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華星に捧ぐ  作者: 潜水艦7号
20/70

必然

「シバさん、ドーベルさんが意識を取り戻したって!処置が要るからキャビンに来て欲しいって、チェアさんが」


アクアマリンを監視しているシバの元に、クラウドがやって来た。


「あ・・・・」

目を覚ましているアクアマリンにクラウドが気づいた。


「そうか、分かった。俺はキャビンに行ってくるから、その間コイツを見とけ。オメー、得意だろ?コイツの監視は」


シバはシャレにもならない冗談を言い残してキャビンに向かった。


「・・・ドーベルが・・・死んで無かったのか・・・」

アクアマリンが呟く。


「うん・・・気配に気づいて咄嗟に振り返ったから、ギリギリで急所を外れたんだ」


「そうか・・・なるほど。君のシートのロックを外したのも、ドーベルってワケか。気付かなかった・・・迂闊だったな、そう言えば確かめる事はしなかった・・・」

ふふふ・・・とアクアマリンが笑う。


「『気付かなかった』んじゃない。『気付かれないようにしてた』んだ。僕がね」

クラウドがアクアマリンの認識を否定する。


「・・・ドーベルさんが『即死ではない』のは見えていたんだ。でも、それをアクアマリンさんに悟られるとトドメを刺されるから。だから、騒いだり、暴れる『フリ』をして、注意がそちらに向かないようにしてたんだ」


「・・・自分は・・・自分では冷静だった『つもり』だが・・・焦ってたんだな・・・やはり」

誰に聞かせるワケでもなく、アクアマリンが囁いた。


「アクアマリンさんがキャビンを出てってから、ドーベルさんを呼んだんだ。彼も意識が飛ぶ寸前だったけど、どうにかシートのロックを解除してくれた」


船倉は電源が復帰してもなお、薄暗かった。


「それから『鎮静剤を打ってくれ』と頼まれたから、それをドーベルさんに投与したんだ。鎮静剤の場所と使い方は、そこで学んだよ。それで、申し訳無かったけど、キャプテンのスーツから鎮静剤を取り出して・・・」


なるほど。自分を絞め落とした後、自分を動けなくするために『それ』を投与したというワケだ。

アクアマリンは、やっと流れを理解出来た。


「・・・右肘が・・・右肘が今でもジンジンしているよ。靭帯がイったかな・・・?」

アクアマリンが話を変える。


「事情が事情でしたから手加減出来ませんでしたけど。・・・謝るつもりは、ありません」

クラウドが言い切る。


「いや、別に謝罪を求めてはいないよ・・・言ったろ?『人を殺すには、殺される覚悟が要る』って。私は君を殺そうとしたんだ。代償として腕の1本やそこら、安いモンだよ」

アクアマリンが左右に首を振る。


「そうではなくって・・・意外と、強かったんだなっ・・・て。『あの技』は何だい?私の肘を壊したヤツだ。初めて見る技だな」


「技?ああ・・・アレは『柳返し』という技です。アクアマリンさんが知らなくても無理はありません。五縄流柔術は、基本的に技を公開してませんから」

クラウドは淡々と語る。


「・・・・五縄流?聞いたことはあるな・・・シークレット・サービスの連中で、そんな流派を使う人が居るらしいね・・」


「・・・『知られた技』は研究され、対処されてしまいます。五縄流は『殺人術』ですから、それでは困るんです。ですから、なるべく人目につく所で技を出すことはしないんです。本当は、ですが」


それを聞いてアクアマリンはふと、思い当たる事があった。

「もしかしてアレかい・・・?シバ班長とか、シーガルさんが『強い』って言うのも・・?」


「そうです。ふたりとも、同門です。というか、シバさんは現宗家の次男ですから。僕達姉弟は、その分派なんです。ふたりとも小さい頃からシバさんには鍛えてもらってました」


「・・・そういう事か・・・」

納得したように、アクアマリンが溜息をつく。


シバやシーガルが『強い』という噂は聞いていたが、『何故、強いのか』とまでは考えた事がなかった。


「・・・アクアマリンさんもご存知だと思いますが、フェニックスは試験成績でクルーを採用するワケではありません。あくまで、必要とされるスペックを持っている人間を採用します。僕の場合は『そういう理由』でした」


つまり、五縄流の遣い手としての技量が『火星現地向き』として評価された採用というワケだ。


「僕が参謀本部での基礎訓練を免除されて、いきなり火星配属になったのも『縁故関係』だからじゃありません。

『基礎訓練の必要性が無い』からなんです。フィジカルにおいても、『覚悟』の点でも。僕が貰った人事の書類には『そう』書いてありました」


「・・なるほど。人工頭脳(ブレイン)の思考は100%計算結果なんだから、『いい加減』な選定をするハズが無い・・・と言えば、そうだね。だが・・・」


アクアマリンが疑問を口にする。

「だとしたら、だ。・・・どうしてエンジンルームに来たときに『中性子銃』を持ってたんだ?最初から徒手で充分戦えたんじゃないのか?」


「それは・・・アクアマリンさんが『僕の事を何処まで知っているのか』が分からなかったからです。

アナタは最初、僕に遭ったときに『リッカに僕の事を聞いた』と言ってましたよね?その時に五縄流の事を聞いていた可能性があったからです。もしも知っていれば、警戒されて接近戦術は採らなかったでしょう?」


