覚悟
ウゥ~・・・!ウゥ~・・・!
基地施設内に、緊急事態を知らせるサイレンが鳴り響く。
外で作業していたクルー達が慌てふためきながら建物内へと急ぐ。
「急げ!早くしろっ!すぐに閉めるぞっ!」
基地の外では、大慌てでクルー達の回収とシャッターの準備が進められている。
「グリーンが敷地に侵入しただとぅ!?本当かっ!」
ドラムが慌てて司令室に飛び込んで来る。
"間違いありません。映像をキャッチしました"
アカツキが、パネルに敷地内を疾走するグリーン達の姿を映し出す。
「何て・・こった・・・。仕方ない、施設内ではあるが迎撃するしかあるまい。アカツキ、AIヘリを出せっ!」
現段階においては障害の多いジャングル内での会敵でなければ、素早く動き回る恐竜相手に対地ミサイルは有効な武器と言える。5年前の教訓をもとに、緊急発進用のAIヘリには『それ』が常備されていた。
"承知しました。アルファとベータを出撃させます。約3分で会敵可能です"
「グリーンめ・・・人間をナメるなよ?被害は出るが、ミサイルの餌食にして・・・いや、待て!」
ドラムがパネルを食い入るように見入る。
何かが不自然だった。グリーンが、何かを咥えているように見える。
「何か変だ・・・グリーンの口に・・・・?アレは・・まさか!」
アカツキがヘッドセットの信号を特定する。
"施設班・チャイムの生体信号を確認しました。アレはチャイムです"
「信じられんっ・・・!アカツキ、チャイムはまだ生きてるのか?」
思わず、ドラムが唇を噛みしめる。
"生体反応、微弱ですが確認できます。かろうじて生きてます"
「くそったれがぁぁぁぁ!」
バン!
思い切り机を叩く音が司令室に響く。人間が思いもよらなかった『まさか』の人質作戦だった。
グリーンは知っていた。
人間は、仲間を盾にされると攻撃出来ない事を。5年前の襲撃事件のときも、人間が間に入る時は銃撃されなかったのを記憶していたのだ。
例えどれだけフットワークの軽いグリーンでも、直進して進む時はどうしても銃撃を受けやすくなる。
コースが読み易いからだ。しかも此処には身を隠す盾となる木々も無い。だがしかし、こうして『人間の仲間』を盾にすれば・・・
"ミサイル攻撃を行いますか?"
アカツキがドラムに冷酷な判断を突きつける。
確かに。
ミサイル攻撃でグリーンを仕留めれば、瀕死のチャイムは見殺しになるが、基地全体とシーガル達は被害に遭わなくて済むだろう。冷静かつ機械的に判断すれば、その方が遥かに被害者数は少なくて済むし合理的と言えるだろう。が、しかし・・・
ドラムの握る拳がブルブルと震える。
「この・・・トカゲ野郎め・・・!」
「ドラム部隊長っ!」
通信班から大声がした。
「シーガルから入電です!その・・・『B32ブロックを閉めろ』と言ってます!」
「何っ!代われっ!」
ドラムが無線の前に立つ。
「どういうつもりだ、シーガル!そんな事をしたら孤立するぞ!」
「分かってるわよっ!でも仕方ないじゃん!これ以上、被害をデカくするつもりっ?」
シーガルも怒鳴り返してくる。
「冗談言うな!いくらVF-Xと云えど、1機でグリーンとティラノサウルス種5頭を相手に出来るものか!」
ドラムも言い返すのが精一杯で『だったらどうする』と言われても、何の回答もなかった。
その時だった。
「シーガルっ!聞こえるか?そいつをこっちに寄越せ!防災対応班が揃い踏みで出迎えてやるぜ!」
無線に割って入った声の主はシバだった。
「シバ?何言ってんの!そんな事をし・・・」
「いいから!ゴタゴタ言わずにそのまま、こっちに来るんだ!ギリだが、130tが使えるんだよっ!ホントにギリだけどな!」
「えっ?マジっ!?動くの、ソイツ!」
僅かだが、シーガルの声が弾む。
だが、ドラムがそこに冷水を浴びせる。
「馬鹿な!例え動いたとしても『武器』はどうする!対グリーン用のハイパーキャノンは、まだ設計段階で現物すら無いんだぞ!」
重力の関係で、機重に大口径の火力を搭載するのは難しい。自重が軽くなってしまい、反動を止められないからだ。
『ならば、機重自体をバカでかくして重くすれば』という発想で製造されたのが、超大型戦闘用機重『130t』だ。
だが、コイツを本格的に運用してグリーンにブツけるのは恐竜達が北半球に戻ってくる『次の春』という予定だったので、主武器となるハイパーキャノン製造は後回しになっていたのだ。
「・・・ぐっ・・!」
シバが言葉に詰まる。
今はもう、藁にでも縋りたい気分なのだ。例え1%でも勝てる要素があるのなら、そこに賭けるしかない・・・と言いかけた、その時。
突如、無線に野太い声が入った。
「おうっ!施設班のゴリラだっ!」
チッ・・・!思わずシバが舌打ちをする。
いくら普段から仲が悪いとは言え、何もこんな時に邪魔を入れなくても良いだろうが!今は1分1秒が惜しい時なのだ。
ヘタをしてゴタつけばシーガルやクラウドの命が危ないというのに・・・!
