真意不明
その日のうちに家に帰っているはずだった。母と妹そして義父と。いつもと変わらず母は妹エレナを可愛がり、私は義父にフォークを渡してもらい、決して贅沢な食事では無いが、そこには当たり前という幸せが、誰にも気付かれず存在していた。
そんな当たり前の光景は二度とやってこない。
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私は家の中、閑古鳥も鳴くことを放棄し外は静まりかえっている。
エココはこのカドゥルの街が血の海になると私に伝えた。それは雷光狩りの過程や結果がそうささせるのか、たった三人と雷光と呼ばれるモノで、そこまでおぞましい表現を選択するだろうか。事実だとすれば、エレナや母も巻き込まれてしまうのでは? 私だけがここで助かろうとも、その後に残るのは孤独。ならせめて母とエレナだけでも救いたい、私は残されたくは無い孤独に生きるなら孤独に死にたい。無理な願いだとしても伝えなくては。
「ママとエレナを助けてほしい」
「ええけど、どこに居てるんや? ここカドゥルやで?」
期待してはいなかった。全く期待していなかった訳ではないが、即答されると思考が追いつかない。まだ何も解決してはいないが、じわりと染み込む歓喜の波が私の悦を呼び起こす。
「いいの?」
笑っていたと思う、ここに来て始めて笑った。私を見たエココはまだ浮かれるには早いと、落ちるかせるように条件を突きつける。
「いいのって、自分から言うたんやん。でも条件はあるで、あたしらが助けるんちゃう、あんたが一人でやるんや」
「わたしひとりで?」
「そうや、【自らの望みは自らの手で】これがあたしらの決まりや」
ここがカドゥルのどの場所かわからない。協力してはくれないのは分かった。一人では無理だとも思う、それでも先の見えない命を腐らせるよりはましだ。助けるといっても此処が何処なのか知る必要がある。それ位なら答えてくれると思いエココに今、カドゥルのどこに居るのと聞いた。
「此処はカドゥルの街の西側やな。ママは何所に居てるんや?」
「長い階段の近くに居る…ます」
私の住む街カドゥルには廃墟と化し、誰も寄りつかない場所がある。それがこの西側だ、街に聳え立つ塔を建設したときに出た不要なモノが当時のままだと、エレナと義父で丘に上がったときに義父が言っていた。その場所には危ないから行ってはいけないと、義父は私とエレナに忠告し、それを聞いてエレナは残念そうな返事とは正反対の顔で、目を輝かせながら返事をし、義父に念を押されていた。
誰もが立ち入らない西側を抜けるのに、どの位の時間と困難が要するのか、私の不具な状況なら絶望するだろう、だけど今は沸々と湧いてくる前進思考、助けたいと願う思いは何所までも無限に広がる。
腹の底から自由になった喉を、声を震わせ「外まであんないして下さい」とエココに伝えると両手を掴み背中をポンと叩くと、私の歩幅に合わせ部屋の外へと一つドアが空く。
隣の部屋へ入ると光無しが椅子に座り、数人の大人達が壁際に腰掛けている。張り詰めた空気の中現れた私に、光無しの首から上をこちらに向け、微動だにせず不気味。凍り付いたような光無しの影に遮られていたエイクが顔を現すと、エココを制止しようと慌てて此方に息を荒げ近付いてくる。
「ちょい! ちょいと! エココその子どうするんや!? 私のお楽しみやで! 何で部屋から出した!? 持って帰って更なる技術の向上と民のためもしくはあたしの叡知の糧となる貴重なサンプルの可能性を秘めた唯一無二の存在を傍若無人な脳みそ筋肉繊維とお花畑のハイブリッド馬鹿の帝国に渡す気か?」
「お姉ちゃん落ち着きーや、そんな顔で言わんでも大丈夫や、この子は自分で選んだんや、ママを妹を助けるって」
