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華星に捧ぐ  作者: 潜水艦7号
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刑務

支度を整え、クラウドはシャトルの発着場に向かっていた。


良く々考えてみれば、地球での研修が終われば暫くは各セクションでの体験実習が予定されていたのだから、その順番が少々異なっていただけと言えなくもない。クラウドはそう考えていた。


ふと、横を見ると資材運搬用の無重力搬送船から数人の人間が降りてきていた。


「おや・・・?人員補充、という話は聞いてないが・・・」


訝しがりながらも尚も見ていると、その後ろから黒い制服を着たクルーが数人出て来る。セキュリティ班だった。

「何があったんだ・・・・」


男達はセキュリティ班の人間に誘導され、厳つい護送車に乗り込み、何処かへと出ていった。


「アカツキ、聞いてる?今の人達は何?」


そう言えば、クラウドがブレイン・アカツキに何かを尋ねるのは久しぶりだった。


"アレは受刑者達です。それ以上でもそれ以下でもありません"

アカツキの答えは意外だった。


「えっ!受刑者?」

クラウドが聞き返す。


"はい。その通りです"


「え・・・彼らは何のために此処へ?」


"刑務をこなす為です。受刑者ですから"

アカツキは素っ気ない。


「刑務?火星で?何をするの?」


"彼らの行き先は鉱山です。採掘の役務をするのです"


気のせいか、アカツキはこの話題に触れたくないようにも感じる。


「鉱山て・・・そういう危険な仕事はかなりロボットか自動化、もしくは遠隔操作化されていると聞いたけど?」


"ロボットにも限界はあります。人間並みの五体(アクチュエータ)を持ったヒューマノイドに私のようなブレインが実装されれば人間からの代替えも可能でしょうが、現時点ではコストが掛かりすぎて償却(ペイ)出来ないのです"


「そうか・・・で、受刑者を使ってるんだね」

そう言えば。クラウドはふと、思い出した事があった。


「アカツキ、僕が此処に着たときに惑星間輸送船で・・・『ザッカー』が中性子銃を使った話を知ってる?」


"はい。聞いてます"


「あの時、ザッカーが中性子銃を『暴動鎮圧用』って言ってたんだ。つまりそれは・・」


"その通り。受刑者が艦内で暴れた時を想定してのものです"


つまり、そうした火星での役務は昔からあったという事だ。ここ最近の話ではあるまい。近代以前で言うところの流刑なのだ。


「ザッカーは?もしかしてあの人も居るの?、此処に」


"いえ。ザッカーはより重罪ですから此処には来ないでしょう。ですが、行き先が火星でなければ私には特定は出来ません。管轄外ですから"


つまり『より重罪な人間』が行く先があるという事だ。だとするとそれは・・・・


「・・・それって、金星?それともエンケラドス?」


前にシバが言っていた事だ。火星や月なら医療体勢が整っているが、金星やエンケラドスではそうは行かないと。つまりそれだけ過酷であり人員や組織が充分では無い環境である事を意味している。


"コメント出来ません。管轄外ですから"


アカツキは返答を拒否する。

まぁ、古来から『ノーコメントはYESの意味』と言うから、恐らくはその通りなのだろう。


「分かったよ、アカツキ。それ以上は聞かないことにする。ところで、シャトルは例によって無人なの?」


"その通りです。シャトルは私の配下に位置します。乗って頂ければ直ちに出発します"


「そうか・・・で、とりあえずは『月』って聞いたけど?」


"そうですが、物資の積み込みに時間が掛かるので、本艦の出航は3日後になります。それまでは軌道上で待機になります"


え・・・?物資の積み込み?クラウドが不思議そうな顔をする。

「・・・火星から?何を積むの?」


"主に鉄材です。特に今回はオーダー量が多いようです。地球では採掘したり精錬するための人員が不足してますし、採りすぎでコストが見合わなくなっています。その点、火星ならば豊富な鉄が簡単に採れるので"


この瞬間。クラウドは、妙な事を実感した。

もはや人類は簡単に宇宙を諦められる段階を過ぎているのだ、と。


火星は鉄などを採掘するために必要だとして、エンケラドスからは大量の水を運んでいると聞く。

地球の水を浄化するより早いからだ。エウロパからは燃料となるメタンを大量に採取もしている。もはや人類は太陽系規模での活動が前提になりつつあるのだ。もはや、良いも悪いもない。後戻りが出来る状態ではないのだ。


何れ人類は、このまま外宇宙を目指して・・・


シャトルで火星の地表を離れる時、その窓からクラウドはじっと、冬景色に変わっていく北半球を眺めていた。




惑星間輸送船には2時間程で到着した。

懐かしい、という気がしないでもない。こうして居ると『アクアマリン』がまだ『そこ』に居るような錯覚を覚える。


するとそこに、艦のクルーが姿を現した。

「やぁ!久しぶりだね、クラウド君」


嬉しそうに手を振るクルーに、クラウドは見覚えがあった。

「あぁ!ドーベルさんっ。復帰したんですか!」


「まーね。暫く入院してたけど、今回の航海から復帰だ。ちなみに、君の配属先も『この艦』だからさ。おっと、チェアとストールも変わりなくウチの艦だ。よろしく頼むよ兄弟」


そう言って、二人はガッチリと握手した。


ロボットやAIは「先が読める」事には無類の強さを発揮します。

しかし「やってみないと何が起こるか分からない」ことには全く無力です。そういうのは人間の出番ですね。ですから案外と鉱山のような自然相手の仕事にはAIは不向きではと思います。せいぜい、運搬とか重機掘削くらいで・・・どうしても人手が要るのでは、と。


今回は、ザッカーの反乱のときに彼が持ち出した銃の本来用途である「暴動鎮圧用」の意味を回収するための回です。

それと、最終章に向けて小さな布石を打つ目的があります。

ではまた、次回に。

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