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華星に捧ぐ  作者: 潜水艦7号
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出航

「え?火星行きの船ってあんなに小さいんですか?!」

クラウドが驚いた声を上げる。


何しろ、目の前にあったのはホンの小さなボートほどの大きさしかない船であった。


「ははは。まさか、ですよ」

アクアマリンが笑う。


「アレは本船までの(はしけ)です。大抵の惑星間船はとても大きいでしょ?だから月に着陸させると邪魔になるんで、少し離れた場所で周回係留させているんです。ですから、あの艀で本船に行くんですよ」


クラウド達が月に来て一週間。やっと、火星に行く日がやって来た。3ヶ月に1度やって来るという『火星行きゲート』が地球の近くまで周回して来たのだ。


「なるほど・・・ところで、僕達の他に人間が居ないみたいだけど、操縦士さんとかは?」

キョロキョロとクラウドが辺りを見渡す。


「このクラスの小型船になると、全てAIが自動運転しますから。人間は不要なんです。さぁ、乗りますよ?」


アクアマリンがクラウドを急かす。

二人が艀に乗り込むと、ハッチが自動で閉まった。


"お疲れ様です。私はこの艀専属のトウジと言います。では、これから本船に向かいますので暫くお待ちください"


船内に機械音声が入るとともに、艀がゆっくりと浮かび上がった。


「うおっ・・・!」

発進の揺れに、クラウドが体勢を崩す。


「大丈夫かい?しっかり捕まっていなよ?・・・ホラ、あそこに見えているのが『本船』だ」


アクアマリンが示す先に、巨大なタンクが重なったような形をした『本船』が見える。


「・・・流石に・・・大きいですね」

クラウドが息を飲む。


「そうだね。惑星間輸送船としてはアレでも小さい方だけど・・・それでも全長で300mほどはあるかな?」


「・・・あの、真ん中に見える『タンク』みたいなのが本体ですよね?すると、周りにある3つの小さなタンクに噴射口みたいなのが着いているのが『エンジン』ですか?」


初めて見る惑星間輸送船に、クラウドは惹きつけられずにいられなかった。


「その通りだよ」

相変わらず、アクアマリンは船の事を聞かれるのが嬉しいようだ。


「何しろ、地球と火星では周回速度が2万km/hも違うから、あの船で2万km/h分だけ『加速』する必要があるんだ。その『フル加速』で、ゲートに飛び込む・・・そしたら、反対側は『火星』ってワケだ」


「・・・エンジンは・・・何なんです?何だか、噴射口に縦横に柱みたいなのが突き刺さってますけど」

クラウドが本船の後部を指差す。


「あははは、柱か。そうだね、まるで柱のようだね」

楽しそうにアクアマリンが笑う。


「アレは対消滅エンジンの電子ビームだよ。君も、対消滅エンジンの名前くらいは聞いた事ぐらいはあるだろう?」


「ええ。・・・アレがそうですか・・・いや、本物は初めて見ました!」

クラウドが感嘆の声を上げる。


「あの『柱』みたいな電子ビームから、噴射ノズル目掛けて『陽電子』と『通常の電子』を放出させるんだ。

するとそのふたつが衝突した瞬間に対消滅によって、E=mc2の公式に則って文字通り爆発的な推進力が生まれるのさ。・・・爆発力が強すぎて地球近くでは使えないくらいさ」


アクアマリンが説明をしている間に、艀は本船近くに達していた。


"ドッキングします。シートに着席してください"

トウジから、アナウンスが入った。



「ようこそ!二人とも。私が艦長(キャプテン)のオーシャンだ。よろしくな」

一際にガタイの良い男が、本船のキャビンで二人を待ち構えていた。


「いえ。こちらこそ、よろしくお願いします。キャプテン」

二人は防護スーツごしにキャプテンと握手を交わす。


「この船はお前たちの他に、オレを含めて4名で運行する。オレと、此処に居る操縦士のドーベル、それに機関室に居る航空機関士のチェアとストールだな」


ドーベルと紹介された男がシート越しに顔をこちらに向け、軽く会釈した。

「ドーベルだ。よろしくな」


「おっと、それから忘れてたぜ!この船に専属するAIの・・・」


"専属AIのウスイです。火星までご案内します"

キャビンに機械音声が入る。


「さて・・・お前たちは『そこ』に座っていてくれ。今から超・加速すっから、流石にチャンと固定しないと危険だからよ。固定のセットと解除は外部からでないと出来ないから自由は無いが、そこはカンベンな?」


アクアマリンが嬉しそうに、そそくさとシートに座る。やや遅れてクラウドもシートに座り、オーシャンがロックを掛けてくれた。


「さて・・・ドーベル、チェア、ストール、てめぇら!準備は良いだろーな!いくぞ!」

キャビンにオーシャンの威勢のいい声が響く。


「月前線基地、聞こえるか?時間だ、行くぞ!」


"こちら月前線基地の人工頭脳(ルナ)、進路良好。定刻になりましたので出航を許可します"


ルナの人工音声が入って来る。沢山の宇宙船の管制をするためだろうか。心なしか、強い意思を感じる音声だった。




操縦士のことを『パイロット』と云いますが、もともと『パイロット』というのは港の水先案内人の事を指す言葉なんだそうですね。

港湾内は何処もクセがあり、浅くて座礁の危険があるところを避けたり、タグボートによる接岸の調整には卓越した個人技が必要とされるとか。

尊敬に値する職業だと思います。

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