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 思えば、自分は就職活動や内定というものに拘り過ぎていたのかもしれない。


 将来の道は、いくつもある。

 一年目の就活に失敗しても、また来年がある。

 いきなり正社員の内定を目指さなくても、厳しい道かもしれないがまずは非正規で働き正社員登用を狙う方法もある。


 それに、たとえフリーターだって生きてゆくことはできるのだ。


 小説や漫画を描いて、作家を目指すのも良いかもしれない。

 簿記や宅建や司法書士などの資格勉強に専念しても良かった。

 お金を貯めて、起業し独立する道もあった。

 公務員を目指すのもありだ。


 物価の安い国へ留学して語学を身につける。

 あるいはインターンシップで職場体験をする。

 さらには世界放浪の旅に出ても良かったのだ。


 ボクの就職活動は完全に行き詰っていたようにみえた。

 しかし、いくらでも道はあったのだ。


 選考に落ち、追い詰められるごとに自分の視野が狭くなり、がんじがらめに就職活動に縛り付けられていった。


 もしも自分に友がいれば、仲間がいれば、こうなってしまうのを防げただろうか。


 否、どちらにせよ、手遅れだったのだ。

 ボクの物語はバッドエンドで終止符が打たれた。



「ナメくん……」


 やがて、自分の身体が、意識が遠のいてゆくのを感じた。

 頭のなかが真っ白になってゆく。

 何も考えられなくなってゆく。


 成仏の時が訪れたのだろう。

 一刻の猶予もない。


「マイ……、伝えて欲しいんだ……。ボクの生きた証、それを……」

 懸命に声を絞り出す。

 伝えなければならない。

 最後の使命として。



「これから……就職活動をする人へ……十五卒の学生たちへ……」

 息を大きく吸い込む。

 吐き出した途端、ふっと意識が消えてしまいそうだった。



「就活なんてつまらない理由で……死んだら駄目なんだ。……道は必ずある、生きている限り……。生きて、いる限り……」


 限界だった。

 目の前の空間が朦朧とぼやけてきた。


 マイのレインコートが、真っ白な世界となって眼前に広がる。



「わかった。ナメくんの言葉はぜったいに伝えるから、約束だよ。だからもう、眠っていいの。少しの間だけど、ナメくんと一緒に過ごせて、楽しかった」



 ふっ、とマイのぬくもりが一瞬浮かんで、消えた。



 ボクは、行かなければならなかった。



「ありがとう、マイ」





《就活自殺――14卒無い内定――》【完】



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