エココの【自分で選んだ】と言うセリフを聞いて、エイクの興奮気味の呼吸は大きく息を吸い込み、背を丸めてしまった。
「ふーん…助けるなぁ、まぁほんまにそれが救いになるんかなぁ、ハァ…」
「まぁまぁ、そんな肩を落さんと、ちゃんと此処に帰ってくるような仕掛けもしとるから、安心してや」
「そうかぁ、ならええけどマッマも、妹もお前も途中でくたばるなやぁ、ちゃんと三人であたし達の所に帰ってこいよー」
興味を失ったように言うと、エイクは元の場所に戻り、光無しの陰に隠れていった。最後のエイクの言葉は嬉しかった。私も、母も妹も無事に連れて帰って来いと、私にはそう言っているように聞こえた。
エココは私に誰にも見つからないようにと、姿を消してもらい、エココに頭を下げて深々とお辞儀をした。垂れた頭を上げようとすると、今の今まで静観していた光無しが口をひらいた。
「おい、お前の名は」
冷冷たる言いの光無し、私の姿が消えても会話が通じるということは、この部屋に居る人達は皆、既に姿を消しているのか。だとすると、エココも私が目を覚ました時から消えていたと言うことになる。この人達は姿を消そうが、私が見えていることに驚きもしない。どういった心境の変化か、名前を聞くなんて今更な感じもするが、答えておいて支障あるわけでも無く、嘘をつく必要も無く普通に名前を言った。
「ハイネです。ハイネ・クワイタスです―――」
頭を上げ外に出ようとエココにお願いするが、今度は光無しが立ちあがり、ドアノブにかかったエココの手を止めた。
「気が変わった、そいつはまだ外に出すな。作戦の確認が終わったらエイク、お前も一緒について行け」
「はぁ? 時間もそんなに無いのに何であたしが? 追加で報酬くれるなら構わんけど」
「倍、報酬は倍だ、但しこいつの家族もろとも連れてこい」
「倍!?やった、これでもう研究部屋に引きこもれるわ、エココ、これで余計な仕事せんくて済むで」
エイクは跳ねるようにその場からエココに抱きつき、くっついて離れない。エココは不安なのかエイク程喜んでいるような素振りは見せない。エココに諭され元に位置に戻ったエイクは、雷紅狩りの作戦を集まった数人に対して確認している。私は光無しの予想外の助けにひと喜びし、ドアの前で立ったまま、直ぐにでも飛び出したい気持ちを抑え、エイクの話が終わるのを待つ。
「では簡単に、今回の目的は二つ、一つ目は働き手の確保。最小限の被害、特にこの街に住む人に手出しは厳禁や、一人でも多く綺麗な状態でエロスニルに持って帰る。そして二つ目が雷紅の首」
働き手? 目的は雷紅だけじゃ無かった、私の住む街の人々、更には余所から大地祭りに来た人々もろとも連れて行くという事になる。数人でそれだけの人数をどうやって連れて行くのだろう。
「そんで『何処におるか?』や、雷紅のおる方向はこの街の南側、この街に入ってから盤の針が指す方向がカチカチで九割方、南で停滞しとる。今まで雷紅の姿を捉えた者はおらん、せやけどこの盤は雷紅の位置を教えてくれる」
エイクは盤の針を力一杯動かそうとしてみせるが、ビクともしていない様子。盤の針は引き寄せられるように、雷紅の位置を指すようだ。エイクは針を触った手を咥えながら続きを始め、エココに雷紅盤を一人一人に配らせた。
「それでや、この南側にある高い丘の上に追い込む、丘の近隣は保証できんが、何とか街の被害は最小限に抑える事が出来る。さて、姿も見ることの難しい雷紅をどうやってそこまで追い込むか…恐らく誰もが雷紅を視界に捉えた瞬間首を刎ねられとる。そこでアンリの出番や」
アンリと呼ばれる光無しの男、座った姿勢からゆっくり立ちあがり、部屋の中央にへ移動すると大の字に両手を手を広げ、天を仰ぐように静止すると光無しの首は宙を舞った。
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