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華星に捧ぐ  作者: 潜水艦7号
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鼓舞

整備庫の中に、緊急を知らせる連絡が入る。


「パイルドライバーの換装を急げぇっ!VF-Xの燃料が、もう持たんっ!」

それは、悲痛とも言える叫び声だった。


とてもでは無いが作業自体は『あと数秒』というレベルではない。それに、仮に『間に合った』としても、グリーンを整備庫の前まで誘導出来なければ『それで終わり』なのだ。


整備庫に『絶望』の二文字が重く伸し掛かる。

もはや、ここまでか。皆、一様にモニターに映る戦況を食い入るように見つめていた。


その時、ハッとしたような表情でクラウドがカゼルの腕を引っ張った。

「カゼルさん、アレどうなりました?」


「アレ?え・・・もしかして」


「そうです!前に言ってた『予備タンク』ですよ!」


ガゼルは驚いた。この期に及んでなお、それでもクラウドは冷静に最善の手を探そうとしていたのだ。


「あ・・・アレは確か、実証室にそのまま置いてあったと思うけど・・・?」


実証室と整備庫は隣り合わせで、機重での移動が可能だ。


「・・・行ってきます」

逡巡する(いとま)なぞ、クラウドに有ろう筈もなかった。


タン・・・ッ!

クラウドの靴が地面を蹴る音が整備庫に響く。


その、たったそれだけの音で、クラウドの身体はあたかも重力が存在しないかのように宙へ舞い上がり、まるで野良猫のように音もなく機重の操縦席に滑り込んだ。


「えっ!おい、待・・・」


クラウドの機重は、それを止めようとするカゼルを一顧だにする事無く実証室目掛けて走り出していた。


その様子を見て、整備庫に居た誰もがクラウトが『何をしようとしているのか』を察知した。


そう、クラウドは『予備タンク』を抱えてシーガルの元に走るつもりなのだ。

あの、グリーンが暴れている脇を抜けてだ。無論、VF-Xの援護が期待できない状況で戦闘に介入すれば、そのまま殺されるリスクは決して低くない。


それでも尚、それが唯一の方策と信じるクラウドに何の迷いも無かった。


クラウドのこの姿を見たことで、クルー達の空気が一変する。


「・・・ライフルでも!バズーカ砲でも!何でもいいから武器を持って来いっ!防災対応班、出るぞ!」


待機していた防災対応班のクルーが大声で他のクルー達を鼓舞する。


「シャッターを少しだけ開けろ!俺達で援護するぞっ!威力はともかく、牽制くらいにはなるハズだ!」

「おぅよ!機重に乗って無いからって、それがどうしたってんだ!生身でも戦える処を見せてやるぜ!」

「クソッタレがぁぁ!来たばっかりの新人だけに『良い格好』させて堪るかよぉぉぉ!」


残っていた防災対応班のクルーが武器を抱えて、散り々に外へ飛び出す。

「時間を稼ぐぞ!俺達の命に代えてもなぁ!」


「散開しろっ!四方から銃撃するんだ!グリーンの注意を一箇所に集中させるな!」


バババババ・・・・ババババ・・・・

一斉に銃撃が始まる。


この、突然の背後からの攻撃に一瞬、グリーンは後ろを振り返ってしまった。


「おい、何処を見てんだ?」


只ならぬ気配を感じて向き直ったグリーンの眼前に、VF-Xの『拳』が迫っていた。


ズゥゥゥゥン!


今度は左のフックだった。残弾『最後の一撃』。それが、グリーンの右目を打ち抜いた。


ドド・・・ン・・・

地響きを立てて、グリーンが転倒する。


「よっしゃぁぁぁ!」

基地にクルー達の歓声が上がる。


この期を、クラウドは逃さなかった。

機重で予備タンクを抱えたまま、すかさず外へと飛び出す。


「姉さん、行くよ!すぐにタンクを交換するから!」


不覚にも不意打ちを食らったグリーンは、やや昏倒気味ではあるが、それでも必死に起き上がろとしている。あまり時間に猶予が無いのは明白だ。


「ガセルさん!聞こえる?今、VF-Xのところに着いたよ!それで、どうすれば良い?」

クラウドからガゼルへ、指示を乞う無線が入る。


「・・分かった!いいかい?まず、背中のコネクタロックを反対側へ倒すんだ!そしたら次にホースを反時計方向へ捻って・・・」


「来るぞぉぉぉ!」

ガゼルの指示を掻き消す大声が無線に入る。


クラウドが前を向いた時、そこには血だらけになったグリーンの顔面が迫っていた。


ギャァァァ!

雄叫びとともに、怒りに狂ったグリーンが突進してくる。


「くそ・・・っ!まずいっ!」

燃料タンクは、まだ外れた状態だ。


グシャ・・・・ァ!

何か鈍い、潰れるような音がした。


「・・・・っ!」

クラウドは一瞬、眼をつぶった。そして再び眼を開けた時、グリーンの大顎はVF-Xの左腕を、ガッチリと咥えこんでいた。


「この・・・クソッタレ野郎がよ・・・」

シーガルの判断だ。


機体全体に損傷が出るよりも『左腕1本くれてやる』という覚悟なのだ。


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