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略奪テスト

作者: 天道凍士

『恋愛にルールなんてない!本当に好きなら奪っちゃえばいいの!』


スマホに表示された文章に僕は感銘を受けた。

そうだ、奪っちゃいけないなんて誰が決めたんだ!本当に好きなら彼氏がいたって諦めずにアタックするべきだ!

僕は密かに決意した。噂の彼氏から幼馴染を奪うことを。


まず僕は友人にアドバイスを求めた。

友人、といっても実際は幼馴染の友人。僕とはSNS上で話をするだけの関係だが、彼女の恋愛に対する向き合い方に僕は心酔している。先ほどの文章だって彼女から送られてきたものだ。

僕は最初に、決意の旨を伝えた。

『僕、彼女を本気で奪おうと思うよ!』

返信は早かった。

『いいじゃん!諦められないなら絶対そっちの方がいいって!』

覚悟の旨は伝わったようだった。協力的な返事に安堵する。

明日にはサークルの集まりで幼馴染と顔を合わせるのだ。一刻も早く、アドバイスが欲しかった。

他力本願甚だしく、僕は助言を乞うた。

『奪うって、具体的にどうすればいいと思う?』

直球ど真ん中に聞いた。実際恋愛経験なんて皆無の僕にはどうしていいか分からないのだ。

だが恋愛経験豊富そうな彼女にとってもさすがにこの質問は返答が難しかったらしい。「既読」マークが付いてから返事が来るまでに10分ほどの間が空いた。

『とりあえず、その子の彼氏をどう貶めるかだよね』

…ん?

略奪愛なんてものを志し、あまつさえ正当化している、「外道」な僕でもさすがに、その方法はどうなんだと思った。

『さすがにそれはマズいんじゃない?』

助言を求めたのに助言に反論するのはどうかと思う。が、やはり僕はその手段が適切であるとは思えなかった。

『でも、そうでもしなきゃ奪えないよ?』

それは確かに、最もな意見な気もする。僕みたいな長所0の男が他人の彼女を奪うには、相手を蹴落とすくらいしなければならないのかもしれない。

でも。でも、だ。

やっぱり、彼女の案には乗ろうとは思えなかった。

倫理観とかそういう面もあるが、何というかそんなことをして彼女を奪い取っても僕は本気で彼女を愛せない気がするのだ。負い目を感じるというか。

『ごめん、それでもやっぱり僕はそういうことする気にはなれないや』

送ってから思った。綺麗事ばかり言ってるから、彼女が出来ないのかもしれないな。


その夜、返事は来なかった。


結局何も作戦を考えないまま、僕は彼女と会う朝を迎えてしまった。

電車に乗って、山奥のキャンプ場の最寄り駅を目指す。ここでは男女で二分されてしまったため話せなかった。

男グループの中に、噂の彼氏らしき人物はいなかった。

電車を降りてからは男女混同で話をしていたが、僕と幼馴染が話すことはなかった。

幼馴染に接近するまたとないチャンス。これを機に僕の略奪作戦を開始しようと思っていたのに。

心が折れそうになったが、めげずに彼女へ近づこうとする。しかし、空が漆黒になるまで話すチャンスは訪れなかった。


まるで避けられているようだった。


初のチャンスは肝試しの時に訪れた。運良く彼女とペアになることが出来たのだ。


絶好のシチュエーション。

僕は気分がハイになっていたんだと思う。

幼馴染に告白しようと考えていた。

僕と彼女が枝を踏み分け進む中、僕は何の脈絡もなしに言ってしまった。


「好きだよ」


暗闇の中、彼女の表情は伺えない。

ドキドキと響く心臓の鼓動は段々と早まってくる。

一刻も早く、答えが欲しかった。

手に持った懐中電灯で彼女の顔を照らそうとすると、幼馴染の手がポケットに入っていることに気づいた。

取り出したのはスマホだった。

シャッ、シャッと操作したそれを僕に渡す。

彼氏との写真でも見せられるのだろうかと恐る恐る見ると、そこに映っていたのは僕と「相談役」の彼女との昨日のトークだった。


「何でこれ、お前が…?」


唖然として彼女の顔を照らすと、頬は真っ赤に染まり、目は心做しか潤んでいた。

まるで、先程までの僕のよう。

「…です。」

俯きながら言う彼女の声は、簡単に虫の鳴き声で掻き消される。

「え、何?」

思わず聞き返す。

「合格です!」

幽霊役も驚くような声で彼女は言い、僕に抱きついてくる。


彼氏になる条件は、『誠実さ』だったらしい。

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