vii.
彼は小さなテーブルを挟んで向かいに座った。
テーブルの上にはカードが置かれている。これがタロットか、と私は思った。
占いは、ほとんどしないので詳しくない。だけどタロットには、得体の知れない怖いものという印象があった。
「占いで答えが出るんでしょうか」
思わず訊いてしまう。
「答え」
「私の、問題」
「問題。困っていることとか」
私は俯いた。
困っていること。家のこと、視線の男のこと、それから──。
どれも、どう頑張っても変わりそうにないことばかりだ。私は口ごもった。
「いいんです。すみません」
「今抱えている問題がどういうふうに変化するかなら、占うことができると思うけど」
「変化しないとしたら」
「そうだね。変化しない、って答えがでることもあり得るね」
「変化するかもしれないってこと」
「それは占ってみないとわからないけど」
私は黙った。
変わりそうにないそれらが、変化する可能性なんてあるんだろうか。
「試してみる?」と彼。
私は小さく頷いた。
彼はカードを手にとって、テーブルの上に広げた。
「じゃあ、その問題について考えながら、左手でカードをよくかきまぜて。全部のカードに手を触れる感じで」
いわれたとおりにする。問題といっても、ありすぎてひとつに絞れない。頭にいろんな映像が浮かぶ感じだ。こんなので本当に占えるんだろうか。
手をとめると、彼は、いい? と問うた。私が頷くと、カードを集め、それを三つの山に分けた。
「すきな順番で重ねて」
いわれるまま、適当にカードを重ねる。
彼は、またひとつになったカードの束を持って、上から一枚ずつテーブルに置いていった。何枚目かで手をとめる。それを裏返して私の前に置いた。
私はカードを手にとった。逆さまだ、と思う。だけど、なにが描かれているかはすぐにわかった。
目眩がしそうになった。タロットについて知らなくても、それがよくないものだということは誰にでもわかるだろう。
骸骨。手に持っているのは鎌ではないか。そして、逆さまでもすぐ意味のわかる『Death』の文字。
私は愕然とし、身体が震えそうになった。
今の状況でこのカードって。ひどすぎる。というよりも、状況にはまりすぎている気がして怖かった。視線のぞっとする感じや、あの男のことが思い出された。まさか、あれはストーカーとかそういうもので、私はあの男に──カードが手から滑り落ちた。
「リヴァースだね」
彼はいって、カードを拾った。
その声に、なぜか骸骨や『Death』には相応しくない嬉しげな色が滲んでいたように感じられて、私は彼を睨んだ。
「なんですか、それ」
「うん、死神なんだけど」
やっぱり。
どう見ても幸せの象徴という絵ではない。なにしろ『Death』だもの。
ますます肩を落とす私に、彼はいった。
「でも逆位置だから。いい意味だよ。状況が好転する。新しくなにかが始まる。そんな感じ」
いい意味? これが?
「よくないことが終わる、ってこと?」
彼は頷いた。
「なにか思い当たることない」
私は力なく首を振る。
「ありません」
あったら占いなんてしていない。いや、ないからするのかな?
よくわからないけど、占ってみたところでやっぱり、なんにも変わりそうにはなかった。むしろ、不安が大きくなっただけという気もする。
「あの、私、死んだりしないでしょうか」
馬鹿みたいだと思いながら訊いた。
「大丈夫だよ。状況はよくなる。カードはそういってる」
彼は、手にしたカードをじっと見つめていた。