iv.
私がすごい勢いで店に駆け込んだので、中にいた三人が驚いて一斉にこちらを見た。咲帆と菜摘と、もう一人は店員らしいエプロン姿のおじさんだった。
「里央」
菜摘が呆れ声を出す。
「そんな急がなくても。ドア壊す気? っていうか、外でなにしてたの」
「変な人が」
思わずいった。
「私を見てて──」
「なあに、またどっかの男の人」
「里央はねえ、仕方ないよ。私でも見るもん、きっと」
咲帆と菜摘はのんきなものだ。
そんなんじゃない、といいたかったけど黙っていた。こういう反応になることは予想がついていた。だから今までも黙っていたのだ。
「なに、変な人って」
さすがに店員の方は、儀礼的にか気にして、レジのカウンターからこちらに出てきた。店には私たち以外にお客はいなかったから、暇だったのかもしれない。
「待ってて。見てくるから」
ドアを開けて、外に出ていった。
私はドアにはまったガラス越しに、そっと様子を確認する。
ウインドブレーカーの男性は、まだ小路の方を気にしながらそこに立っていた。店員に声をかけられ、驚いて振り返る。それから、なにか話し始めた。どうやら二人は知り合いのようだった。
店員が戻ってきて、ドアから顔を覗かせた。
「変な人、いないみたいだよ。あいつは大丈夫。うちの店員だから」
親指でウインドブレーカーの人を示した。それから、また外に行く。
私は閉まったドアに、そっともたれた。身体中の力が抜けて立っていられない気がした。
「うちのって、そのかっこいい店員さんじゃない」
咲帆が菜摘にいい、二人は揃ってこちらに来た。ドアの小窓から外を見る。
「そうだよ、そう。あの人」
菜摘が満面の笑みで、
「やだー、無精ひげもすごくお似合い。ワイルドな感じで」
「ホントだ。かっこいいじゃん。素敵ー」
ものすごく嬉しそうだ。
じゃあ、あのウインドブレーカーが噂の店員?
私は彼の目に浮かんでいた険しい光を思い出す。
かっこいいというより怖い感じだったけど。
「里央ってば。今、あの人と話してたの」
羨ましげな咲帆の声。
話はしていない。首を振って、二人の肩越しにその人を見た。
「今日結構暑いのに、おかしな格好じゃない」
私がいうと、
「きっとジョギングでもしてたんだよ」
「そうだよ、鍛えてるんだよ」
二人は口々にいう。
この暑い昼日中に長袖でジョギング?
あり得ない。思ったものの、いつなにを着て走ろうが個人の自由ではある。私は肩を竦めた。
二人は熱心に外を覗き、餌を待ちわびる子犬のような目で、無精ひげの王子が入ってくるのを待っていた。