思い返してみると、アルバトロスの傍で親しげにしているクラウドを警戒して『何者?』とは確認したが、そこまで詳しくは聞いて無かった。単に『シーガルの弟』と聞いて、納得したのだ。


「その後も、何かにつけて『僕』に探りを入れてましたよね?『竹取物語』の話とか。アレは僕の国籍とか・・・そんな事を知ろうとしたんじゃないんですか?」


「まぁ・・・、ね」


「ですから五縄流の事も知っている可能性があるとみて、保険を掛けてたんです」


だとすると。

アクアマリンが自らファイティングポーズをとった事は『五縄流の事を知らない』と自白したようなものだ。


「でも、アクアマリンさんは五縄流のことを知らない様子でした。となれば『殺す』という手段はベストな選択ではありません。後から事情を聞くためにも『生け捕り』を考えるべきだと判断したんです」


勝負は、その時点で『ほぼ決まっていた』のかも知れない。何の事は無い、クラウドは最初からアクアマリンを警戒していたのだ。


「それにしても、だ。あの『ジャブ』には結構、自信があったんだがな・・・『躱されない』ってね。恐れ入るな、五縄流ってのは」

自嘲気味なアクアマリンに、クラウドが首を振る。


「いえ。そうではありません。シバさんなら・・・或いは初見で『あのジャブ』を躱せたかも知れませんが、僕には『顔面に右のジャブが来る』という確信がありましたので」


「確信?なるほど、攻撃の選択肢は限られていると?」


「僕の『隙』を作るなら、顔面攻撃が最も妥当ですから。それと、地球で承諾書を書いた時にアクアマリンさんは『右手』でペンを持ってましたよね?食事の時もそうでしたが、アナタは右利きなんです。

普通、右利きの人の打撃は『左が前』の半身姿勢です。でも、アクアマリンさんは『逆』でした。つまり、二撃目を考えることなく、最初から『右』を使うつもりなんだ・・と思いました」


よく見てるな、とアクアマリンは苦笑いをした。確かに右手でペンを持っていた記憶だ。


「・・・けど、『タイミング』はどうするんだい?なるべく、ノーモーションを心がけたつもりだけど?」


「それは・・・僕はアクアマリンさんの『左膝』を見てました。ああいう『床』ですから、どうしても飛び出しの瞬間にオーバーアクションで床を蹴る必要があります。

なので、その寸前『左膝』に『溜め』が入るだろうと。後は『見切り発車』です。コースは、読めてますから」


ふぅ・・・・と大きく、アクアマリンが溜息をつく。

「いやぁ・・・・完敗だよ。私は、負けるべくして負けたという事だな。正直・・・私は君がそこまでの人間とは思わなかった」


アクアマリンは、先程にシバが語っていた事を思い出していた。

シバはアクアマリンに『お前に他人の心を知る能力は無いだろう?』と問いかけていた。だが、その時に自分は『私は他人とは違う』と考えていた。


自分なら、他人の考えを知る事が出来ると。たが現実はそうではなかった。少なくとも自分はクラウドの思考を、まったく読めていなかったのだ。サダの司祭とは言え、所詮は自分も唯の人間に過ぎない。そのことに驕った事が『必然の敗因』とも言えた。


「ひとつ、聞いていいですか?」

今度はクラウドがアクアマリンに尋ねる。


「・・・何だい?」


「何故、このタイミングだったんですか?ゲートを破壊するという・・・」


「ああ・・・『それ』か・・・どうしようかな・・・まぁ、良いか。君には色々と勉強させてもらったからね。特別に教えよう」

アクアマリンの口端がニヤリ、と笑ったように見えた。


「火星にね、『2つ目のゲート』が計画されているんだよ。まぁ・・・飽くまで計画段階だけどさ。

アルバトロス部隊長は『それ』を運搬する手段の検討として、事実上退役しているSB12が『使えるか否か』を判断しに来てたんだ。何しろ、モノがデカいから、無重力船も数が要るからね」


「2つ目のゲート・・・」


「ああ、そうだ。それが実現すれば、ゲートを1つ破壊しても無意味になるだろ?だから、早目に手を打ったのさ。今回なら乗艦するクルーの数も少ないし。

・・・おっと、この話はウスイが『聞いて』いない『今』だから出来る話だ。もし君がこの先、妙な事に巻き込まれたくなかったら、この話は黙っていることだ。いいね?」


それだけ言うと、アクアマリンはまるで壊れたかのように高笑いを始めた。



 


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