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異界の住人たち  作者: misato
Ⅰ.死神~闇のストーカー
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ii.

 授業が始まると、私の心は再び暗く沈んだ。咲帆のいうところの『顔に線』状態だ。

 視線のことも気になるけど、本当はそれどころではない。明日、母が家を出て行くことになっているのだ。

 それはもう決まっていることで、考えたところでどうなるものでもないのだけれど、考えずにはいられない。

 私の両親は長いこと不仲状態で──というか私が見たところでは、父は特になにも感じておらず母が一方的に父を嫌っているようなのだけど──この度、離婚を前提とした別居生活というものを実行することになった。

 母はもうずっと前から耐えかねていたという。それでも子どもが義務教育の間は我慢していたのだと。私が高校に入ったばかりの頃、両親がそんな話をしているのを聞いた。

 父はぽかんとした様子で母になじられていたけど、さすがに離婚という言葉には納得しかねて怒り出した。そのときは話が中途半端に終わったように見えて、いつもの喧嘩なのかと私は思っていた。

 だけど、話は水面下ですすんでいたらしい。半年近く経って突然、母は実家へ戻るといい出した。それもごく当たり前の様子でだ。父も、もはや反対しなかった。

 私は驚いた。なによりも驚いたのは、母が、姉も連れて行く、といったことだった。

「お父さんも一人じゃ大変だろうし。子供が二人いるんだから、とりあえず一人ずつね」

 母はいった。意味がよくわからない。

「里香は、向こうだと学校が近いから。通学が楽な方がいいでしょ。この際だから」

 姉の通う高校は郊外にある進学校だ。確かに祖父の家からは近い。だけどいったい、なにが『この際』なんだろう。

 姉は私よりも早くから、これらの話を知っていたようだった。一緒に行くというのだから当然といえば当然だ。

 学校の成績が常にトップクラスで昔から母のお気に入りだった姉。私たちはあまり似ていない姉妹で、仲もそれほどよくはなかった。私は頭のいい姉がなんとなく怖かったし、姉は姉で私を疎んじた。目立つ妹で恥ずかしい、というのだ。

 確かに、よく知らない男の子が声をかけてきたり、家に電話をしてきたりとかしたことはある。だけど、いわれるほど目立つとは思わなかったし、たとえ目立っていたとしても姉のせいではない。彼女が恥ずかしがる必要はないはずだ。そういってやりたいところだったけど、もちろん口にしたことはなかった。

 とにかく私たちは、同じ家にいてもほとんど話すこともない姉妹だった。

 考えてみれば、おかしな家族だ。

 姉とだけではない。父にしても、朝早く仕事に出て遅くまで帰ってこない。長期の出張に行くこともしばしばで、話をするどころか、月に二、三回しか顔を見ないということもあるくらいだ。

 小さい頃からそんなふうだったから、私は特に違和感を感じたことはなかったけど、母にしてみればそんな夫はうんざりだったのかもしれない。

 いずれにしても私にはどうしてみようもなく、何度考えたところで、明日母は姉を連れて家を出ていく。

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