表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異界の住人たち  作者: misato
Ⅱ. 吊られた男~寄生
34/53

xiii.

「以前の職場で同僚だったらしい」

 店長は思い出すように上方に視線を泳がせた。あの男に触ったときにわかったのだろうか。

「じゃあ、あの人も先生なんですか」

「そう。だからあんなところまで侵入できたんだ。学校の中って、だいたいどこも似た感じだろ」

 そうか。やっぱり、青山先生が普段よく準備室にいることを知っていて、やってきたのだ。かつての同僚であれば不思議はない。

 先生、本当に危なかったんだ。他人事ながら、私はほっとした。

「先生、今日いなくてホントによかったですね」

 結局先生は、あの騒ぎも魔物のことも知らず、怖ろしい思いもほとんどしないままだったわけだ。本当にラッキー。

 先生がどんな思いを抱えて占いをしたのかは知らないけど、この調子ならきっと悩みだって解決するに違いない、と私は一人で納得した。

「まあね。でもおかげで、君はまた大変な目にあった」

 確かに。

「まさか、お米で撃退できるとは思いませんでした」

 赤く染まったお米を思い出していった。腕に鳥肌が立つ。

「米は魔よけになるんだよ。知らなかった? 大昔からある古典的な方法さ。『今昔物語』とか『源氏物語』にだってある。古文で習わなかったかな」

「習ってないと思います」

 たぶん授業的古文では、あまり重要視されていない部分だろう。

「なんにしても、君も無事でよかったよ」

 店長は独りごとのようにいった。

 あ、私また、この人に助けてもらったんだ。そして、またお礼をいっていない。

 思い出して動揺した。慌てていう。

「あの、そういえば、ありがとうございました。また助けてもらって──」

「それは気にしなくていいんだよ」

 店長は優しく笑った。

 迷惑かけたのに、そんな笑顔を向けられると戸惑う。

 だけど私は、それであの人はいったいどうなったんですか、とそ知らぬ顔で訊ねた。

「うん、兄さんに後処理を頼んだ」

「後処理?」

「あのままにはしておけないからね。魔物を追い出さないと。でも人に入り込んだ魔物を追い出すなんて高度な技は、おれには使えないから」

「それで」

「ちゃんと追い出せたよ。魔物に入り込まれてからのことは覚えてなかった。おれたちを見て、ぽかんとしてたな。魔物がいなくなれば、本来のその人自身に戻る。元々は大人しい人だったらしいから、もう無茶はしないだろう」

 店長は肩を竦めた。

「だけど彼、すごく消耗して弱っててさ。兄さんが気にして様子を見てたら、やっぱり倒れた。救急車呼んだりして、ちょっとした騒ぎだったよ」

 救急車まで呼んであげたのか。

 そのお兄さんなる人も、やっぱり相当のお人よし──まあでも、目の前で人が倒れたりすれば、普通でも救急車は呼ぶか。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