第五話 のぞく女
第四話でお話した家で経験した怖い話の続きである。
そんなわけで、この家にお化けが出ても不思議ではないくらい、この家は荒れていた。
いちおう使っていた台所でさえ、ある日死臭がするので置いてある大きなポリバケツの中をのぞくと、ねずみが腐って半分ドロっていたり。
しかし若さゆえか、私たちが食欲を失うことはまったくなかった。
だいだい家全体が(八畳間を除いて)死臭に包まれていたような気がする。
猫が死んでいたという、その名残であろうか?
また、例の押入れに置かれた日本人形だが、これがたしかに後ろを向けておいたのにふと見ると前を向いているのである。
最初は気のせいかと思ったが、試したのはどうやら私ひとりではないらしく、「やっぱりーィ?!」ということになった。
さらに、唯一住める八畳間も安全ではない。
この部屋の壁にはお坊さんの姿が浮き出ている。
リーダーは、「このお坊さんはここを守っている人だから心配はない」と言った。
だがある日……。
ついにこの部屋にもねずみが出るようになったので、何とかしようという話になった。
ねずみはどうやら、押入れの上の開いている天井からやってくるらしい。
六畳のほうの押入れの天井も抜けていたので、そちらも板をあてがってふさぐことにした。
はたしてそれは、身長のある私の役目となった。
六畳間のほうは難なく終わらすことができた。案外簡単だった。
ところが……。
八畳間の押入れの天井をのぞいたとき、私は実に嫌な感じを受けた。
空気が違う。
重くて暗い。
上に何か..の存在を感じる……。
ただの気のせいだと自分に言い聞かせて、私は押入れに入った。
膝をついて板を上にあてがおうと顔を近づけた。
とたんに、なぜだかものすごい怖さが背中をぞっと走った。
私はそれ以上、その姿勢を続けることができなかった。
「うわぁ〜〜っ!!」
私は声をあげた。
私だけじゃなかった、下にいる皆も怯えている。皆も何か..を感じているのだ。
一人の子がすっと逃げていった。
でも私は逃げるわけにはいかない。両手で重い板を支えているのだ。
はやくこれをふさいでしまわねば。
"嫌だ〜っ、怖い〜っ、うわぁ〜っ。"
なんとか叫びながらも、私は役目を終えた。
しかし何だったのだろう? あの怖さは。
天井は、ふさぐともう、どうということもなかった。あの重苦しい空気は消えていた。
「ちょっとー、何よ。さっきはさっさと逃げちゃってさ。」
私はその子にグチった。
すると彼女は気づかなくてよかったのよ、というような目をして言った。
「さっき天井に顔近づけたときね、言ったらあかんと思って向こうに行ってんけど……、
――上から女の人がさかさまにのぞいたのよ」