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「………ここは」
自称調律者が言う通りなら、4大国の何処かだよな。見た感じ王宮の中って感じだが…………
「お前、黒か?」
「お兄ちゃん!!」
「うん?アッ君」
やはり3人共転移させられていたか、不幸中の幸いで一緒に居たみたいだな。僕にとってもだが………
「黒、お前もか」
確か、異世界の歩き方の記憶は無いんだよな。異世界の歩き方の記憶を無くすなら、最初からしなくても良いんじゃないかと思うんだが…………
さて、演技に自信は無いが頑張らせて貰おうかな。本当は今直ぐにでもステータスを確認したいんだがな。
「流、それに桃、桜姉か?ここは何処だ?…………どう見ても生徒会室じゃないよな」
僕的には100点の演技だが果たしてどうだ?
「お兄ちゃん、私達も気付いたらここにいて何が何か分からないんだよ………助かるのかな?」
僕をお兄ちゃんと呼ぶのは白戸桃。1歳下の妹で、赤茶色のポニーテールが良く似合っている現時生徒会副会長。1年の秋時点で当選してしまう人気者だ。実際に告白された数も少なく無いだろう。
「アッ君は何か分かる?」
今のは1歳上の姉の白戸桜。桃と見た目はそっくりなのだが、目の色と髪型が違っている元生徒会長。こちらも妹以上に人気が有る、若干天然気味のところが良いらしい…………弟としては心配なのだが。
こうやって3人の名前を比べてみると僕だけキラキラ具合が目立つよな。両親よ、あなた方の良心を本当に疑うよ………せめて2人の容姿が有れば良かったのだが、僕だけは父親似?なのか全く似ていない。
「いや、分からないが…………ラノベ的には転移か?」
ここでも無難な答えを選べたはずだ。
「やっぱり、黒もそう思うか?」
そう言うコイツは、菊地流。趣味が似通っている小学校からの腐れ縁の悪友だ。流石に異世界に転移しても一緒になるとは思って無かったけどな。コイツが現生徒会長をしている。コイツさえ居なければ、僕が面倒くさい生徒会の書記をやらなくても済んだはずだ。
「他に誰かに会ったか?」
「まだ、アッ君以外は誰とも有ってないわよ」
「部屋にも鍵が掛かっているからな」
と言う事は、そろそろ来るかな。部外者になるだろう僕僕はどうするかな。テンプレなら王族、それも…………
「勇者の皆様、永らくお待たせ致しました。私は………」
固まっているのか?無理も無いだろうな、3人だと思っていたはずの勇者が4人居るんだからな。
「すいません。取り乱しました。私は4大国の1つ東のイストで第1王女をしております。イスト・ヴァイン=エリシア、エリーとお呼び下さい。これでも現第一王位継承者なんですよ。勇者様」
綺麗な姫だな。予想と違って僕と同じ黒髪なのが残念だ。ファンタジー、それも異世界の姫なら金髪がテンプレだろう。
しかし、調律者の時もだったが、言葉が普通に通じるのにも違和感を感じるな。
「「勇者?」」
まぁ、ラノベに慣れてない姉妹達は気になるところだろうな。逆に悪友の方は覚悟が出来てるみたいだ。
「はい。勇者様です。色々と分からない事が多く有ると思いますが、詳しいお話は王自らがなさるそうですので、申し訳ございませんが付いて来て下さいませんか?」
流石は年長者、桜姉が皆の意見を目で確認している。実際のところは付いていくしか選択肢が無いんだけどな。
「おぉ~!!よくぞ参った勇者達。ワシが4大国イストの王だ。ワシも、そなた達と同じ地球人だ。本名は織田博と言う」
「「「「えっ!?」」」」
これは想定外だ。ラノベ設定に慣れる、慣れないの問題ではない。本気で驚いてしまった。
「驚くのも無理は無い。それは、おいおい説明させて貰う。差し支え無ければ、そなた達の名前を聞いても良いか?」
「あっ、はい。私は白戸桜と申します」
「白戸桃です」
「白戸黒」
僕の名前を聞いた瞬間…………一瞬だが、王と王妃?らしき人が驚いた顔をしていた。そんなに驚かなくても良いと思うんだがな。
「俺は菊地流と言います」
「改めて、よくぞ参った勇者達よ。ワシは、魔王を倒す為に地球から呼ばれた先代の12勇者の1人だ。18年前にワシらは魔王を封印したのだが、先日復活の兆候を感じた。恐らく遠く無い先に魔王が復活する………そなた達を召喚したのは魔王の再封印の為だ」
うん。期待した通りのなかなかのテンプレだ。
「わざわさ私達を召喚しなくても、その12勇者で封印すれば良いのでは?」
桜姉の言う事は、もっともだが………その質問は無駄だ。出来る事なら既にしているはずだ。無理だから新たに召喚しているのだろう。まぁ、ここは桜姉や流に任せて、僕は冷静に話を聞かせて貰おうか。
「勿論、ワシも出来るならそうしたいのだが、無理なのだ。封印には黄道12星座を継ぐ勇者の力が必要なのだ。18年前の戦いを生き残った勇者達は、ワシを残して既に地球に戻っておる。ワシは女王………当時の姫と恋に落ち、この異世界に残ったのだ」
「勇者達は生きているのですよね。では、もう1度地球に戻った勇者達を呼び戻せば良かったのでは?」
「それは無理なのだ。人が次元を越えれるのは2度まで、地球に戻った者の再召喚は不可能なのだ。どうか頼む。勝手なお願いでは有るが、ワシらを……ファンダルシアを助けてはくれぬか。勿論、出来る限りの事はさせて頂く」
王、王妃らしき人、王女、そして兵士達が一斉に頭を下げてくる。
テンプレなのだが、異世界の住人は他力本願過ぎるな、少しは自分で何とかして欲しいものだ。
「私達に戦うのは無理ですね。直ぐにでも地球、日本に帰らせて下さい」
「今は出来ないのだ」
「何故ですか?先代の勇者は地球に戻っているんですよね」
「魔力が足りぬのだ。この世界に存在する人種は魔力が低い、MPが0の者が殆どなのだ。今回12勇者を召喚するのにも4大国の大魔術師級の魔導師が18年間蓄えた魔力を使っておる」
「「「18年!?」」」
おいおい、それは長すぎるぞ。
「じゃあ、私達は18年間は地球に帰れないのですか?」
家族だから分かるが、桜姉はかなり怒ってらっしゃるな…………
「それなのだが、魔王の魔力を使えば帰れる。以前も、魔王の魔力を使って帰還したのだ」
「少し、私達だけで考えさせて下さい」
王が本当の事を言っているかは分からないが、直ぐに地球に戻る為には魔王を封印しろって事か…………さて、3人はどうするのかな?




