聖夜の奇跡を信じない。
奇跡なんて起こらない(キリッ
みたいな話です。
あたしは聖夜の奇跡なんて信じない。ホワイトクリスマスなんて結局起こらない。
「そしてリア充爆発しろ……」
夕方のニュースの街頭インタビューで、カップルがゲラゲラ笑いながら何か話している。二人とも、似たような笑い方。似た者同士がくっつくんだな。
クリスマスだからと言って特に楽しいことがあるわけでもなく、サンタさんを信じていい子にしておやすみ、なんて歳でもない。そしてリア充でもない。
そもそも、クリスマスはキリストの誕生日を祝うイベントじゃなかったっけ。でも実はキリストの誕生日はクリスマスじゃなかった、とかそういう話だったっけ。どうでもいいけど、最近のクリスマスはひたすらリア充イベントだから蹴りたい。
この先のバレンタインはもちろんのこと、ハロウィンだってリア充が騒いでるだけだし。所詮引きこもりのオタクは二次元の世界だけ見つめて生きてろってことなんだろう。あたしはオタクじゃないけど。
「凛奈、ちょっと片づけ手伝って~」
「はーい」
クリスマスなのに、お母さんはと言えば大掃除を始めている。なんでも早めに済ませるその精神は感心するけど、あたしまで巻き込まなくたっていいじゃん。まあ、いいけど。
「凛奈、あんた部屋汚いんだからお兄ちゃん見習って少しは片付けなさいよ」
「もう、分かってるって。兄ちゃんは部屋にあんまりいないから綺麗なのが普通でしょ」
お母さんは、あたしのことをいつも兄ちゃんと比べて叱る。あたしは中3、兄ちゃんは高2。高校生活が忙しい兄ちゃんは、部屋でゆっくりくつろぐこともあんまりないらしい。
だから、兄ちゃんがいない隙を狙って友達を家に呼ぶんだけど。そして兄ちゃんの部屋に通す。悪い子だな、あたし。サンタさん来ないのも頷けるわ。
お母さんに急かされて、仕方なく部屋の片づけを始める。どうしてクリスマスなのに、こんなことを……。
兄ちゃんは彼女がいるわけじゃないけど、友達とクリスマスパーティーするとか言ってたからリア充だ。リア充なんて滅びてしまえばいいのに。
それか、あたしもリアルが充実してる人になりたい。そもそも、あたしは受験生だからまともにクリスマスを楽しむこともできないんだけど。
「ああ~……もうやだ……」
聖夜の奇跡なんて起こらない。サンタさんなんていない。ホワイトクリスマスの奇跡なんてどうでもいい。
この世界はそんなにキラキラしてない。奇跡が起こるのは所詮、二次元の世界だけだ。いい子にしてても、サンタさんが来ない子だっているもん。うちはサンタさんが来ないタイプの家だったから、幼稚園とか小学校低学年の時はサンタさんというワードが地雷だった。友だちがサンタさんの話をしていると無性に腹立たしくて、一回殴った覚えがある。
あの頃はあたしもだいぶ子供だったから、仕方ないよね。その子もその子で嫌味っぽく言ってきたんだから、当然の報いだ。殴ったあたしだけが悪いわけじゃない。たぶん。
そういうことを思い出すから、クリスマスが嫌いなのかもしれない。たしかにあたしは、クリスマスにいい思い出はない。その、友だちを殴ったことくらいしか記憶にない。
プレゼントはいつもケーキってことにされちゃうし。おばあちゃんとかからは貰ってたけど。
楽しい思い出なんて、あたしには無い。
あたしは、信じない。聖夜の奇跡なんて。
けど、もしも奇跡が起きるのなら。
楽しい思い出をたくさん作りたい。思い出した時に、思わず笑っちゃうような。
そんな思い出を作りたい。
サンタさんは、いい子のところにクリスマスプレゼントを届けてくれるんでしょう? なら、いい子にして今日は早めに寝るから。
あたしに、思い出をください。




