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眠る魂の記憶

火曜日ですけど寝てないからまだ月曜日

 静観。見下ろした空は私達に圧力をかけ、空気は重く、停滞し、時は刻むのを恐れたかのように未来を望まない。


 襲いかかる鈍行感を先に振り払ったのは、変わり果てた標的。雷紅は私達に気付き、ゆっくりと流れるように振り向くと最早、人では無くなっていた。


 隠していた顔は荒れ果てた獣の面。髪は不揃いな長さで艶もなく屍のそれ。瞳は赤く、振り向きざまに光の跡を残した。もう衣服も引き千切られ意味を成さない、全身は枯れ果て、肉もそげ落ち、その手には長く伸びた鋭い爪という武器。


「おい聞いてないぞ…屍か!? 動くのかあいつ」

「ガブルァアア!!」


 光無しの初めて焦った声色。雷紅は腹の底に響く雄叫び。それと同時に光無しと雷紅を直線上で結んだ箇所の粘土の造形は爆発し、塊ごと消えて無くなり煙幕だけを残していた。


 後ずさり? 違う。攻撃を受けた? 光無し自らの意思で動いてはいない。

 光無しは膝をつき絶えること無く、肩部から胸部にかけて血を流し、雷紅は腕を振り、爪に残った光無しの血を払い、義父の顔に付着させた。


「何で爆発してんだ! 面倒くせぇ!!」

「ガェフェナァッァァアア!!!!!」


 雷紅は前かがみで地に手を付け、光無しを揺さぶりあらぬ方向へ跳ねると、その先にある木を撓らせ更に加速し、その軌道に爆風が踊り舞う。

 光無しも構えるのがやっと、その速度には到底及ばず、雷紅は光無しの大剣と体の隙間に身を入れ、大剣を後ろ足で固定していた。


「これが本当に雷光か!? やっぱり聞いてねぇ!! 俺も知らん!!」

「グァアァッァアアィアアア!!!!!」


 変貌した雷紅の両腕は、全てを刈り取る爪と共に振り下ろされるが、光無しの首をすり抜け、その先には何故か私。


「グュフッ」


間一髪、光無しは封じられた両手にかわり、雷紅の腹部に蹴りを入れると、空気の漏れる音を置き去りに両者距離をとった。


「お前狙われてるのか? 囮になるか?」

「むり、すぐしぬ」

「んじゃぁ! 死にものぐるいでしがみつてろっよっ!」


 光無しは雷紅の不規則な動きに四苦八苦し、枯れ果てた姿の雷紅は見た目では想像できない機敏な動きで地面を蹴り、継続して私を狙い続けていた。

 暫く防戦状態の光無しは、一振りの攻撃を受けつつ段々と余裕がうまれ。


「どれだけ揺さぶろうが狙いが一辺倒なんだよ! バレたら劣勢っ! 振り落とされるなよ!!!」


 光無しは守りに徹した思うと、浮遊した光の玉を一つ残し身体にねじ込み反撃開始の準備。

 急速に加速する光無しの全て、私はそのスピードに振り回されるが落ちたら最後餌食となると思うと、腕が吹き飛びそうなほど

死にものぐるいで光無しの背にしがみつき、猛攻を退け重い音と軋む音を同時に立て雷紅の骨を粉砕する。それでも雷紅は、壊れた玩具のように休む事なく繰り返した。


 雷紅のスピードは衰えを感じさせない、光無しの反撃を直に受けても、あらぬ方向に拉げた手足は、何事も無かったように回復し再生する。対して光無しは血が止まらない、攻勢ではあるが仕留め急いで身体の異変を紛らわそうと何故か多弁。


「お互い全力は気持ちがいいなぁ!」


 飽きる程退屈で単調で、浮かぶ雲は次第に仄暗く、朱く染まる空。光無しの輝きも次第に薄れ、疲労が蓄積し動きが鈍くなる。私の腕ももう限界だ。


「お前そこの残った玉を取って放り投げろ!! 手が離せん!! それで合図を送る!!」


 合図? 爆破の合図? 見上げると私の頭上にふわりと残された一つの光。その光は内側だけ激しく火花が交わり、数多の青白い脈が外に向かって暴れ狂っていた。

 片手を光無しの身体から離し、浮遊する残った光の玉を恐る恐る手に取る。その様に私の手が焦げ付いてしまうのでは無いかと心配したが、意外にもほんのり温かく軽かった。予想外の軽さと何か起こるかもしれないと身構えた緊張は、嘲うように手に取った玉が、ふわりと私の元を離れようと逃げていく。「絶対に失敗したらいけない」それを両手で追いかけ掴むが、一つの事に安堵した私は気が抜け失念していた。私のもう片方の腕はエレナの両腕を抱え、光無しにしがみついていたはずだが儚くも。


