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華星に捧ぐ  作者: 潜水艦7号
19/70

接見

ゴオ・・・ン・・・ゴオ・・・ン・・・


アクアマリンの耳に、何処か遠くから機械の唸り音が聞こえる。

意識がハッキリしない。考えがまとまらない。身体はズッシリと重く、言うことを聞かない。


此処は・・・何処だ?・・・一体、何が起きた・・・


「う・・・」

どうにかして、身体を動かそうと試みる。両手が後ろに回ったまま動かない。どうやら、捕縛されているようだ。


此処は何処だ?辺りを見るに、少なくともエンジンルームではない。貨物があるところを見ると、船倉だろうか?


「ふん!・・・お目覚めかい?この、寝坊助野郎がよ!」

イラついた悪態が聞こえる。


声のする方に眼をやると、何者かの靴が見えた。


オレンジ色のブーツ、防災対応班だ。・・・それに、この伝え聞く口の悪さだ。


「・・・アナタは・・・シバ班長?・・・クラウド君の叔父・・・とか?」

やっとの事で、アクアマリンが声を絞り出す。


だが、シバはその問いには答えようはとしなかった。


「事情は全部、クラウドから聞いたがな。このクソッ・・・タレ野郎が・・・。テメーが『GCBの強制遮断』なんつー余計なマネしやがったせいで、システムのいくつかが今になっても立ち上がらねぇ・・。

ウスイも電源ユニットの平滑コンデンサがパンクしちまって『復旧不能』だとよ。お陰で、本部に連絡をとるにもシャトルに戻らねーといけないハメだ・・・」


シバが足元に転がるアクアマリンを睨みつける。

「まったく・・・億単位の損害だぜ。・・・この費用は全額、テメーの給料から差っ引いとくからな?覚悟しとけ」


そうか・・・自分は『失敗』したか・・・だが、『ウスイが沈黙している』今なら、或いは。


「・・・ムダだ。下らん事を考えんじゃぁねぇ」

まるでアクアマリンの心中を見透かすように、シバが気勢を先する。


「テメーの身体には『緊急用鎮静剤』が投与されてる。動けやしねーよ」


医療体制が不十分な宇宙で大きな事故に遭った場合。

もっとも恐れるのは怪我そのものよりも、怪我による痛みとパニックだ。これが肉体を追い込み、助かる生命ですら失わせてしまうケースが少なくない。


そのため、宇宙での業務にあたるクルーには各自それぞれに『緊急用鎮静剤』が付与されていた。この薬は例えば『腕がもげる』といった激痛すら抑え込むために『副作用上等』の処方になっている。健常者に使用すれば、タダでは済まない。


「まぁ、仮にテメーが健常だったとしても、だ。・・・『俺』は強ぇぞ?少なくとも、テメーがボロクソに負けたクラウドよりかは、な」


・・・ああ、そうだった。クラウドの強さというか対応力は完全に想定外だった。


ふっ・・・と、アクアマリンが身体の力を抜く。


「・・・次の便でセキリティ班の連中が来たら、テメーを引き渡す。それまで大人しくしてな。・・・だがその前に、ひとつだけ聞いておく。テメー、何で『こんなマネ』をしやがった?」

シバがアクアマリンに詰問する。


「・・・一言で言えば・・・これは『神のご意思』だよ?行き過ぎた人類に対する『警告』と『審判』さ・・・バベルの塔の伝説を知っているかい?神に近づくための高すぎた塔は、神威の雷槌によって灰燼に帰すんだ・・・」


アクアマリンが苦しい呼吸を庇いながら、小声で答えた。


「ふん!随分と人為的な『神のご意思』もあったモンだな?オイ」

そう吐き捨てると、シバはアクアマリンの足元へ、ボロボロになった一冊の本を投げて寄越した。


「・・!」

『それ』が何であるか、アクアマリンには瞬時にして理解できた。


「・・・く・・・ぞんざいに扱うな!それは・・・私の・・・大事なものだ・・・」


それは彼が常日頃から肌身話さず持っている、サダ教の教典だった。


「大事?そうか。ならテメーはこの本の中身を全部覚えているとでも言うのか?」

シバの問いに、アクアマリンがムッとした表情を見せる。


「愚問だ・・・。仮にも司祭である身を・・・愚弄するか・・・!」


「なら聞くがな・・・その『大事な教典』とやらの、その何処に『己の目的の為には人殺しをしても良い』と書いてあるんだ?あぁ?」

シバが語気を強める。


「・・・貴様・・・知った風な口を叩くな・・・!」

アクアマリンが歯ぎしりをする。


「ふん!反論になってねーな。『痛いところ』を突かれたか?テメーらは『教典』に従って生きるんじゃねーのかよ?

それが、教典の何処にも書いてねーような『解釈』を『神のご意思』だと?ふざけんじゃぁねぇぞ、コラ。信徒が勝手に『神のご意思』を騙るってなぁ、それこそイチバンの背信行為ってヤツじゃねーのかよっ!」


シバが声を荒らげる。


「・・・君は・・・何も知らないのだよ・・・教典は・・・サダの全てじゃぁ・・ない。私は『司祭』だ・・・。私は『神のご意思』を知ることが出来るのだよ・・・そう、『人類の総意』を、だ・・・」


それは、ほとんど聞き取れない独り言のような小声だった。


「・・・は?何を言ってやがる。テメーの言うこたぁ矛盾してんだよ」

ジロリ、とシバが眼光鋭く睨みつける。


「人間はな、野生の世界じゃぁ圧倒的に『弱い』んだよ。火星に居て恐竜共とヤリあってると、それが良く分かるぜ・・・? 

グリーンどころかホンの小さな恐竜相手だって、フィジカル勝負になれば人間に勝ち目は少ねぇ。何しろコッチは爪も、牙も、毒も、体格も、何もアドバンテージが無ぇからな」


アクアマリンは何も言わず、下を向いたままだ。


「・・・そんな人類が、だ。どうすればこの野生の世界で勝ち残れる?それにはな、『仲間との連携』が不可欠なんだよ。

意思の疎通、それこそが人類の生存戦略なんだ。そのために、人間には『他人の考えを推し量る』っつー能力がある。まぁ・・・象くらいの動物にもあるらしいがな。しかし、だ」


相変わらず、アクアマリンはじっとしてる。聞いているのか・いないのか判然としないが、構わずシバが続ける。


「その能力は『相手の思考を考える事が出来る』のであって『相手の思考を知る事が出来る』んじゃぁねーぜ? 必ず『そこ』には差異が生じるんだ・・・ホントはテメーも分かってんだろ? 

テメーはクラウド達を『騙す事が出来る』と考えていたハズだ。『騙せる』ってこたぁ、相手に自分の思考を悟られないという自信があったからなんじゃねーのかよ? 

それが何だって?『人類を総意を知る事が出来る』って?クソ野郎が・・・そいつが『矛盾』だって言ってんだよ!」


「・・・・・」

やはり、返事は無い。


「もしも『人間には他人様の考えを知る事が出来る能力がある』って確信があんなら、テメーはこんな『馬鹿なマネ』はしなかった・・・いや、出来なかったハズだ。結局テメーは自分に都合よく物事を解釈してただけなんだ」


がっくりと肩を落としているアクアマリンは、やはり黙したままだった。








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