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異界の住人たち  作者: misato
Ⅲ.月~迷える少女たち
51/53

xvi.

「しかし、いまだにコピーを使ってたのか。あれで結界がもつんだから驚きだ。いくら扱いやすいからって」

 車に乗り込んだ後、お兄さんは呆れたような感心したような調子でいった。

「力の弱まり具合が丁度いいんだ。兄さんの霊符をそのままあれだけ使ったら、消耗しておれの方が先に参っちゃうよ。魔物どころじゃない」

「自分で作ったらいいだろう。それが一番使いやすいはずだ」

 お兄さんの言葉に店長は、うーん、と困ったような声を出す。

「手順が複雑だからなあ。おれの場合、ちょっとでも間違えたら効かなそうだし。コピーの方が確実な気がする」

「慣れれば大丈夫さ」

「そうかな」

「そうさ」

 車が出発する。

 私は後ろの座席から、会話する二人を興味深く眺めた。お兄さんと一緒だと、店長はいつもより子供っぽく見える。

「祥子さんのところに行って、また教えてもらえ」

 お兄さんがいった。

「おれのはもう自己流になってるから、基本なら彼女に訊く方がいい。この頃おまえが顔を見せないって、寂しがってたしな」

 店長は気弱な反論を諦め、うん、と頷いた。

 私はさっきの店長の話を思い出す。その祥子さんという人が親戚の祈祷師なのだろう。

 祥子さんかあ、と店長がいった。

「そういえば最近行ってないもんな。元気にしてる?」

「あの人は元気だよ。年のせいで最近疲れやすいわ、なんていってるけどな。あれは雑用を頼む口実だ。相変わらずさ」

「そんな年じゃないのに」

 店長は笑って、

「行ったら、兄さんの代わりに雑用を頼まれそうだね」

「断ればいいんだ、そんなのは」

 店長は苦笑する気配だ。

 断れると思いますか、この人に、と私は内心呟いた。確かにお兄さんなら、あっさり断りそうだけど。やっぱりこの二人、性格はかなり違うらしい。

 お兄さんが思い出したように、そうだ、といった。

「今度、家に顔出せよ。彼女たち、戻ってきたから」

 彼女たち、とは。

「ああ、そうか。へえ」

 店長が嬉しげにいって、

「子供が生まれたんだって。それで奥さん、ええと、里帰りか、してたって」

 振り返って私に説明した。

 お兄さんは妻帯者なのか。落ち着いた感じだものなあ。

「それは、顔を見にいかないと」

「写真、あるぞ」

「写真?」

「里央ちゃん」

 お兄さんは前を見たまま私に、

「そこに本があるだろう。中に写真入ってるからとってくれるかな」

 隣の座席に厚い本が置いてあった。とり上げて表紙を開くと、一枚の写真が挟まっていた。車内が暗いので、なにが写っているのかよくわからない。腕をのばして店長に渡した。

「明かり点けてくれる」

 天井の車内灯のスイッチを入れると、周囲がほんのり明るくなった。

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