表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/22

思い出ヒリヒリ

 私の名はハイネ、眼が見えない忌み子として、母に名付けられた。それから三年後。


 ※※※※ ※※※※ ※※※※ ※※※※



 三歳になった私は、ようやく人との会話が成立するようになった。それまではとても不自由で、もどかしかった。頭の中では喋れているつもりでも、上手く言葉にが出来ず、つい半年前までは「まま どこ」「まま いたい」程度の言葉だった。それと同時に、この二つの体質も自分の意思で、ある程度コントロールすることが出来るようになった。


 一つ目は、全くもってよく分からないが。落雷にあった翌日、私の身体は、ぼんやりと光り続けていたようだ。母は暫く私に触れてくれなかったのはそのせいだろう。そんな奇妙な私に触れたのは義父だった。

 義父は私を抱き抱えると「治まったよ、カレナ」と母を呼ぶ声。その抱えられた感触の後、二つ目の体質をはっきりと認識した。

 その二つ目の体質は、人の形が捉えられる事だ。人に形といっても全ては見えず、光の線が人型のように張り巡らされ、視るというよりは肌で感じる。特に頭の部分と、胸の辺りに細い光が集中している。目の見えない私にとっては十分な事だが難点があり、その対象が生きているということ。家の中の椅子やテーブルなどは全く判らない。見える範囲が私の手の届く距離までしか見えないということ。

 二つ目の体質について、母や義父に伝える事も出来るが・・・やはり、忌み子としての存在を強調してしまう気がする。伝えるのが恐い、もし伝えたなら、今度は本当に処分されるかもしれない。知らない事の幸せは母から教わった、知らなくて良いこともあると。


 そんな我が子では無い私を、義父は嬉しそうに毎月、外に連れ出そうとする。この日は月に一度外出の日だ。外出すると義父は、多くのことを一方的に私に話しかけてくる。

 この街は昔、非常に栄え今ほど閑散とはしておらず、汗臭くはあるものの、活気のある街だったそうだ。今は若者が商業の町に出稼ぎに行き、その家族や老後を楽しむお年寄りが大半だ。母の胎内にいる時、街はほとんどが年寄りか子供ばかりだったのは、そういう事だった。

 そして今日もまた義父に呼ばれ、苦痛な一日が始まる。


 「ハイネ~! 準備は出来た? 今日は何処に行こうか?」


勿論、準備は一通り整っている。あの部分以外は。

 私は外出する時、目のあった場所を隠すように巻かれた包帯を

義父に外し手もらい、前髪を自分の両手でわしゃわしゃと、鼻の辺りまで下ろし眼をかくす。


 「ハイネ、前髪がまだくしゃくしゃだね、直してあげるよ。そっちに行くからね」 

 「いや、ママに」


 私は母に直して欲しい。


 「ハイネ、ママはもう外出してしまっていないんだよ。パパじゃ駄目かい?」

 「だめ、じぶんでする」


 母の櫛を取ってもらい、自分で綺麗に整える。


 「じゃぁ行こうか、ママには内緒であまいの食べに行こう!」

 「ママがおこる、いかない」


 そんな事はしなくていい、今日もいつもと同じ場所で、同じように過ごすだけでいい。


 「パパ、いつものとこ」

 「またかい? あんな所でいいのかい? それならまた途中で何か買っていこうか?」

 「うん、いいよ」


 いつもの場所はそれ程遠くは無く、家の裏手のから歩いてすぐの所に。長い階段があり、頂上では日差しを遮ぎる屋根がある。数人は腰をかけられそうな場所に、私と義父は座り、そこで他愛のない話をし、肌寒くなる時間まで毎回そこでのんびりとする。


 家から出ると、今日は晴れているのか、温かい。少し肌がヒリヒリするけど、肌に当たる柔らかい風が、私を癒してくれる気がする。

 少し歩いた所でお昼ご飯を買い、階段の前まで来ると義父は「ここから階段だよ、今日はどうする?」と私に聞くので「じぶんで」と返し、手探りで次の階段を探りながら、一段づつゆっくりと登りきる。


 頂上に着くと、長椅子に腰掛け、野菜の入ったパンを食べ、時折日陰から外に出してもらっては、義父に呼ばれ日陰に戻る。


 「ハイネ、そんなにお日様にあたると、ママに似て綺麗な白い肌が鬼みたいに真っ赤になっちゃうぞ」

 「うん」


 普段、太陽にさらされる事が少ない私の身体は、すぐに真っ赤に染まるみたいだ。鬼みたいに真っ赤と言われても、鬼なんて見たこと無い。それよりここからの景色をもう一度みたい。空は真っ青、何処かに向かう白い雲、赤い夕焼け。今はどんな形の雲が、空を泳いでいるのだろう・・・義父に聞いてみようか、今は空に何があって、どんな色をしているのか、目の見えない私にどう説明するのか。


 「パパ、そらにはなにある?」

 「ん? 珍しいねハイネから喋ってくるなんて」

 「なにある?」

 「そうだな~・・・」


 義父は困っているのか、それとも真剣に考えているのか、何があるかなんて見なくてもわかると思う。すぐに答えると思っていたが、予想外の熟考で少し気まずい。私の目の見えない事を踏まえて返答しようとすれば、難しいのかもしれない。


 義父は思いついたように立ち上がると、私を日向に連れ出しこう言う。


 「そうだな、ママとハイネがいるね」

 

 意味がよく分からないが、続けて義父は口をひらく。


 「ママの髪の色は水色、ハイネは白。空には青い空と白い雲! だから空にはハイネとママが見えるね!」


 もう少し気の利いた答えは無かったのだろうか、それは私が見えている前提じゃないか。私を困らしたいのか、それなら私も。


 「パパはいない、いらない」


 きっと辛いだろう、娘に要らないと言われて、どんな気持ちだろう。


 「パパの髪は黒いから、夜になると出てくるよ。そこにはハイネも一緒にいるね、夜になると空にはお星が出るんだ。その星は白銀のように光るんだけど、それがハイネかな」


 少しも私の事を考慮していない返答に、苛立ちを感じる。もう何も聞かないでおこう、少しでも期待したのが間違いだった。


 「パパ、かえる」

 「ええ!? パパの説明駄目だったかい!?」

 「うん、かえる」


 月に一度の義父との外出は、やはり苦痛だった。


 帰りは階段を下りるには危険だと、いつも義父におんぶをしてもらい階段を下りる。家に帰ると母は優しく「お帰りなさい」と言う。いつもに比べ機嫌がよさそうな声、今日は義父にピッタリ張り付き、そばを離れない。夜のご飯も、義父の好きなものばかりだ。普段と違うと思っていたが、疲れたので私はご飯を食べてすぐに眠ってしまった―――



 その日の夜中、私は肌のヒリヒリと焼ける感触で目が覚めた。すると、母の苦しむ声が聞こえる、荒々しい義父の声もする。ただならぬ声に私はベッドの左側からおり、壁伝いに母の寝室へ向かう。寝室の前まで来ると、ドアが空いた。


 「邪魔しないでね」


 それは優しくも冷たい母の声色。何も無いなら良かった。私は息の荒い義父に連れられ部屋へと戻さされた。


 それから一年近く経った頃、私に妹が出来た。何も不自由のない元気な妹だ、私もこんな風に普通に産まれたかった。その時私は妹に少し嫉妬した。


次回は8月28日投稿予定!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