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華星に捧ぐ  作者: 潜水艦7号
21/70

終結

セキリティ班がやって来たのは、それから3時間ほどした後だった。


シバの手から、セキリティ班へとアクアマリンが引き渡される。


「・・・バース・ネーム『アクアマリン』こと、『ザッカー・エンデバーグ』だな?我々はセキリティ班の人間だ。君にはテロ行為に関する嫌疑が掛けられている。何かこの場で申し立てることはあるかね?」


セキリティ班のブラインド班長が、アクアマリンを見据える。


「・・・いえ」

アクアマリンは短く答える。


「手錠を掛ける事に、同意してもらえるかな?」


「はい」

下を向いたまま、アクアマリンは淡々と答えた。


ガチャン!と音がして、容疑者の両手に手錠が掛かけられる。

「よろしい。現時刻を以って、君のバース・ネームは一時凍結される。以後は許可があるまで全て本名で対応してもらう。いいね?」


コクッ・・・とアクアマリン、いやザッカー・エンデバーグが小さく頷く。その姿は、まるで20年も一気に歳をとったかのように生気がなかった。


「それと・・・一応、規則だから『口上』を言うので聞いておくように」

そう前置きしてから「ううん」と、ブラインド班長が咳払いをする。


「君の人権はフェニックス人事管理規程第98条の規定にもとづき、一時的に制限を受ける。君には査問委員会の尋問を受ける際に、弁護士の立会いを求める権利がある。

君には自身に不利となる証言を拒否又は黙秘する権利がある。ただし、そのような場合は『捜査に非協力的である』として、罪状の有無や量刑の決定において著しい不利を受ける事がある。・・・以上だ。質問はあるかな?」


「・・・何もありません」

それは、今にも消え入りそうな声だった。


「・・・分かった。では、行くぞ」

両脇を抱えられ、アクアマリンことザッカー・エンデバーグはシャットルへと消えていった。



その様子を、シバとクラウドはキャビンのモニターを通じて黙って見ていた。


「ヤツは航空機関士のライセンス持ちだったって?」

シバがクラウドに聞く。


「うん、船のことにはとても詳しかったよ」


「ふー・・・ん。つまり、テロを起こすためには相当に船の勉強をしなくちゃぁならないが、ただ単に勉強しただけでは怪しまれるから『機関士の試験勉強です』という事にしたんだろうな」


どうなんだろう、とクラウドは思う。或いは『船が好き』というのだけは、本当であって欲しい気もするが。


「・・・シャトル、行っちゃったけど・・・僕達は此処に居ていいの?」

クラウドがシバに尋ねる。


「容疑者を運搬する船には、操縦士も含めてセキリティ班の人間のみが同乗できるルールだからな。

どっちにしろ一緒にはならねぇよ。それに、こっちはこっちでウスイが復活したら査問委員会からの聞き取り調査が始まるだろうしな。特に『お前』は主役なんだし。残ってねぇとよ」


「査問かぁ・・・気が重いなあ・・・」

クラウドが愚痴をこぼす。


「まぁ、そう言うな。『もらい事故』みてぇなモンだ、こっちに非はねぇ。むしろ、甚大な被害を食い止めたんだ。表彰されても良いくらいだぜ」


「・・・・」

クラウドは気が抜けたように黙っている。


「おい」

シバが話しかける。


「・・・今なら、ウスイは聞いちゃぁいねぇ。何か言いたい事があるなら、今のうちだぞ?」

シバが指を指す先にはOFFになっているウスイのPOWERスイッチがある。


「・・・実は・・」

クラウドは、先程にアクアマリンから聞いた話をした。


「なるほど、『2つめのゲート』か。・・・その話自体にゃぁ、別に機密は無いんだろーな。

アルバトロスがチョロチョロしてた時点で『何かはある』と誰もが思うだろうし。問題は、その情報が『何処から入ってきたか』だ。・・・かなり『上の方』からの情報だぜ?それは」


それはつまり『機密がテロ企画者側へ漏れている可能性』を示唆している。


「お前が『それ』を言うのなら俺も話をしておくが・・・ヤツには『共犯者』が居る。それも、かなりの上位者に、だ。あるいは相当に組織的な犯行の可能性もある」

シバはクラウドの方を向かず、独り言のように言う。


「どうしてそれが?」

クラウドが問う。


「此処に来る途中、シャトルでタイムランを確認したんだ。本来の流れで言うなら『電源遮断』と『通信途絶』は同時のハズだろ?ところが、実際のタイムランを確認したら、通信途絶は電源遮断より10秒も『前』なんだ」


落ち着いて語るシバだが、その心中は只ならぬ事が容易に理解できる。


「じゃぁ・・・誰かが中の様子を悟られないために?」

おずおずと、クラウドが聞き返す。


「多分な。AIがハッキングされるなんて、前代未聞だぜ。相当に・・・あるんだろうな」


そう言えば『アクアマリン』の座っていた椅子のロックは勝手に外れていたが、そもそも『その席』を選んだのは他ならぬ本人自身だ。それもクラウドに取られないように、先に着席したようにも思える。何か仕掛けがあったのかも知れない。


「・・もしかして」

クラウドが疑問を口にする。


「彼はサダの司祭だけど・・・」


「そうだな。俺も『それ』は考えている」

シバは窓から火星を見ている。


「だが、相手は厄介だからな。『宗教』ってヤツぁ、色々と難しい」

忌々しい、と言わんばかりにシバが溜息をつく。


「でも・・・事情が事情なんだし、キチンと説明すれば他の信徒の皆にも協力を仰げないかな?」

クラウドの提案にシバが首を横に振る。


「それが理想だが、現実には難しいだろうな。俺達は科学の世界に生きてる。科学は『事実』がどうかを問うものだ。

だが、彼らは違う。宗教は『事実かどうか』が問題じゃぁない。『信じるか、信じないか』の価値観を問うものだ。いくら事実を積み上げたところで、それが人の価値観を変える理由になるかどうかは別問題だからな・・・」


シバの話はクラウドにとって全てを理解できるものでは無かったかも知れない。だが、容易ならざる相手であることは、何となく理解できた。


「ねえ・・・『宗教』って何なの?」

クラウドは根源的な問いを投げかける。


「さぁな。俺はその定義を知らんよ。ただな、宇宙全体を支配している物理法則ってのは、今もって俺達が全てを知っているワケじゃぁない。ぶっちゃけ、分からない事だらけだよ。

『生命と意思は何故、誕生したのか』とか『インフレーション以前の宇宙はどうだったのか』なんていうテーマには未だに科学的な唯一解が無ぇ・・・。でも現実として『有るものは有る』ワケだ。その『空白部分』を埋めるのに『神様』ってのは都合が良いんだろうな」


「・・・・そう・・・」

ボソっと、クラウドが生返事をする。


「まぁ・・・いい」

シバが大きく伸びをする。


「どっちにしろ、今回の失敗で敵サンも暫くは大人しいだろうし。俺らには俺らの通常業務があるからな。・・・火星の地上に着いたらキッチリ、コキ使ってやるから覚悟しとけよっ?!」


ジロッとシバがクラウドを睨みつける。が、その目は先程のように厳しくはなかった。





やっと、最初の1段落目が終わりました。

次回から、火星地上編に入りたいと思います。

1段落目の相手は「人間」でした。

2段落目は「恐竜」です。前フリだけで出番の無かった『グリーン』も、ようやく本編の真ん中に躍り出てきますし、名前しか出てこなかったクラウドの姉、シーガルもやっと出番です。

では、また。

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