第七話 すれ違う女
その日は残業になった。
幸い家が近い人がいて、車で送ってもらえることになり、私はその人の車に他の女の子二人と一緒に乗り込んだ。
もう夜中を回っていた。
彼女たち二人の家は近所で、山の手にある。
さすがに若い二人は夜中過ぎても元気で、よくしゃべる。
車中はかなり賑やかだった。
車は、しばらくはそうして広い国道を走っていたが、やがて上の方へ行くルートを辿り始めた。
街灯も少なくなって、だんだんと道が暗くなる。
この辺りはくねくねとカーブが続く細道だ。
突然、それまでずっと続いていた民家がふっとなくなった。
かわりに笹のような木が灰色の塀の上から突き出ている。
そしてその塀のある道が、やはりカーブになりながらずーっと続いているのが、ヘッドライトの向こうにぼんやり見える。
それまで賑やかだった二人が急に黙ってしまった。
「気持ち悪い道やね。なんか出そう」
私がそう言うと、K子ちゃんが、「この向こうは神社なんです」
「神社かぁ。だから人気がないんだ」
「中学生のとき、部活動で遅くなったときなんかはこの道が怖くて、思い切り走ってました」
わかる気がする。
こんな陰気な道、まして夜にはできるなら通りたくない。
そしてその夜は、無事皆送り届けてもらったのだった。
後日。
何となく私とK子ちゃんの話題は幽霊の話になった。
実はK子ちゃんは、結構霊感が強いらしい。
死んだおばあちゃんが台所に出てきてお茶を入れてくれと言うので、「何か変だな」と思いながらもお茶を入れて、おばあちゃんの前に置いたという。
しかしその後で、おばあちゃんは死んだはずだということを思い出して怖くなって家から飛び出した。
K子ちゃんが戻ってきたとき、母親がテーブルの上のお茶を指差して、「これ何?」と聞いたそうだ。
「それでね、先輩、こないだ車で通った神社の道、あの道で私、怖い体験したんです」
私は、あのとき黙ってしまったK子ちゃんを思い出した。
「どんな怖い目にあったん?」
「中学生のときです。
やっぱり部活動で遅くなって、あの道にさしかかったとき、
カーブになった先のところに女の人がいて、こっちへ歩いてくるんです。
白っぽい服を着ていて、髪の毛がすごい長くって、
ゆっくり歩いているけどぜんぜん生気がないんです。
もし、この世に幽霊がいたらあんなだろうなーと思いながら
通り過ぎようとしたんです」
私は想像した。なるほど、怖いだろうな。
なにしろ、あの道だ。
「それで……よせばいいのに、私、その女の人の横を通り過ぎるとき、
振り返っちゃったんです。
そしたらその女の人の顔……、
顔は正面なのに
両方の目の玉だけをぎゅーっとこっちに向けて私を見てたんです。
――こんなふうに」
そうして彼女は両目の瞳を思いっきり左に寄せて私を見た。
その女性は、果たしてこの世のものだったのだろうか……?
全七話という予定でしたが、最後に締めの一話を入れます。
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