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異界の住人たち  作者: misato
Ⅱ. 吊られた男~寄生
30/53

ix.

「誰だ!」

 男が叫んだ。こちらを窺う気配がした。

「出て来い!」

 私は目を開いた。

 偉そうになに、と思った。侵入者はそっちじゃないの。

 怖がるのを通り越して、怒り出しそうになっていた。わが身の不運にうんざりしたというのもある。ここでこのまま隠れていても駄目だ。私はお米を一掴み握って立ち上がった。

 男はこちらを見ていた。いきなり私の姿が現れたので面食らったようだった。

「誰だ、おまえ」

 いいながら間を詰めてくる。苛立っているのがわかった。

 私は恐れ慄いた。怒るなんて、やっぱり無理な話だった。面と向かうと信じがたいほど怖かった。身体が固まって動かなくなる。男がこれ以上近づいてきたらどうなるのかと思って、再び身体が震え出した。

 が、男はなぜか急に立ちどまった。忌々しげに私を睨みながら、近づきたいのに近づけないという様子だ。目を見開いて私を見ている。

 正確には、私の、制服? 

 男の視線を辿って、ちらっと下を見た。

 なんだろう、と驚く。ポケットの辺りが白く光っていた。

 これって、もしかして霊符? 

 まさか、と思いつつ──そうだ、逃げる隙をくれる、って店長がいってたじゃないか。

 再び身体が動くようになった。私は腕を振り上げて、思い切り米を投げつけた。

 男は短い悲鳴をあげた。恐怖に駆られた声だった。顔を背け、腕で身を庇う。男に当たって落ちた米が赤く染まっているのを見て、私はまた驚いた。

 男はそのまま動かない。

 動きがとまったら逃げるんだ。店長はそういっていた。

 逃げなくちゃ。でも。

 腹の立つことに、男は入り口までの最短ルートの間に立ちふさがっていた。仕方なく、遠まわりの別ルートで調理台の脇をすり抜ける。

 入り口はすぐそこなのに、果てしなく遠く感じられた。男が動き出したらおしまいだ。霊符とお米の効き目はいつまで続くんだろう? 

 男がなにか叫び出した。罵声のようだった。

 怖ろしくて男の方を見ることができない。入り口の方で音がして、咄嗟にそちらに顔を向けた。引き戸が開き、そこに店長が立っていた。

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