v.
やがて、外の二人が店に入ってきた。
私の友人二人はとっておきの笑みで彼ら(というか彼)を迎える。
いらっしゃいませ、とウインドブレーカーの彼は愛想のよい微笑みで彼女たちに応えた。
その顔がやっぱりなんだか疲れて見えるのは私だけ?
これがワイルドというものなんだろうか。
彼が私の方を見た。また怖くなって、下を向いてしまう。
彼はこちらに近づいてきて、大丈夫ですか、と小声で訊いた。そういえば倒れそうなところを支えてもらったんだ、と思い出す。
私は黙って頷いた。彼も軽く頷く。なにか問いたげな様子にも見えたけど、結局はなにもいわず、店の奥へと消えた。
友人二人が、なんだ今のは、といいたげな表情を浮かべた。
彼はあの男を見たんだろうか。小路の方を気にしていたから、そうなのかもしれない。
だけど彼が見ていようがいまいが、事態はさして変わらない。どちらでもいいことだ。それより、これからどうしたらいいんだろう。
怖いけど、よく考えてみればあの男はただ見ていただけだ。見ていたというだけでは誰にもどうしてみようもない。警察にいったって相手にしてくれないだろう。きっと咲帆たち同様の返事が返ってくるだけ。
第一、見られることは今までだって散々あったじゃないか。ずっと無視してこられたのに、どうしてあの男だけこんなに怖く感じるんだろう。やっぱり神経質になっているんだろうか。
とにかく今日は明るいうちに帰ろう。幸い、ここは家から近い。考えてもどうにもならないことだ。私はそう思い込むことにした。
咲帆と菜摘は店内を物色しながらエプロンの店員と話をしていた。店長、と彼女たちは彼を呼んでいた。あの人がこの店のオーナーもしくは雇われ責任者ということか。おじさんとは思うが自分の店を持つ年齢にも見えない。おそらく後者だろうと勝手に考えた。
アジアンテイストな装飾が施された店内は、外光がほとんど入らず薄いオレンジ色の灯りが点されていた。天井の照明の他にもライトがあちこちに置かれている。 それらの光が、飾られた東洋風のガラス小物やパワーストーンやアクセサリーに反射して輝いていた。辺りには微かに甘い香りが漂っている。お香らしかった。
三人の話に加わる気にはなれず、室内をうろうろしながら時折ドアの小窓から外を眺めた。
やっぱり気にはなる。だけど男の姿はないようだった。
そうこうしているうちに店の奥の方で音がして、レジカウンターの後ろの扉が開いた。咲帆と菜摘が同時にそちらを見る。二人の顔が明るくなった。