vii.
「それから、もし外から名前を呼ばれても返事しないこと」
「呼ばれる?」
「うん。君の姉さんの声で呼びかけてくることがあるかもしれない。でも姉さんはここには来ない。兄さんが、家にいるように指示しているはずだ。だから、声がしてもそれは姉さんじゃない。応えちゃ駄目だ」
わかりました、と私は頷いた。
そもそも姉は、滅多に私の名前を呼ばない。話もあまりしないのだから、当たり前だ。名前を呼ばれたら、姉でないとすぐ気づくだろう。
「あの、ひとつ訊きたいんですけど」
「なに」
「連中っていったようだけど、複数なんでしょうか」
「それはわからない。言葉のあやだよ。気にしないで」
はあ。
「まあ、君の姉さんは本当の術者じゃない。そういう人間が呼び出した魔物だから、それほど力は強くないと思う。どんなものでも、兄さんの霊符で当面は防げるだろう」
だろう、ですか、と思ったけど、これ以上訊いてもきりがない。私は質問をやめにした。
「まあ念のため、おれのそばにいて」
小さく頷いて、店長の近くに寄る。さっきの電話の声が思い出された。
強い憎しみ。悪意。死ねという言葉。なにか怖ろしい危害が加えられるのでは、という思いで身体が震えそうになる。
もしも、もしも殺される、なんてことにでもなったら。
しかも考えてみれば、店長はなんの関係もない。彼のお人よしをいいことに、軽い気持ちで頼って、一緒に店に籠ることにまでなってしまった。
どうしよう。
私ときたら、店長をこんなことに巻き込んで、また迷惑を。
「こら、変なこと考えない」
店長がいった。いつの間にか店長の腕に触れていたのだ。
考えたことが伝わってしまっただろうか。私は慌てて身体を引いた。
まったく、厄介な。
「別に巻き込まれたわけじゃないよ」
やっぱりわかってる。
「自分を責めることない。そういう感情も魔物の餌になっちゃうよ」
はい、と私は答える。少しだけ気が楽になった。
そうだ。今はとにかく、魔物につけ入られないように努力することが先決だ。




