表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異界の住人たち  作者: misato
Ⅲ.月~迷える少女たち
36/53

i.

 ごそごそという音で目が覚めた。

 音、というよりもしかしたら気配だったのかもしれない。小さな生き物が動く、ごそごそ、という感じ。また軒下に鳥が入り込んだのだろうか。時々あることだ。

 うるさい。日曜日の平和なまどろみを邪魔しないでほしい。

 けれど音はやまず、私は仕方なく目を開いた。

 途端に携帯電話が鳴った。表示を見ると相手の番号は『非通知』。

 なんだろう。出ようかどうしようか、と迷ったところで電話は切れた。間違い電話かな、と思ったところでもう一度鳴り出す。また『非通知』。

 私は眉を顰めて電話を見た。どうしよう、と思ったら、また切れた。『不在着信』の表示を残して電話はそれきり沈黙する。

 朝から(もう昼近いけど)いったいなんなの。

 すっかり眠気も醒め、私は起き上がった。ベッドから出ると少し肌寒く身震いする。カーテンの向こうには明るい陽の光が窺え、天気がいいみたいなのに。もう十月も終わりだっけ、と思っていたら、ごそごそいう音が一際大きくなった気がして、ぎょっとした。

 家の外から聞こえてくると思っていたけど、どうやら違う、らしい。

 私は上を見た。天井だ。音は部屋の上を移動する。廊下の方まで行った。そして、なにかが落下する気配。

私は慌ててベッドから下りた。部屋のドアを開け、廊下を見た。そこに小さな黒いものを見て驚く。それは、さっと廊下を横切り姿を消した。

 足の力が抜けそうになって戸口の縁につかまった。走り去ったものは、ねずみだった。全身に鳥肌が立つ。心臓がどきどきした。

 あんなものが家に。しかも消えてしまった。家の中のどこかに、だ。

 部屋のドアを閉め、急いで着替えた。いくら一人の時間が長いからといって、ねずみを放し飼いのペットにする気はない。見つけなければならない。

 でもよく考えたら、見つけたとして私に捕まえられるだろうか。ちょっと怖い。動きが速そうだし、こっちに向かってきたら嫌だし。それにねずみって一匹見たらその何倍かはいるって。あれ、それはごきぶりだっけ。

 考えていたら、気持ち悪くなってきた。なんにしても、闇雲に探し回っても無駄かもしれない。なにか道具が必要なのではないか。たとえば、ねずみ捕りとか。だけど、それがどんなものでどこに売っているのか、私にはさっぱりわからなかった。

 考えた末、父にメールしてみる。

 家にねずみが出たので、なにか退治するものを買ってきてください、と送ると、じきに、了解した、という返事が来た。

 それにしたって父が戻ってくるのは夜だろう。私はため息をつく。気持ち悪くはなったものの、やっぱりお腹はすいているし、一日この部屋に閉じこもっているわけにもいかない。そもそも、この部屋だって安全とは限らないのだ。仕方なく部屋を出た。

 先日来、二度も魔物なるものに遭遇し、ようやく平和が訪れたと思ったら今度はねずみだ。私ときたらつくづく運が悪い。

 ねずみが出るほど家を汚くしていただろうか。ゴミだって溜めないようにしているし、掃除だって週一回必ずしているのに。だけど掃除って、本当はもっと頻繁にするものだとか。考えつつ、周囲の様子を窺って恐る恐る一階に下りた。幸いというべきか、ごそごそいう音は聞こえなかった。

 もしかしたら、掃除の問題ではないのかもしれない。この家は祖父の代からある古い家だ。改築して、見た目はそれなりに綺麗な今風の家になってはいるけど、土台が古いのだから、どこかに穴やなにかがあってもおかしくない。

 軒下だって隙間があって、それで鳥が入り込んでばかりいるんだもの。それも父にいって調べさせよう。たまには父親らしいこともしてもらわなければ。

 周辺を見ながらリビングに入った。キッチンと続いているので部屋は広い。戦々恐々としながらソファやテーブルの下、クッションの陰等々を見て、なにもいないことを確認した。天井や壁も見たけど、はっきりわかる穴なんかはない。

 もっともねずみの大きさだ。一見わからない小さな穴でも出入りできるのかもしれない。しつこく調べても仕方ないか、と諦めて、とりあえず考えないことにした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