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華星に捧ぐ  作者: 潜水艦7号
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乾坤

俗に『手負いの獣は怖い』というが。


顎と右目に大きなダメージを負ったグリーンは、その痛みと怒りに我を忘れていた。彼の持ち味である狡猾さと慎重さを忘れ、只々、本能の命じるままに眼前の敵を食い殺そうとしているのだ。


グルル・・・


低い唸り声を上げるその顎には、VF-Xの左腕がガッチリと咥えこまれている。


「くそ・・・・」

シーガルが悪態をつく。


本来なら、このまま思いっきり蹴るなり殴るなりしてやりたい処ではあるが、何しろ『残弾』が無い。


「姉さんっ!終わったよ!」


クラウドからタンクの交換を終わった事を知らせる無線が飛ぶ。


ゴボゴボ・・・ゴボゴボゴボ・・・


燃料タンクから各人工筋肉目掛けて液糖が流れる音が伝わってくる。


「よっしゃぁ・・!もう少し・・もう少しで『次弾装填』だ・・」

『身体』に力が漲る感触が蘇ってきた。


その時


ギャォッ・・・!

シーガルの『気配』を察したか、グリーンがその顎を大きく振った。


メリッ・・・バギバキバキ・・・!

金属が砕ける、鈍い音が響く。


「ぐぁぁぁぁっ!」

シーガルの悲鳴がコクピットに響く。VF-Xの左腕が肘から『もげた』のだ。


"VF-X 左腕大破。左腕の神経接続を遮断します"

アカツキの人工音声がシーガルのヘッドセットに入る。


本来、VF-Xとパイロットの間には『表皮感覚』だけが伝わるようにしてある。そのため、仮に大破したとしても『その激痛』がパイロットに伝わる事は原理的にありえない。


しかし、神経連動を一体化して動かしているため、あたかも自分の腕が引きちぎられたかのような『疑似感覚』がパイロットを襲う可能性が指摘されていた。

これは一種の『無い腕が痛むように感じる』幻肢症と言えた。


これを回避、又は緩和するには『それは幻想だから』と外部から教示してやるのが効果的であるとされている。この場合は、ワザワザ『回路を切ったから』とガイダンスすることで、その『疑似感覚』を薄らげるのだ。


シーガルが意図的に自身の左腕をブンブンと動かす。

「ちくしょうめ・・・」


だが、『エネルギー』は満タン状態に戻っている。

シーガルはVF-Xを起こして立ち上がり、身体を回り込ませた。


だが、次の瞬間。


ズズン!

強烈なグリーンのヘッド・タックルがVF-Xを襲う。


「ぐはっ・・・!」


苦痛に顔を歪めるシーガルを乗せたまま、VF-Xは突進するグリーンによって大きく突き飛ばされた。


ガガン!

VF-Xの機体は建物に激突して停止した。


「いっ・・・痛ってぇぇぇ・・」

シーガルのVF-Xはそのまま起き上がろうともしなかった。


ギャァァァァッ!


そこへ、グリーンが猛突進をしてくる。トドメを撃つつもりなのだ。


「・・・・っ!」


グリーンの大きな牙が、シーガルの眼に飛び込んでくる。

だが、『これ』を正に望んで待ち構えていた男がいた。



「よぉし、よくやったぞシーガル」

シバは手元に仮設された起動スイッチを押した。


ドバーー・・・・ン!


瞬間、まるで落雷の如き耳をつんざく大音響が辺りに鳴り響く。

シーガルの乗るVF-Xの頭頂部、その少し上から大口径の鋭い『杭』が建物の壁を突き破って飛び出してきたのだ。


そう、ゴリラ班長がシバに託した『杭打機(パイルドライバー)』だった。


乾坤一擲、その『杭』は完璧なまでにグリーンの胸を突き破り、そのまま50mほども吹き飛ばしてしまった。


杭は、特注の油圧ポンプによって超高圧に加圧された窒素を一気に解き放ち、数百トンものパワーで飛び出したのだ。


辺り一面は杭打機によって砕かれた壁の土煙が、もうもうと立ち上ってる。


「あぶねーじゃねーか!この馬鹿野郎っ!」

シーガルが無線で怒鳴る。


「シバぁ!コラぁ!もう少しでアタシの頭がトブとこだったじゃんかぁ!」


「ふん!文句が言えるたぁ結構なことだぜ。心配すんな。一応、モニターで見ながらやってんだ」

シバは意に介してる様子はない。


「・・・それより、予定の『場所(ゲート)』よりかなりズレてるぞ?お陰でゲートを破る予定が『壁』になっちまったぜ・・・

こりゃ、直すのも大変だろうな・・まぁいい。テメーの責任なんだから、土建屋(ゴリラ)には後でテメーから謝っとけ」


「はぁ?アンタ、何を・・」

言い返そうとするシーガルの上で、バキバキと鉄骨が折れる音がする。


「・・・どけ。出るぞ?」

慌ててシーガルが機体を横にどける。


ガオン・・・ガオン・・・ブン・・・ドドン・・・バキ・・バキバキ・・


整備庫の壁を更に破壊しながら、シバの乗る130t機が外に出てくる。


「あ・・・アレが・・・130t・・・」

クラウドが、その大きさに圧倒される。


「野郎が・・・そこに居たか」


ゲフッ!・・・ゲフ・・・!

グリーンは辛うじて生きてはいたものの、胸には向こうが見えるほどの大穴が開いている。もはや、その場から動くことも出来そうになかった。


「その怪我じゃぁ助からねぇぞ・・・待ってな。すぐ『楽』にしてやるからよ・・・?」


130t機の大きな『足』が、ぬっ・・・と持ち上がり、横たわるグリーンの真上に影を作る。


そして。


ズド・・・・ン

130tの機体荷重が、瀕死のグリーンを潰しに掛かる。


メキ・・・メキメキメキ・・・グシャッッッッ!


その胸骨が無様に音を立てて砕ける様は、200年に及んだ暴君の覇権が終焉を迎えた事を象徴していた。


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