バーコード頭と枯れ葉
ある冬の夜のこと。
日頃のストレスでバーコード頭と化したサラリーマンの桂が、街灯を頼りにしながら自宅への帰路をたどっていた。
ひゅうっと、凍えそうなほど冷たい風が寂しく通り抜ける。
「あっ、残り少ない私の髪が……っ」
頭を手で押さえつけ、自分のわが子が旅立ってしまうのを必死になって止める。
なんとか防げたようだ。
桂は背中を丸めながら、トボトボと再び歩き始める。
すると、その途中で一本の木がぽつんっと立っているのに気が付いた。
あちらこちらに伸びている枝には、枯れ葉が数枚しかついていない。
「……ふっ、私と同じですね」
頭をなでながら、口元をゆがめる。
と、その時。
ひゅうっと、さきほどよりも強い風が吹き、雷を恐れて布団に隠れる子供のように、桂は頭を隠した。
幸いなことに、彼の宝物は守られたようだ。
「……あっ」
しかし、大木のほうはそうにもいかなかった。
軽々とした枯れ葉は、わたげのようにひらひらと舞い落ちる。
「……ふっ、さきにあなたのほうがつるつるになりそうですね」
そう言い残し、桂は優越感に浸りながら、浮足立って温かい家庭へと足を運んだ。
季節は流れ――――
ある夏の真昼間のこと。
ぎんぎらに輝く太陽のもと、桂は汗だくになりながら次の会議室へと向かうために街中を歩いていた。
ミーンミンミンミンミンっと蝉が鳴き、アスファルトに熱せられた空気がゆらゆらと蜃気楼を生み出す。
「な、なんと暑いのでしょう……」
桂は噴き出る汗をハンカチで拭いながら、ひたすらに進む。
「……あっ」
不意に視界に入ってきた光景に、彼は絶句した。
若々しい青葉を身に付けた大木が、風のいたずらでわしゃわしゃと揺れているのだ。
汗でべったりとへばりついた髪に、桂が手を伸ばすことはなかった。
そんな気力すら、ない。
彼は重い足取りで、キンキンに冷えた会議室へと向かい直す。
びゅうっと、太陽の力で元気づいた風が駆け抜ける。
数え切れないほどの葉をつけた木が、それこそカツラをかぶっているように、ふさふさと揺れた。