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光無し

 運命は無数の分岐を日常に張り巡らせていた。この日は最も進んではいけない道を選んでしまったのかもしれない。


※※※※ ※※※※ ※※※※ ※※※※


 エレナに放って置かれた事はかなりショックだ、エレナは賢いとはいっても、まだ幼いから私のあんな姿に驚いただけなはずだ、家に帰って暫くしたら、きっといつも通り接してくれると思いたい。

 雨が殴るように強くなってきた。川岸にへたり込んで帰る手段を探し、手に触れる雑草をむしり取って横風にのせた。誰かが通るのをひたすら待つ、それ以外は今の私に思いつきそうに無い、が…。それもすぐに頓挫してしまう。

 ひたすら待っているだけでは、じわじわと体温を奪い、蝕むように芯まで冷え切る事に恐怖を感じ、せめて雨に当たらない場所へと移動することにした。正面は川、後方は多分、私達が来た方向だと思う。ここまでは一本道で、ふらふらと歩みはしたが極端に曲がることは無かったはずだ、うまく街に近付けば人通りも増えるだろう。運が良ければ、そこに向かうまでに雨をしのげる所があるかもしれない。

 

 私は這いずりながら、道を手探りで探し細々と茂っていた雑草の地を抜けると、何とか川岸から整地された道まで出ることが出来た。整地されているといっても地面は綺麗な石畳では無く、雨に濡れて泥となった土の道だ。全身汚い姿になっているに違いないが、それでも帰りたいという執念が、なりふり構わず四つ足の状態で街が、家があるはずの方向へと進む。


 時間と手足が麻痺し、私の身体に流れる光が弱々しくなり始めた頃、雨の音色が変わった。雨が弾く音が前方上の方からする。屋根の可能性は高い、やっと雨をしのげる場所で人を待つことが出来る。

 屋根の下まで来れたのか、私に向けられた自然の殺意は屋根で遮られている。安堵と共に震えが止まらない、無我夢中で進み続けたのだ気が抜けてしまった。私は左側に倒れ込む、肩に何かが触れた感触と室内に入り込んだのか、風の当たらない上半身と室内であろうささやかな反響音。依然と当たり続ける風は下半身のみ。助かった、麻痺していた手には乾燥した草が数本、纏わり付いていた。ひとまず助かった気がする。


 どうやら人は居ないのか、私に気付いて駆け寄るものは居ない。手が温かいと思えば、手に纏わり付いていた物は藁のようだ、転がり込んだ場所から立ちあがり、壁伝いに沿って奥へと進み、おそらく藁山だろうか、そこに倒れ込むが、それだけでは雨に濡れて冷え切った身体はまだ震えたままだ。私は藁をかき分け掘り起こし、藁山の中に潜り込んだ。藁の中は思いの外温かく、肌はチクチク、ムズムズするが構ってはいられない。とても暖かいが時間が経つにつれ、藁の刺激が痒みを誘発してきた。

 藁の中で肌を摩りながら身体を温めていると、今まで見えなかったはずの人型?の光が藁の隙間から見える。おかしい、誰も入って来て無かったし、私が入った時も居なかったはず…。人型の光、声を出して家まで送ってもらうかとも考えたが、今は安全に帰れるよう、もう少し様子を見てから決めても良さそうだ。

 

 悩んでいると光の人物は誰かと喋りだした。


 「アンリ、雨なんて聞いとらんで、こんな雨やったら街入れへんで」

 「時間に遅れるがここで雨が止むまで待機だ、先に街に行っているエココが心配するだろうが、やむを得ん」

 「エココはさぁ、いつも運がええなぁ、もう寝床で、ふわふわのベッドでゴロゴロしとるんやろなぁ、あたしはこーんな藁の山かぁ」

 「…知らん、雨を凌げるだけありがたいと思え、明日は藁でさえも寝れないかもしれないからな」

 「アホな、明日はあたしらは英雄になっとる。【雷紅狩り】の英雄になって、国に帰ったら贅沢な暮らしができるんや」

 「だと、いいな」


 先に喋ったのは女の声、妙なしゃべり方だ、後から喋ったのは大人の男、どうやら私と同じで雨宿りでここに来た人達のようだ。雨が止むまで居るつもりらしい、ここからだと目と鼻の先に女がいて、男の方は見えはしない。それと【雷紅狩り】って何だろうか。物騒な事をいってはいるが、私のような子供に危害を加えなさそうではある。ましてや目の見えない私だ、この人達に家まで送ってもらっても良さそうだ。いきなり声を出してしまっては驚くだろうから、まずここから出よう。藁をかき分け、顔を出し声をかける。


 「すみませんおねぇさん、私…」


 手を伸ばしたはずだった、いつの間にこうなったの? 苦しい、地面にめり込みそうなほど、押さえ込まれ両手は後ろで掴まれている私の身体。顔は何とか柔らかい藁の上だが両手は悲鳴を上げそうなほどがっちりと拘束されている。痛いと感じると同時に直ぐさま男の問いが一つ。


 「なぜ俺達が分かった(・・・・)? おい、エイクお前解いたのか?」

 「解いてへん、ずっと誰にも見えないようにしてたんやから、私の調合薬は透明、無味無臭無音、記憶も透けてしまいそうなぐらい無になれるはずや」

 「そうか、なら問題ない」

 「何がや! 問題ありや、どうするんやあたしら見られたで」


 私は痛みと二人の会話で選択を誤ったのだと、後悔する事しか出来ない、男の問いに答えようとも、圧迫された身体ではうまく発声ができずに唸り声を発する事しか出来ないが、それもすぐに出来なくなるぐらい、私にのしかかっている男の言葉に後悔する。

 

 「こいつを殺す」

 「ええぇ可哀想やん、それはやめとこ、まだ子供やで? 綺麗な髪しとるやん、きっと顔も可愛いんとちゃうかな」


 女は私に近づき毛羽だった物で、乱れていたであろう私の髪を払いのけ、顔を見たのだろう。短い沈黙の後、女は不思議そうに男に伝える。


 「アンリ、この子大問題や」

 「ちゃんと説明しろ」


 「この子目あらへんで、おかしない? 最初こいつが出て来たとき絶対こっち向いて喋ってきてたで、つまり【聞こえとる】いうことや、んでもっとおかしいのは、そん時あたしに手を伸ばしたんや、見えてな無理やろ?」


 ああ、選択を誤った。つまり私は見えていないのに見えないモノが見えていたということか。


 「エイク、喋れるなら子供だろうと容赦はしない、不安要素は0にしたい、始末する」

 「ほんま…それこそ本末転倒やで、ええもんがあるわ、任しとき」


 女はお尻から伸びた長い光を使って、私の口に液体を流し込んだ。


 「これでこの子喋られへんようになるで」


 うそ…うそだ…私から声も奪うなんて…何で? 何もしてないのに。もう喋れなくなるんだ…



 もう喋れないんだ。


 

次回はどうだろう一週間以内!

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