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雷紅とは


 光無し(ひなし)の首は視認出来るかどうか困難なほど薄く淡い光を放つ刃ではねらた。首が宙を舞いエイクが受け止めるまでの間私の呼吸は停止し、皮膚を突き破る程の鼓動を一つ。恐怖したわけでも、動揺した訳でも無く、自分ではない別の存在が目を覚ます感覚が一瞬。はっきりそれを認識することは出来ず、母の胎内で見た以来、生きているモノ以外を捉えたのは初めてだと驚く隙も与えず、掴みようのない存在が私の中でひっそりと息を潜め消えていった。


 失いかけた意識を取り戻すと部屋に集められた半数は立ち上がっており、光無しの首が刎ねられた事に動揺し、声をあげる者も。「なぜ、どうやって首がはねられたんだ!?」と、しかし立ち上がった者の半数は直ぐに鼻で笑うように腰掛け、エイクがゆっくりとため息を吐きながら口を開く。


「今、立ち上がったままの人は雷紅盤返してや、この状況で心を乱して動揺したまんまなんてこの先絶対無理や、できる限り優しく言うても足手まといや(・・・・・・)


 エイクは部屋に集められた者達を選別した、全員その(雷紅狩り)に長けた人ばかりだと勝手に思っていた、どうやら違うみたいだ。エココが立ち竦んだ者達から雷紅盤を取り上げたが、一人の男はどうやら気にくわないらしく、怒りを声にのせるが、光無しの頭を小脇に抱えたエイクに拒絶される。


「ここに来るまで半年かかったんだぞ! 今更参加出来ない? ふざけるな! 俺の街の人間になんと言えばいい!」

「そういう所があかんのや、ここまで来れた事は褒めたる。せやけど…邪魔や! 雇い主は誰や? あたしやな? 言うこと聞いてくれな報酬も無い! それでもええか!」


 声を荒げた彼に続き不服を称える者が触発され、今にもエイクに飛びかかりそうな数人を報酬という圧力で抑え込む。肩を震わせているように感じるが何よりも報酬が大事だと、堪え忍ぶ歯ぎしりの音が聞こえる。その態度を見たエイクは彼に背を向け、どこから来た? 名前は? と、落ち着いた口調で彼に問うと彼は

港町ボーンマスから来て名前はマクヴィと名乗った。


 聞いたことも無い街、半年かけてこの日のためにここまでやってきたということは、相当遠い場所にあると考える。

 まだ声も若く成人しているかも怪しい彼はマクヴィ、彼にも彼なりの思いがある様子で、やはりまだ心底納得した様子では無さそうに、ここに来るまでの苦難をマクヴィは語る。


 「俺達はあんたの呼びかけに触発され、お金と呪縛を解くためにボーンマスを仲間と三人で出た。だけどあんたの指定したルートは殺意の塊しかなかった。ここまで来れたのは俺だけで、他の二人は途中で息絶えた。俺にボーンマスの街を頼むって…あんたも見ただろう、あの街が雷紅の呪いで苦しんでる姿を」


「あたしのルート通りここまで来てくれておおきに、お仲間さんは残念やったな。報酬はここに居る人には約束通りちゃんと渡す。成功報酬は渡されへんけどそれはまた別や、その代わり皆がそれぞれ抱えとる問題は解決する。それまでこの場所で君らは待機や」


 当初の報酬は手に入る、そして危険な雷光狩りに参加しなくても良い、誰もが納得出来る答えだ。それ以降誰も異を称える者達はいなくなり、光無しの胴体は当たり前のように自分の頭部をエイクから奪い元の位置に戻す。


 「と…言うことでアンリ(光無し)は死なない、と言うか死ねないんや。過去、雷紅に首を刎ねられてから本来の記憶と魂を持って行かれたらしい。他にもそういう奴は何処かにおる、アンリみたいな奴は稀や」


 エイクは光無しのこの身体を使って雷紅を丘の上まで道連れのような形で誘い込み、光無しが雷紅と剣を交えるのは一度だけだと、雷紅は一撃で自らの武器が朽ちてしまう弱点があると説明した。それを知っているエイクは何者だろうと頭をよぎる。

 誘い込んだ丘の上で光無しは雷紅の追撃を受け止め姿を消した帝国兵で四方を囲み数で討伐すると皆に説明した。原始的な人海戦術だが他に方法が無いという。更には雷紅の呪縛にも耐えなければならない。


 雷紅の呪縛は恐ろしいとエイクの話はつづく、雷紅に首を刈られた者は自我が崩壊し死を奪われる、それに耐えられず生命のあるものを憎むただの肉塊となる。それは殺された者だけならまだしも血の繋がった者に呪縛は蔓延する。歯向かう者は全て根絶やしにするかの如く、末代まで留める事は無い。だが雷紅の刃は一振りで朽ちるから心配するなと皆に言い聞かせる。


 私が住むカドゥルの街を犠牲にして、此処に集まった人達が雷紅を狩ることに納得できない。私は隣に居るエココに聞いてみた。


「エココさん、みんなが雷紅狩るのはお金と呪縛を解くため? 私の街はどうでもいいの? 何で雷紅を狩るの?」

「それは…せやけどみんな雷紅に苦しめられたんや、今回で終わるならそれでいいと思っとる。恨むんやったら雷紅がこの街に居ることを恨んでや…ごめんな」


 必要な犠牲、そう割り切るしかないと言いたいのだろうか。ならば雷紅を恨めといい切る辺り恐ろしい。私が雷紅って何者なの

と聞くとエココは雷紅について私に説明してくれた。


 雷紅は帝国の唯一無二の象徴であると。戦にでれば一騎当千で相手の軍の指揮官を一振りで葬り、どれだけ隠れようが身を守ろうがあいつが前線に出たら戦は終わる。雷紅が指揮官の所に辿り着くまで姿を捉えることは難しく、すれ違った兵士は黒焦げ、その姿はまるで雷光そのもの、指揮官の首を刎ねたら紅い飛沫。それでついた名が雷紅や。しかも帝国皇帝の姿を唯一見たことのある人物。その雷紅がある日帝国から姿を消した、唯一帝国皇帝の姿を知る人物。帝国側からしたらそんな存在をほったらかしにするわけないと、それで一部の人間に秘密裏に雷紅討伐、あるいは持ち帰れと命が下され、ついでに領土広げるそうだ。


 エココに雷紅の素性を教えて貰っている間にどうやら準備は整ったようだ、各々が立ちあがった。残る者は向かう者を励まし、エイクとエココは私の両サイドで討伐隊を見送り「さぁいこか」とエイクは私の頭を叩き、「それでおまえんち何処や」とエイクは私に聞く。

 くしくも雷紅討伐地点の直ぐそばに私の家がある。そう告げるとエイクはそれは好都合と先に外に出た光無し達後を追うように私を引っ張り外に出た。


 私は母と妹を帝国から助ける、今はそれが大事だ雷紅狩った後は私の街は帝国の領土と化す、それならば私も必要な犠牲を払う、私と妹と母、三人居れば何処いたって普通の幸せが取り戻せる。

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