「え?あっ・・・・あーあ、行っちゃったよ。久しぶりだったのにさ」

サンダーはふくれっ面をしている。


「いいじゃないか。火星(ここ)に居れば何時でも声は聞けるし、シャトルのと行き来も結構あるしさ。そうそう、施設班の任務範囲にはサテライトも入ってるんだ。常駐者も確か居るハズだし。チャンスはあると思うよ」


「ホントか!よっしゃぁぁぁ!」


小躍りをするサンダーを見てクラウドが苦笑いを浮かべる。


本当に彼は事態を飲み込めているんだろうか。

多分、今の彼には実感というものが無いに違いない。


1年前、クラウド達は『たった6頭』のティラノサウルス種の襲撃で酷い目に遭わされたのだ。それを決して忘れてはいない。


無論、それを教訓に対策はしているのだろうが、それでも『総攻撃』となるとなれば『想定外』の事態になるのは間違いない。そうなれば何が起こったとしても不思議は無いのだ。


アルタイル本部長は『頼むよ』と言ったが、逆に言えば『緊急避難』という手段は『無い』という意味にもとれる。

『何があっても死守しろ』という事だ。無論、失敗すれば・・・




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