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華星に捧ぐ  作者: 潜水艦7号
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恐竜

ドーベルとクラウドを乗せた艦は、まだ月に到着しない。


「ところで、ひとつ良いですか?」

何か引っかかりが出来ると、それを確かめたくなるのはクラウドのクセと言えるかも知れない。


「さっきから『テンション』と言ってますが『その力』っていうのは『空間そのもの』が持っている力なんですか?」


「いい質問だよ」

ドーベルがニヤリと笑う。


「実はそうじゃぁない。その『テンション』はね、空間そのものの力ではなく『他の天体に押し出される力』によって生み出されるのさ」


「えー・・・というと?」


「つまり、何か天体がヒッグス場に現れると、それによってヒッグス場が押し退けられるんだ。するとそこに『押す力』が生まれる。こうした『押す力』は例えば地球や太陽系を覆う全体の『ヒッグス場』にもあるから、ここに『反発』が生まれる。これが『テンション』になるんだ」


「『周りの天体』との干渉という事ですか?」


「その通り。だから例え地球上の事であっても、長い眼で見れば『重力』は一定していないんだ」


「えっ!そうなんです?」

少し驚いた顔をクラウドが見せる。


「ああ。今から数千万年前、太陽系は今とは違って銀河の『過疎ゾーン』に位置していた事が分かっている。そのため、周囲に『テンション』を発生させる天体が少なく・・・つまり『重力が弱かった』時代があったんだ」


ふと、クラウドが思い出した事がある。シバに聞いた『火星に恐竜が居る理由』が『重力が弱いからだ』という答えだ。


「なるほど・・・じゃぁ、恐竜たちが現代の地球に存在できないのも?」


「そう。重力環境が異なるからなんだよ。だってさ、考えてご覧よ?現代の地球で最大の地上生物と言えば『象』だが、それでも5tがせいぜいだろ。

だがティラノサウルスなら約12t、プロントサウルスで約15t、火星では再現していないがアルゼンチノサウルスに至っては100t近い体重があったとされるんだ。とても今の地球じゃぁ『重くて』動けんよ。ティラノサウルスなんかは2本足なんだし」


恐竜たちが『発見』された当時、もっとも不思議とされたひとつが『大きすぎる』というものだった。

現代の常識で考えれば、とても自重が支えられないハズなのだ。ケツァルコアトルという翼竜に至っては『全幅12m』とされ『どうして飛べたのか理解出来ない』とまで言われていた。


そのため『その頃の地球は重力が低かったのでは?』という疑念は、その頃からあったのだ。


「だが、火星なら今でも重力が弱いからね。恐竜生息に『向いている』のさ」


「なるほど・・・じゃぁ、現代の動物を火星に持ち込まないのは?」


「重力環境が違い過ぎてまともに動けないからさ。『ある程度重い』方が都合良いのよ。火星の重力は丁度、地球の1/3程度だからな」


「なるほど・・・そういう理由だったんですか」


『適している』という点から見れば、それは理にかなっていると言えるだろう。


「逆に言えば、そうした『デカイ恐竜が過去に生息出来た』というのが、重力環境が遷移している証左なんだよ」


「うーん・・・面白いですね。つまり生物にとっては『重力が弱い』方が巨大化出来て都合良いんですね」


「いや、それがな」

ドーベルが指を立てて、チチッと振る。


「そうとばかりも言えないんだ。重力が弱い環境というのは、とても大きなリスクがあるんだ。しかも、それは歴史上で現実のものになっている。分かるかい?」


「リスクですか?いえ」


「『巨大隕石の落下』だよ。恐竜はそれで絶滅したんだ。これは知っているだろう」


今から約6550万年前、現在のユカタン半島付近に巨大隕石が落下。それによって地球の生態系は大変革を余儀なくされている。


「隕石の落下は知ってますが・・・それと重力がどう関係するんです?」


「つまり、周りに『テンションを生む天体』が少なければ『反発力』もまた少ないという事なんだ。そのために巨大な天体が接近しやすくなるんだよ。だから地球に巨大隕石が落下したのも、ある程度『必然』なのさ」


地球に落ちた巨大隕石の影響で恐竜達が死滅したあと、地球は再び天体の過密ゾーンに突入し、現在に至っている。


「じゃぁ、例えば何千万年かしたら再び地球にも『重力の低い時代』が来るんですか?」


「多分ね。太陽系は天の川銀河の外縁近くを公転してるけど、そこは天体が過密なところと過疎なところに分かれているから。いずれ、過疎ゾーンに入るのは間違いない」


その時、地球上の生物は重力の枷を外して再び巨大化するだろう。だが、その代償として『大きなリスク』を抱えることになる。『その時』に、人類はその危機を乗り越えられるだけの知識と技術を持っているのだろうか。


「もしかして・・・火星で恐竜を復活させているのは、そうなった時に人類が巨大野生動物と戦うためのシミュレーションも兼ねてるとか?」


「どうだろうね。ただ『そうなった時』に慌てて策を練っていたんじゃぁ間に合わないのは確かだろうけど。言っては何だけど『いい実験』になっているのかもな。ま、それは飽くまで想像の範疇さ」


ドーベルは断言を避けたが、そういう意味合いが無いとは言い切れまい。


「そうそう、ひとつ思い出したがね。今の火星に生息する恐竜たちは、古代の地球に居た恐竜とは決定的に異なる点があるんだ。知っているかい?」


「それは聞いた事が。確か『羽毛』が違うんですよね?火星の恐竜とは」


「その通りだ。地球の恐竜、特にティラノサウルス類には立派な羽毛があったと言われている

。何しろティラノサウルスの原種は比較的緯度の高い地域の生まれだからさ。けど、今の火星の気候で『それ』を再現すると、運動した時の『放熱』が難しくなるんでね。仕方なくデザインを変更しているのさ」


二人の目の前に、月がその姿を見せ始めてきた。








本当はもう少し空間張力の話を続けたかったんですけど。暗黒エネルギーの話とか。

しかし、これ以上やると本編から離れすぎるので一旦キリにしようかと。

また何れ機会があったら、空間張力の話だけでエッセー形式でまとめなおしても良いのかもと思っています。


次回は「火星開拓の歴史」の話をして、それから後1話ほど書いてから火星に主人公を戻そうかと思っています。

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