少女が見た風景 1
タクの運ちゃんを初めて数年が過ぎたある日の午後。
俺事、安積運は長距離の仕事を終えて、車内で休息をとっていた。
食事とトイレを済ませ、仮眠をとる一連の作業。
ベストなコンディションで次の仕事に臨む事を名目に行う、いつもの作業である。
慣れとは怖い物だ。
人が持つべき欲求、それが作業に変わったのは何時の事だったろうか・・・
いや、愚痴を言いたかったわけではない。
寧ろ、俺は今を楽しんでいる。
客を乗せて運ぶ。それだけの仕事が天職に思える。
天職に思えるだけの力を俺は有していたたし、
天職と思えるだけの不思議を、この仕事は抱えていた。
そう、不思議がそこにはあった。
俺が求めていたモノが・・・そこにはあった。
―――コンコン!
不意に訪れる、車外からの合図。
薄れた意識を覚醒させ、新たなお客様を窺いみる。
そこには可愛らしいお客様が一人、車窓からこちらを覗き込んでいた。
白いワンピースの少女。
この場に一人でいる事が不思議に思える程、幼いなりをしていた。
突然、ひりつくような乾きが俺の喉を襲う。
少女がこちらに笑みを向け、乗車を希望している。
気付かぬうちに頬を汗が伝っていた。 握るハンドルが汗で湿る。
コンコン!
こちらの様子がおかしいと踏んだのか、少女が今一度合図を送ってきた。
それに、俺は・・・
ガタ!
後部座席の扉が開く。 勿論、俺の意志で。
車体が微かに揺れ、少女が乗車した事を感じ取る。
そして、いつものコミュニケーションを実行した。
「うちは他より高いですよ!」
後部座席に向かい声だけを送る。返事は・・・無し。
「行先は―――」
「お家! お家に帰るの!!」
可愛らしい声が車内に響いた。
ただし、その声音からは強い意志を感じ取れる。
目的ははっきりしている様だ。
しばらく間を置き、後部座席の扉を閉める。
そして、バックミラーを覗き、俺は戸惑った。
可愛らしい声とは不釣り合いな瞳がこちらを睨みつけている。
その瞳には、燃え上がる様な怨嗟の炎が渦巻いていた。
ああ、わかっている。
あれが人ではない事を・・・俺は理解している。
でも、それでも・・・
俺はミラー越しに少女へと微笑む、そして車を走らせた。
乗せて運ぶだけの簡単なお仕事。
乗せて運び、客が望む風景を見せる、そんなお仕事。
それが俺の天職だから。
例え、客が人間でなくても。