「え!? あっ!」


 離れていく近いけど遠く、前のめりになった光無し、迫るくる雷紅、手に収まる光の玉、エレナの腕を抱え直し、受け身を取れず背中から地面に落ちる私。

 起爆の合図がエイクに伝わり発動するまでの時間と、雷紅が私に鋭い爪を身体に食い込ませる時間。どちらが早いかはわかりきっている。迫る出来事に目を背けたくても、防ぐことが出来ない私の視界。光無しは此方に身体を向けるのが精一杯、私を助ける義理など光無しには無いけども、しばらくは気にはかけてくれている素振りは無くも無い。


「……やく…投げろ!!」


 叫ぶ光無しの声が微かに聞こえる。

 皇后と輝きだした最後の光の玉を手にし地面に背中を打ち付け、衝撃で呼吸もままならない。


「間に合うか!?」


 瞬間意識が飛ぶも、光無しの声が耳に入る時には既に光の玉は宙を飛び回り上空に昇っていった。持っていたらまずいと直感的に感じた。あたかも私の身体それを知っていないと間に合わないタイミングで、それを空へと放り投げ、迫り来る雷紅の影の中でただ恐怖を迎え入れるしかなく、最後に頭に過ぎるのは何故か光無しの事。


 光無しはこの場所まで、独りでエレナを助けに行けと言われた私に、同行しろとエココに言った。私を受け止めたのも、エココの瓦礫振り払ったのも、この人だった。

 初めてこの人に会った時、確実に私を始末すると言い放った。腕も訳の分からない方向に曲げられ、目一杯押さえつけたり、見えるはずの光も見えない、意味の分からない昔の話もしだすし私にとって不思議な人だ。

 それが今は私を狙う雷紅から本来の目的とは違えど、守ってくれていた。自身の目的の遂行であれば本当に私を囮として使い、隙を付けばそれで済んだはずだ。やはりこの人は優しいのかもしれないなと思ったり…だから助けて欲しい。まだ生きているなら家族揃って皆で笑いたい。


 雨、閃光の五月雨、隠れた朝を告げる灯りは別の形で姿を現した。打ち上げられた最後の玉は上空で破裂し、詰まっていた火花が地表の粘土目がけて降り注ぐ。視界が真っ白になるほど強い輝きは、意思を持ったように寸分狂わず全ての粘土に直撃したのだろう、連なって響く爆発音。


 辛うじて意識を保ち、最後に見たのは朱黒い蠢く無数の影、ゆらゆらと四方八方に飛び散り消えることは無い魂の欠片。光無しが言う魂の記憶と言うやつか、それとも呪いか、何処までも続く影は嗤う虫のよう。


 合図? エイクに送る合図にしては早かった。どうやら起爆じゃ無くてそういうこと? 終わりを告げる合図と言う事か。間一髪?…でもおかしい、私も巻き込まれてもおかしくない距離に居た。雷紅も目の前に迫っていたはずだが姿が見えない。


「助かった…光無しはどこ? 一緒に消えた…?」


 全方位に光無しの姿はない、と言うよりも見える範囲がかなり狭い。手の届く範囲が精一杯で自分以外、確認出来るのは平らに整地された地とエレナの両腕と…と?


 エレナの腕が一、二、肩に添えられたこの腕で三? 全部で三本。一本多い。誰の腕? 自分のを確認、ちゃんとある。光無し? それにしては細く透き通る程白い手、よく手入れされ美しい女性の手。ここに居たのは、私、光無し、雷紅、となると雷紅の腕? あの状態からここまで綺麗な手になるだろうか? 全く予想も出来ない、どうなってこうなったか検討も見当も付かない、私の知らない事が多すぎる―――


 合図から数時間は経過しただろうか、光無しも姿は現さず時間をかけ探したが欠片も見つからない。


また月曜日に~(多分)

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