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 ***** *****



 その日ボクは、マイの紹介を受けてハローワークに来ていた。


 新卒応援ハローワーク、そこはグランフロントという名前のビルの地下二階にあった。


 恐る恐る会場に足を踏み入れると、職員さんが出てきて笑顔で挨拶してくれた。



「Welcome to the Underground ! ようこそいらっしゃいました。私はハローワーク担当の円間と申します」


 エンマと名乗った彼女はまだ若く、少女のような雰囲気を醸していた。

 漆黒のスーツに肩までかかる長い髪がすっと闇に溶け込んでいる。

 眼鏡の奥の瞳には、鬼灯の紅い光が煌く。

 彼女は本当に人間なのかと思った。


 ハローワークまたの名を公共職業安定所。

 社会の理から外れた彷徨える者たちを招喚し、法人格を持った機関への斡旋を行う。


 世界の歪みを調律することを目的とした国家直属の特務組織、それがハローワークであった。



「それではさっそくですが、あなたの適性を見極めるために、模擬面接を行いましょう」


「えっ、これからですか」

 円間は屈託のない笑みで、はいそうですよ、と答えた。



 ボクは彼女に連れられ、地下十三階の会議室に足を運んだ。


 ひんやりとした冷気がドアの隙間から漏れ出ている。

 ごくりと唾を飲み込む。



「では、私は面接官の役をやりますので、ふつうの就職活動のときと同様、本番のつもりで挑んでくださいね。ちなみにあなたが入社するのは《有料老人ホーム》という設定でいきましょう。介護業界は需要高いですからね」


 円間はさらさらと説明を終えると、ポカーンと立ち尽くすボクを置いて、ひとりで会議室に入ってしまった。



 ガチャン、と無機質な音を立ててドアが閉まる。


 そうか、もうこの瞬間から就職活動は始まっているのだ、と悟る。

 よし、頑張るぞ。今度こそ絶対に内定を取ってやる。


 リクルートスーツの裾をピシッと伸ばし、それから首元のネクタイの位置を調整し、大きく深呼吸をした。


 ボクはこれまでに百社からのお祈りを得た、歴戦の騎士なのだ。

 面接は場慣れしている。無いのは内定だけだ



 トン・トン・トン、キャベツを千切りにするときのような小気味の良いリズムで、ドアを三回ノックする。


「どうぞ、お入りください」


 中から声が聞こえたので、静かに扉を開ける。


 大学名、学部名、名前を述べて、よろしくお願い致しますと頭を下げた。席に着くよう促されたので、一礼して側のパイプ椅子に腰をかける。


 一メートルほど離れて向かい合う位置に、円間も着席した。


 顎を引き、背筋をピンと伸ばす。しんと張り詰めた緊張と冷気が部屋全体に広がる。



「では、五分ほどで自己紹介をお願いします」


 円間が口火を切った。


 始まりの合図だった。



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