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華星に捧ぐ  作者: 潜水艦7号
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理論

「この宇宙がバラバラになる・・・ですか?」

クラウドが不思議そうな顔をする。


「ああそうだ。ヒッグス場は電気的には中性だが、原子核とは機械的に干渉するからね。例え『テニスコートの砂粒』程度であったとしても、惑星規模の質量規模ともなると、その『歪み』は無視出来ないほどになる。

すると例えば地上に人間が立って、その頭のてっぺんと足元とを比較すれば、それだけでも歪み量は異なるんだよ。つまり『この差』が重力と呼ばれるものなんだ」


「え・・・どうして『歪み』が異なると重力になるんです?」


「『抵抗』が変わるからさ。空間・・・すなわち、ヒッグス場のね。上空に行けば行くほどにヒッグス場の密度が微妙に高くなり、逆に地表近くは微妙に密度が低くなる。

密度が低いという事は『抵抗が低い』という事だからそちらに『吸い寄せられる』つまり『重力が働いている』みたいに見えるのさ。」


「あー・・・何となくは」


「ヒッグス場にも質量はあるが『ごく僅か』でしかない。だから干渉する割合も『僅か』でしか無いんだ。『自然界に備わる4つの力』すなわち電磁気力・強い力・弱い力・重力のうち、重力だけが不自然に弱いのは『それ』が力ではなく『現象』だからなんだよ」


重力が『力』ではなく『現象』であることは、21世紀の半ばには解明されていたのだ。


「しかし、だ。ここで面白い現象が起きるんだ」


「何です?」


「空間、つまりヒッグス場は質量によって歪み、密度が低くなるが・・同時に『低くなった密度』を戻そうとして『張力(テンション)』が働くのさ」


「テンション?」


「そうだ。このテンションが重力の不可思議さを理解するのに重要なのさ」


「不可思議・・・ですか?」


「仮に重力が『互いを引っ張るだけ』の力だとするとヘンな点があるんだ。例えば『月は何故、地球に落下しないのか』とかね」


クラウドがポンと手を打つ。

「ああ、それは学校で習いましたよ?確か『公転してるから、その遠心力が斥力になっている』んでしたよね?人工衛星が軌道から落ちないのも、その原理なんでしょ?」


「人工衛星は、な」

ドーベルがニヤリと笑う。


「だが、月はどうなんだ?人工衛星は人為的に軌道上で加速させてあるから『そう』だが、だとしたら月は誰が『軌道上で加速』させたんだ?」


「いや、えっとそれは・・・」

クラウドが言葉に窮する。


「いいかい?月は一度、太古の地球に激突している。そして、バウンドを起こして地球から離脱したあと、軌道上に収まったんだ。だとするとだ、どうして『2度目』は無かったんだ?地球と月にそれぞれ引力があるとしたら、そのまま『2度目の激突』があっても不思議は無いだろう?」


「うーん、そうですね。『そこ』から円周軌道を描く加速をさせようとすると・・・無理があるかも」


太古の太陽系は細かい粒子や岩が激突を繰り返して惑星に成長している。月もまたそうしたプロセスのひとつだとしたら、どうして合体しなかったのか?という問題なのだ。


「その理由が空間、つまりヒッグス場の『テンション』なのさ。地球の周りのヒッグス場は地球の質量と干渉しているので『密度が低い』が、その分だけ『テンションが高い』んだ。

すると『ヒッグス場の密度差』で接近したくても『テンションの差』で阻まれるという事態になる。・・・地球から遠い空間の方がテンションが低いからな」


最初に『月の元』が地球に向かってきた時には『勢い』というかスピードがあったから、一気に激突したと考えられている。

しかし、両者が激突して一度離脱した後はその『勢い』が無くなって地球周辺の空間テンションを押しきれなくなり再激突は無くなったが、そのまま軌道から離脱するには『ヒッグス場の密度差』が大きかった・・・という説がこの時代の主流だった。


「え・・・でも、そうすると月が円運動をする理由はどうなるんです?」


「『地球の公転に引きづられた』という考え方が主流のようだね。地球だってじっとはしていない。太陽の周りを公転してるからさ

。地球の公転に『引きづられる』事で、円運動を始めたと言われている。これは地球が太陽の周りを回っているのと同じ原理だな。太陽だって『じっと』はしていない。銀河系の外縁近くを公転してるからね」


地球は太陽の周りを円運動しているが、その軌道は真円ではなく『楕円』である。これは地球が太陽の運動に『引きづられた』時の名残であるとされていた。


「地球が公転によって月から離れそうになる、つまり『置いてきぼり』になりそうなると『慌てて』月が後を追ってくるワケだ。

しかし一定以上になるとテンションの差で近づけない。そのために月は地球の周りを回る格好になる・・・これが現代の重力工学の基礎となる『空間張力理論』なんだよ」


「えっと・・・だとすると、ですよ?」

クラウドが疑問を呈する。


「隕石とかは、どうして『落下』するんです?『テンションの差』は働かないんですか?」


「ああ、それは『相対的な大きさの差』だよ。隕石は地球と比べると『極端に小さい』からね。『隕石自体』が発生させるヒッグス場の歪みが小さいために、地球が発生させる歪みに勝てないんだよ。月ぐらい大きいと、それ自体が発生させる歪みが大きいから、地球の出す『歪み』に対抗出来るんだけど」


「へー・・・では、仮に『2つの大きさが同じくらい』の場合はどうなるんです?」


「その場合は『連星』になるんだ。お互いがお互いの周りを周り続ける形だね。とは言っても、この形はあまり長続きはしない事が多いらしい。何れは合体するとよ」


21世紀、この2つの連星が合体する事で発生する『重力波』が観測されている。この衝撃によって地球上の『空間』に歪みが出た事が観測された。


「この現象はね、もっとミクロのレベルでも起こるんだよ。分かるかい?」


「いえ・・・」


「最初に戻るけどね、原子だよ。原子の構造はプラス・マイナスの電気的引力と『斥力』のバランスによって成り立っている。この斥力がつまり『空間張力』なのさ」


「えっと・・原子核が『テンション』を?」


「そうさ。原子核は見た目と質量が一致するから、見た目がどれだけ小さくても発生させる『空間の歪』は比較的大きいんだ。すると発生させるテンションも非常に強力で、如何に電気的吸引が強くても一定以上は電子が接近出来ないんだよ」


「へー・・・」

分かったような、分からないような。クラウドの頭は混乱していた。







今回出てくる『空間張力理論』は全くの筆者オリジナル理論です。実世界では実証されていないので実際には理論ではなく『仮定』ですけどね。なので『実は空間には張力があって』と他所で喋るとイタい思いをする事になるかも(笑

この考え方の特徴は、宇宙の不思議をごく単純化して説明可能な点です。

現状、この考え方の最大の問題点は『誰も耳を貸してくれない事』ですね・・・(泣

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