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異界の住人たち  作者: misato
Ⅰ.死神~闇のストーカー
7/53

vi.

 扉から出てきた男の人が、カウンターの下からエプロンをとり出して着け始めた。

 あれ、と私は彼をじっと見る。

 一瞬、また別の店員が現れたのかと思ったけど──あの人だ。

 無精ひげを綺麗に剃り、服も着替えている。七分袖のプリントТシャツにジーンズ、首にはストールを巻いていて、さりげないけどお洒落な雰囲気だった。

 そうして見ると、さっきの印象よりずっと若い。私たちよりは多少年上だろうが、『おじさん』ではなく『お兄さん』という方が相応しい。こちらに向けられた横顔には疲れたような影はもう窺えず、やけに爽やかな感じだ。菜摘たちが騒ぐのも頷ける気がした。

「あの、私たち、占いしてほしいんです」

 菜摘がついと前に進み出ていった。

 私たち。嫌な予感がした。

 店員の彼が菜摘を見る。

「どうぞ、どうぞ」と店長がいった。

「じゃあ、こちらへ」

 店員の彼はレジカウンターの脇を示した。一角がパーティションで仕切られている。そこが占いスペースらしかった。

「あたしが一番ね」

 菜摘が、私と咲帆を順に見た。

「次はどっちか決めといて」

 やっぱり。

 菜摘は、にこにこしながら仕切りの陰に消える。私はうんざりした。

「私はいいよ」

 咲帆にいった。

「別に占いたいことないし」

 知りたいことはある。山ほどある。だけどたぶん、占いで答えは見つからない。

「じゃ、あたしがしてもらってる間に考えなよ。里央は三番目ね」

 いや、占いたいことはない、っていったんだけど。聞こえませんでしたか? 

 私はまたため息をつく。

 めんどくさいなあ。だいたい、なんだって占いなんかしてるんだろう、とあの店員の彼が恨めしくなる。もちろん、八つ当たりなのはわかっていた。

 菜摘は思ったより早く占いスペースから出てきた。もっと時間をかけてやるものかと思っていたけど、案外スピーディだ。いったいどんな占いをするんだろう。

 彼女はなにかよいことをいわれたようで、先ほど以上ににこにこしていた。

 続いて仕切りの陰に消えた咲帆もじきに出てきた。こちらはしょんぼりした顔だった。

 おや、と思う。どうやら、よいことばかりいって喜ばせるというわけでもないらしい。女子高生相手に、なかなかシビアだ。

「大丈夫?」

 菜摘が咲帆の表情を窺っていう。

 咲帆は首を振ったけど、

「でも、あの人のいうとおりだと思う」

 小さい声でいって、

「うん、あたし頑張る」

 と一人で頷いた。

「そうだよ頑張りな、よくわからないけど」と菜摘は応じた。

 じゃあそろそろ帰りましょうか、と私は心の中で提言してみる。

 もう充分堪能したよね? 

 残念ながら、彼女たちには通じない。二人はそろって私を見た。

「里央の番だよ」

「私はいいって──」

「だーめ」

「そうそう、皆でしてもらうの」

 なんで皆で、なの。

 女の子たちのこういうところが、私は本当に苦手だ。それでも彼女たちには逆らえない。背中を押されて占いスペースに入れられた。

 中にいた店員の彼は、困惑した様子だった。今の騒ぎを聞いたからだろう。

「あの、強制じゃないからね」

 彼はいった。

「嫌なら、無理にしなくても」

「いいんです、別に」

 私は憮然として答えた。

 彼は更に困る。

 当たり前だろう。占いは占われる人の主体性が必要なものだもの。投げやりな態度で応じられるなんて、占い師からしたら迷惑以外のなにものでもない。どう考えても、とんでもないお客だ。

 その上、私ときたら、さっきのお礼もいっていなかった。礼儀知らずもいいところだ。

 私は彼を見上げた。

「あの」

 せめてお礼くらいはいわなくては。

「さっきは、ありがとうございました」

「ああ、うん」

 彼はまた、なにか問いたげな顔になる。切れ長の目に今は穏やかな光を漂わせ、私を見ていた。

「とりあえず、座る?」

 目の前の椅子を示す。

 私は肩を落として、そこへ掛けた。

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