だが、施設班長ゴリラの申し出は、そのシバの杞憂を払拭して余りあるものだった。
「聞いたぞっ!?『武器が無い』ってぇ!だったら、ワシんところのパイルドライバーを使え!今、ウチの若い衆に『一式揃えて走れ!』と指示したっ!」
意外とも言えるゴリラの申し出に、それでもシバは頭を巡らす。
「パイルドライバーだと・・・?なるほど・・・イケるかもな」
尚も、シバは頭の中で戦法をシミュレーションする。
「おいっ!それ借りるぞ、土建屋ぁっ!」
シバが無線に向かって怒鳴る。
「おう!使えや、喧嘩屋ぁ!ただし、ヌカるんじゃねーぞ?!ワシんとこの大事な若い衆が『世話』になっとんじゃ!丁重に『礼』をくれてやれや!」
ゴリラも負けじとばかりに怒鳴り返す。
「機重班っ、聞こえるかっ?今・・・」
ドラム地上部隊長も、事態の急展開に着いていくのがやっとだった。
「こちら機重班、話は聞こえている!準備に取り掛かるぞ!ハイパーキャノンを取り付けるスペースがあるから、そこへ何とかしてパイルドライバーを固定させる!20分・・・いや、15分待ってくれ!」
自分が指示したい事を、すでに現場は実行へ移していた。
各クルーが、それぞれ自身の役割を自分で考えながら『目的』に向かって最大限に果たそうとしている。それがひしひしと肌に伝わって来るのが分かる。ドラムは思わず身震いを覚えた。
気を取り直して、ドラムがアカツキに確認をとる。
「アカツキ!グリーンが此処に着くまで何分掛かる?!」
"予定時刻は12分10秒後です"
つまり、差し引き約3分間は現有戦力で持ち堪えなくてはならない事になる。それが間に合わなければ、シーガル達はグリーンとそのファミリーの餌食だ。
シバの無線がシーガルに飛ぶ。
「シーガルっ!聞こえるか?!こっちの準備が整ったら、どうにかしてグリーンを整備庫のゲート前まで誘い出すんだ。いいか?チャンスは『1回きり』だからな!」
やや間があって。
少し落ち着きを取り戻したドラムが、無線のマイクを握る。
「アカツキ、全部隊放送だ」
ドラムは、胸に突き上げる思いを吐き出さずにはいられなかった。
"了解です。全無線機及び全館放送に接続しました"
「・・・地上部隊諸君っ!部隊長のドラムである。聞いてのとおり、我らが仇敵が向こうから現れてくれた!これほど好機は他において無し!
我々は6千万年前の、恐竜共から逃げ惑っていた哀れなネズミでは無いっ!地上部隊の総力を挙げて叩き潰すぞ!各自、一層の奮励に務めるべし!以上っ!」
久しぶりに評価点を頂きました。有難うございます!
対・グリーン編もいよいよ佳境に入ります。
「ティラノサウルスがジャングルに隠れる」という1話目からの伏線も、やっと回収が出来ました。
またこれからもご愛顧のほど、よろしくお願い申し上げます。




