viii.
占いはそれで終わりだった。
かなりシンプルだ。かつ抽象的。あとは自分で考えろということ?
仕方がない。どのみち、私の問題は私だけのものにすぎない。
仕切られたスペースから出て行くと、菜摘たちが待ち構えていた。
「ね、ね、なんていわれた?」とつついてくる。
私は首を振ってみせた。
「よくわからなかった」
「なんのカードが出たわけ」
「──死神」
「げっ、最悪」
なにが最悪ですか、誰のせいよ──私はまた八つ当たり。もちろん内心でだ。
「じゃ、そろそろ帰ろっか」
人の気も知らず、咲帆がのんきにいう。
「あ、じゃあこれ。どうぞ」
店長がレジカウンターから出てきて、店の名前と電話番号が入ったカードを私たちに配った。ぜひまた来てね、とにっこり笑う。
いわれなくても咲帆と菜摘は来るだろう。二人は店長より店員の彼の方を見て頷いた。
「店長さんさ、すっごい里央のこと見てたよね」
店を出ると、菜摘が笑いながらいった。
「そうそう。美少女だね、とかいってたもんね」
「美少女って、よく考えたらマンガみたいな言葉だよね。っていうか、なんかやらしい」
「それよか、あの人かっこよかったでしょ」
「うんうん、広沢さんっていってたよね」
「ソウって、名前もかっこよくない? かなでるっていってたね。どんな字だっけ」
「演奏の奏じゃない」
「だからどんな字」
勝手にしゃべりまくる二人は、なんとすでに店員の彼の名前までチェック済みだった。
おそらく店長から情報収集したのだろう。大したものだ。名前を訊いたところで、どうなるものでもないとは思うのだけど。
二人はそのまま駅に向かう。友人たちと別れた私は、またしても、『とぼとぼ』という足どりで歩いた。
家はすぐそこだ。視線のことを思うと外をうろうろしたくもないけど、家に帰ることを考えても気が重かった。さっき見た骸骨の絵が目の前をちらついて、いっそう気持ちが沈んだ。
店員の彼の言葉を思い出す。
状況がよくなる。
もちろん、そうなればありがたい。だけど実際にどうなってほしいのか、それは自分でもよくわからなかった。
あの視線の男は、いなくなればほっとするだろう。
といっても、突然いなくなっただけでは、おそらく安心できない。今後安全だという保証はまったくないのだ。いつまた、とびくびくしているのでは同じことだ。
家族のことにしても──今日帰ったら、母と姉が、『やっぱりお祖父ちゃんの家に行かないことになったから。ここで暮らすわ。今までごめんね』とか?
それでほっとできるだろうか。
できるはずがない。
今までのことをなかったことにして、これからは平和なごく普通の家族として暮らす?
無理に決まっている。
それに私自身のことだって──。
私は立ちどまった。また視線だ。
まさか。
私は周囲を見まわしながら思う。
あの男、ずっとこの辺りで待っていたとか。
恐怖で身が竦んだ。周りを見ることがためらわれた。動悸が激しくなり息苦しくなってくる。
胸に手を当てて、ぎこちなく辺りを見た。男の姿はなかった。だけど視線はまだしつこく感じられた。
気のせいかもしれない。もうよくわからなくなっていた。私は駆け出して家に飛び込んだ。