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異界の住人たち  作者: misato
Ⅲ.月~迷える少女たち
49/53

xiv.

「けどまあ確かに、これはなんとかしないとな」

 お兄さんは店長を無視して、外れたドアを見下ろした。

 入り口の空間に残った蝶番が引きちぎられたように捻れている。こんなに強い力で、と私は今更ながらぞっとした。

「また、ずいぶん派手にやってくれたものだな」

 お兄さんが感心したようにいう。自分がとがめられた気がして、私は小さくなった。

「ごめんなさい」

 お兄さんは笑う。

「君のせいじゃない。姉さんの声で呼ばれたんだろう。常套手段だ。君の口を塞いで押さえ込むとか、一旦眠らせるとかして、戸口に行かせない方法もあったろうけど、奏には無理だな。強引なこと、できない性質だから」

 眠らせるって、いったいどうやって? 

 私は瞬きをして聞かなかったことにした。

 見た目は似ているものの、やはりお兄さんは、店長よりずっとクール且つ合理的な考えの持ち主らしかった。

 彼は屈んでドアを持ち上げると、壁に立てかけた。もう一枚もっていたタオルで手を包んで、注意深く残っているガラスの破片を叩いて落とす。壁から霊符のコピー紙を(苦笑して眺めた後で)はがすと、それで空いた空間を塞いだ。

「テープ、くれる」

 私はセロテープを切って渡す。

 作業を続けながらお兄さんは、そういえばまだ名前聞いてなかったね、といった。

 そうだった。

「里央です。斎木里央」

「おれは広沢慧。奏の兄です。よろしく」

「はい、よろしくお願いします」

 私は礼儀正しく頭を下げた。

 が。

「奏とつきあってる?」

「は?」

 いきなりの質問に、不躾な反応を返してしまう。

「いえあの、私」

 なぜかしどろもどろになるのは、さっきあんなふうに泣いてしまったことを思い出したからだ。

 後ろから店長が口を挟んだ。

「兄さん、失礼だよ。彼女はここのお客さんさ」

 失礼って、いったいなにがどう失礼なんでしょうか。

「まだ高校生なんだ。おれみたいなおじさんとはつきあわないよ」

 あ、そういうこと。そういえば、そう思ったこともありましたっけ。

 ほんの一瞬じゃない。結構根に持つタイプだったんだ、店長。

「奏でおじさんか。まあ、十代じゃ無理ないな」

 お兄さんは微かに笑って、

「何年生」

「一年です」

 っていうか、それよりも。

「私、おじさんなんていってないです」

 口をとがらせていった。いってないのは事実だ。

「思ってもいませんから。ホントに」

 今は、だけど。

「ふーん」

 お兄さんは私の言葉を妙なふうに解釈したようで、やけに楽しそうな目で店長と私を見た。

 誤解してる、絶対。

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