3
***** *****
「ねぇねぇ、ナメくんは、かなえたい夢ってある?」
ある日、幼女のマイは屋台で買った鯛焼きを頬張りながら、そう聞いた。
何週間、否、何ヶ月か経った頃、ボクとマイがすっかり仲良しになった頃の話だった。
「うーん、そうだなあ……ボクは生物学者になるのが夢だったんだ。ナメクジの研究をしたいと思っていたんだ。あ、わからないか。生物学者……、うーんと、博士、研究者、わかるかな?」
「うん、わかるよ! ナメくんは、ナメクジがだいすきだもんね」
マイが優しく微笑んだ。
そうだ、ボクの将来の夢は生物学者だったんだ。
文系の大学に入ったものだから、今まですっかり忘れてしまっていた。
あの頃は、高校に入学した頃の自分は、情熱に溢れた学生だった。
高校一年生で京都大学理学部の赤本を買って、休み時間になると訳も分からないまま赤本のページをめくった。
クラスメイトから嘲笑されても、疎外されても、孤立しても、ボクは決して諦めない、
――諦めないものだと思っていた。
自分を信じられなくなってふさぎ込むようになったのは、高校三年のときだった。
「ナメくんの夢は、かなったの?」
「ううん、駄目だったよ。やっぱりボクは、馬鹿だったからな」
ほうら、やっぱりあいつは馬鹿だった。
二十歳の同窓会のとき、名前も忘れた誰かがそう言った。
「あたしがナメくんの夢、かなえてあげよっか」
「えっ」
鯛焼きを食べ終えたマイは嬉しそうに、その場でくるくると回転した。
白いレインコートがふわりと宙に舞う。
その日は晴天だったが、マイはいつもこの衣装なのだ。
「ふふ、あたしがナメくんの未練を断ち切ってあげるっていってんの」
「……!?」
未練を断ち切るだなんて、そんな難しい言葉をマイはどこで覚えたのだろう。
彼女はまだ小学一年生で、シュレーディンガー方程式をやっと解けるようになったばかりだというのに!
「だからさ、ナメくんの抱えている一番の未練を教えてよ」
マイは大人びた口調で、姉が弟を見守るような目で、言った。
未練、か――。
ボクの頭にはそのとき、四字の言葉がよぎったのだ。
《就職活動》
「そうだな、就職活動……だな」
ボクは就活生だった。
十四卒無い内定の、就活生だった。
マイと川原で出会ったあの日、ボクは百通目のお祈りメールを受け取った。
就職活動を通して、ボクは百回の祈りと拒絶を受けたのだった。
大学のガイダンスにも出席した。
自己分析やSPIの対策も行った。
履歴書を何度も書き直して、腱鞘炎にもなった。
ボイスレコーダーに向かって、声が枯れるまで自己PRの練習をした。
何故だ、どうして自分は内定が貰えないんだ。
サークルに入っていないからか、バイト経験がないからか、偏差値の低い大学の文系学生だからか、友だちがひとりもいないからか。
何度も自問自答した、地獄のような日々。
「ねぇ、ハローワークにいこうよ」
マイがふわりと小さな手のひらでボクの手を包んだ。
***** *****