決戦の手前で
「よく来たな、勇者とその仲間たち」
いつまでも続くような長い廊下を走り続け、ようやく扉についたと思ったとき、そのやけに張りのある声が勇者一行の足を止めた。
扉の前にいたのは魔王の側近にして悪魔元帥の異名をとる、魔王軍の実質ナンバー2の男だった。
「生きていたのか、デウス。これで二回目だな」
勇者は剣を抜き、デウスと呼ばれた男にその剣を向ける。それに応えるように女剣士も剣を抜き、魔女は杖をとった。
「我はこの命を魔王に捧げた身。魔王サタンに仇なす者がいる限り、何度でも蘇る」
「しつこい男だな」女剣士は前に出る。「勇者は先に行け、今度こそトドメを刺してやる」
女剣士が前に出るとデウスも鞘から剣を抜いた。「ここを通りたいのか?」
「当然でしょ。私たちは魔王を倒して平和を取り戻す」
「そうか。だが、それは困るな」
「だったら何?哀願でもするの?」
「いや、それよりも女剣士、俺と結婚してくれ」
「ええそうね、私たちは敵同士。どちらかが倒れるまでってうおいッ!いきなり何言っているのよッ!」
「結婚してくれって言った」
「知ってるわよ!何回も言うな!」
「いや、だってお前が言えっていったから……」
「うるさいわッ!だいたいなんで急に結婚なのよ!あんた空気読めてないんじゃないの!」
「そんなことわかっている!だが、前回お前にやられたときから、お前のことが頭から離れないんだよッ!こんな気持ちは初めてだ。今まで寝ても冷めても魔王様のことしか考えていなかったのに、今ではお前のことが気になって夜も眠れないッ!どうしてくれるんだッ!」
「し、しししし知らないわよッ!私にどうして欲しいっていうのよッ!」
「俺は、俺は君が好きだ。だが、魔王様は裏切れない。だから選んで欲しい」
「な、なにを?」
「魔王様から手を引くか、魔王様を倒す代わりに俺と結婚するか、どっちかを選んでくれ」(`・ω・´)
「(゜Д゜) はあああああああッ!」
「俺はもう君とは戦えないッ!君が好きなんだッ!ここを通りたいなら結婚しろッ!できないなら通るなッ!愛も語れない奴が世界平和なんてぬかすなッ!」
「なによそれッ!最後の関係ないじゃんッ!あんたの都合じゃんッ!」
「あの、すいません」
勇者がおそるおそると声をかけると、同時に
『なんだッ』『なによッ!』とハモった。
「なんか、二人とも忙しいみたいんなんで、僕ら先に通ってもいいですか?」
「ダメだ。女剣士がイエスと応えるまで何びとも通ってはならない」
「……ノーって選択肢は?」
「そんなものは用意していない」
「……しなさいよ」
ポツリとそう呟くと、甲冑着をカタカタと震わせながら女剣士は続ける。
「その、ちなみに魔王を討伐した後はどんな仕事をされるのですか?」
「乗り気じゃん」女魔法使いが冷静に突っ込むと、カッと女剣士は睨みつけてきた。怖い。
「うっさいわよ、女魔法使い。あんたわいいよね。まだ十代だし。私もう26なんだよッ!魔王軍と戦う前はまだまだ若かったのに、今じゃ四捨五入したらもう30よ!」
「え、お前26歳なの?21歳って言ってなかった?」と勇者が突っ込みをいれると「サバ読んでたのよッ!」とすかさず女剣士は切り返した。やっぱり怖かった。
そんな女剣士をフォローするように、デウスは言う。「黙れ小僧ッ!26歳は、俺から見れば最高の年齢なんだッ!」
「もうやだよ、この人たち」女魔法使いはジト目で女剣士と魔王の側近を見て、呟く。「もういいよ。早く付き合っちゃえよ」
「ああンッ!お互いのことまだ何も知らないだろッ!」なぜか女剣士が突っかかってきた。「いい?私はもうお遊びで付き合えるような年齢じゃないのよッ!もしもこれで失敗したらどうするのよッ!三年たって、やっぱり合わなかったねってなったら29歳よッ!世界が救えても私が救われないわよッ!」
女剣士は意外と現実派だった。
「女剣士よ」デウスは剣を鞘に戻し、女剣士に近づく。「うち、実家が旅館を経営しているんだ。魔王様が滅んだらそこで働こうと思う」
「え?うそ。意外と安定しているのね。ちなみに、ご両親はご健在?」
「ああ。だが安心して欲しい。両親にはもう君のことを話してる。きっと気に入ってくれるよ」
「そ、そうかな?私の料理、お口にあうといいんだけど……」
「美味しいに決まっている。ただ、まず先に俺に食べさせて欲しいかな」
「デウス」
「女剣士」
二人はお互いに寄り添い、そのまま付き合ったとさ。
……え、魔王はどうなったって?さあ?勇者に倒されたんじゃないんですか。
私はどうせ十代のただの魔法使いですから、
大人のことはよくわかりませんよ。(・ω・`)