少女が見た風景 2
車を走らせ十数分、車内にはやり辛い空気が漂っていた。
「そこ! そこ右!!」
「ちょっと! なによあの車!! 横入りじゃない!!」
「おーそーいー! 速く走って! あの車、追い抜いて!!」
「あ、そこ左」
・・・さっきからこの調子である。
少女から感じていた恐怖は消え失せ、何とも言えない感情が俺を支配している
そこには、生意気な少女に振り回され、困り果てた運転手の姿があった。
何してんだろ・・・ 俺。
少女が目的地について語ったのは「お家」という情報だけである。
場所については、教える気が無いのか、語ろうとはしなかった。
俺もコミュニケーションを怠った訳ではなく、何度かミラー越しに尋ねたのだが、聞き出せないでいる。
家に帰るという主目的は変わらない様だが、車窓から覗く郊外の風景や街の喧騒に中てられて、心変わりしている様にも感じ取れた。
突然、指示がパタリと止む。
不思議に思った俺は速度を落とし、路肩で車を停車させた。
意を決し、後部座席を覗き込む。
と、そこには少女が一点を凝視して固まっている姿があった。
その瞳には何か諦めてしまっていたモノに向ける、憧れの様な眼差しを感じ取れる。
視線の先には、一組の男女の姿があった。
いや、語弊があるか・・・ そこには男と少女が手をつなぐ、親子の姿があった。
・・・何だろうか、このモヤモヤする感情は、あまり気分のいいものでは無い。
仲睦まじく、談笑を楽しみながら歩くその姿は、底辺職の男として嫉妬を禁じ得なかった。
男が娘に向ける無償の愛を、離れた車内からでも感じ取る事が出来る・・・
ああ、これは私怨である。
俺は少女の事も忘れ、遠ざかる親子の姿を暫しの間、睨みつけていた。
「クス」 その微笑で、思わず我に返る。
少女が、笑っていた。
彼女が見せた恨みの炎にも驚いたものだが、今見ている笑顔は違う意味で俺を釘付けにしている。
可愛い・・・ 可愛かったのである。
思わず胸が高鳴っていた。
言っとくけど、俺はロリコンじゃねーからな。
「行先、、、 変えるか!!」
唐突に、俺はそんな声を張り上げていた。
少女の可愛さに中てられて?
・・・よくわからんが、そういう事なのかもしれない。
少女が困惑した顔を、こちらに向けている。
しかし、顔色が変わるのに時間は掛からなかった。
怒りを滲ませ、反論を向けようと、、、 と、そこで言葉を遮った。
「遊園地! 行ってみないか?」
その言葉に、怒りが消え、何を言ってるのか理解できていないという顔をする少女。
それは少女にとって不意を突いた提案だったのかもしれない。
「なんだ? 遊園地は嫌いか? なら、、そうだな、別の・・・」
「遊園地!! 絶対、遊園地!!」
今度は俺が不意を突かれる。
真剣みを帯びた表情が俺に向けられていた。
そこに異論をはさませない、強い意思を感じる。
勿論、俺に異論はなかった。
何というか・・・ すごくちょろい少女である。
ホント、何やってんだろ・・・ 俺。
これじゃまるで、少女を振り回す誘拐犯である・・・
生意気な少女に振り回され、困り果てた運転手の姿は、もうそこに無かった。




